第八章 夜道



夕日が沈み、瓦礫の片付けがひと段落すると、街には薄暗さが広がっていた。

優子は抱えていた本をカバンにしまい、疲れた体を少し伸ばす。


「今日もありがとう、爽太くん」


硬い声で返す彼の顔に、少しだけ柔らかい影が落ちる。


「……いや、別に。片付けの手伝いだから」


その口調は相変わらず硬いけれど、どこか気遣いがにじむ。



二人は帰り道、瓦礫の間に残る影を踏みながら、言葉少なに並ぶ。

暗がりの中で、爽太は時折、優子の様子を目で追う。

疲れた背中や、咳き込みそうな肩、本の重さ――

普段は硬い表情を崩さなくても、気にしていることはすぐにわかる。


「……足、疲れない?」

爽太が小さく声をかける。


「ううん、大丈夫」

優子は微笑むように答え、少し肩の力を落とす。



石畳の道に出ると、街灯が淡く二人を照らす。


「夜は冷えるから、気をつけて」


硬い声のままだけれど、そこにはわずかに優しさが滲む。


「ありがとう……爽太くん」

優子は小さく笑い、少しだけ安心した気持ちを抱える。



その時、爽太はふっと口元に小さな微笑みを浮かべた。

普段は見せない、ほんの一瞬の柔らかい表情。

優子は気づくと、肩の力が抜け、心の中でふっと安心する。

言葉は交わさなくても、互いの気持ちがほんの少し通じた瞬間だった。


夜風が頬を撫で、遠くの街灯が二人の影を長く伸ばす。

瓦礫の街を抜ける夜道の静けさが、二人の心を優しく包み込む。



「……じゃあ」

「うん、またね」


簡単なやり取りだけれど、胸に温かさと、ほろ苦い切なさが残る。

本を通じて出会った縁が、夜道の静けさの中で、二人の心を少しずつ結びつけていた。

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