第七章 縁



翌日、優子は包帯を巻き直し、本を数冊並べた隣に座り込んで瓦礫と化した家を眺めていた。


瓦礫の向こうから爽太が学校帰りに顔を出した。

彼の胸には、あの祖父の知人から託された本が抱えられている。


「昨日は……その、怪我させて、ごめん」

爽太は少し気まづそうに頭をかく。


「大丈夫よ、もう。気にしてない」

優子は軽く笑った。だが心の奥には、昨日起こった出来事が微かに胸をくすぐる。


爽太はカバンを地面に置いて優子の隣に一緒に座った。


爽太が持っていたのは

祖父から託された本だった。


爽太は本を眺めている。

優子もまた爽太の本が祖母が大事にしていた本と同じだと気づく。

その瞬間、二人は互いに何かを感じていた。


日も傾き始めている

「片付けの手伝いしようか?」

「え?いいの?」

優子は驚きと安堵感が詰まった笑顔を見せた。


二人は瓦礫の山に向かい、並んで作業を始める。

互いに言葉を交わすわけではないが、自然と距離は近い。



「……本、僕のと同じだね」

爽太は小さく呟く。


「そう、祖母が大事にしていたの。ずっと探していたの」

優子も照れくさそうに笑う。


二冊の本が、偶然にも二人を結びつけていた。

爽太はそのことを少し不思議に思いながらも、心のどこかで安心感を覚える。


「本は人をつなぐんだな……」

小さな声で呟き、優子の表情をちらりと見る。


瓦礫の間、夕日が再び赤く差し込み、二人の影が長く伸びる。


本を通じた偶然の縁が、少しずつ距離を縮め、微かな心の通い合いを育てていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る