第4話 贖罪の誓い

朝日が差し込む前に、白雪姫は森の奥深くまで逃げ込んだ。


彼女は喉の渇きを満たしたはずなのに、心は飢えていた。身を寄せた古井戸の水面に映る自分の姿を見て、彼女は慟哭した。そこには、純真な姫の面影はなく、血に塗れた悪鬼の顔があった。


「私が……、私がやった……」


愛してくれた者たちの血を啜ったという事実は、彼女を永遠に苛む呪いとなった。


王子が残した「眷属として生きろ」という命令など、もうどうでもよかった。彼女に課せられた使命は、自分自身による贖罪だけだ。


「この血の呪いを、他の誰にも振り撒くものか」


彼女は震える手で、懐に忍ばせていた、祖母から受け継いだ銀の短剣を握りしめた。


「七人の、純粋な命を裏切った罪を償うため」


彼女の紅い瞳が、決意の光を帯びて夜の闇を貫いた。


「七人のこびとたちを、七つの血の罪で冒涜したこの手で、七人の闇に生きる者を狩り、その魂を奪い取る」


この誓いと共に、彼女の意識は、王子が去り際に残した、もう一つの断片的な記憶へと導かれた。


それは、真祖と呼ばれる最初の吸血鬼が、己の絶大な力を七つに分け、世界各地に君臨する「七人の王セブン・ロード」を生み出したという、夜の歴史の深淵だった。


彼女が償うべき七つの魂の代償は、たかが闇の眷属ではない。


「七人の王……。その血を断ち、夜の支配を終わらせる」


これは、王子からの使命ではない。誰にも聞かれない、白雪姫自身が己に課した、七つの強大な魂を巡る血の誓約だった。


この瞬間、「吸血鬼ハンター・白雪姫」が誕生した。彼女の狩りは、己の罪を清算するための、永遠に終わらない巡礼となったのである。

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