新しい朝が始まる(4)
オルスタッドの塔は高さ200メートルもある大陸全土で最も高い建造物だ。多くの人が訪れる観光名所の1つでもあり、"展望台"と呼ばれている。
上り下りには魔力を使った昇降機を使い、頂上と地上にはそれぞれ魔力を注ぐための術師が1名ずつ配置されている。
アリスの新しい魔術は見晴らしのいい場所で使った方が良いらしく、そのためにこの場所が選ばれたのだが……。
昇降機は有料。3人のお小遣いでは足りず、階段で、約30分かけて最上階まで登ることとなった。
「ぜぇ……、ぜぇ……。の、登ったぞぉー……」
最後の一段を登りきったロミオは四つん這いになり息を乱して動かなくなる。
「あ、ああ、足が!足が破裂する!」
太ももの筋肉がはち切れそうなほどパンパンになったカインは大の字で倒れた。
そんな最後の一段を登り切った彼らに対して、魔術師のアリスは――。
「はぁ……はぁ……。む……無理……。もうぜったいむり……」
階段を50段ほど残し、手すりにもたれかかったまま膝をついて力尽きていた。
昇降機で登ってきた大人達は、そんな彼らを見て「すっげぇ、この高さを登ったのか?」「子供って元気ねぇ」などと言って笑っている。
ちくちょう!お金にものを言わせやがって!大人ってズルい!
なんとか登り切ったアリスと共に、3人はベンチに座って体を休めていた。
地上と比べて強く吹く風が心地良い。
「はー……。あー……。ふっ……あはは。登ったね!」
一番ぐったりしていたアリスは、突然ケロッと回復すると、先ほどまでの弱音が嘘だったように、楽しそうに笑っている。
つられて2人も笑いながら
「もう絶対登りたくねぇ。今度来る時はお小遣い貯めてこような」
「同感。朝の水汲みお小遣い制にしようかな」
アリスは2人を見ると、一瞬だけ曇った表情をした後、走り出して言う。
「ほら!見て!登る途中も見たけどすっごい景色!」
僕たちも展望台のヘリにある手すりまで近づくと、アリスと一緒に外の景色に目を向けた。
遠くの方に壁のように山が並び、荒野を挟んで手前には四角形のオルスタッドの街並みが広がっていた。
「あの小さい粒々が建物なんだなぁ。ちょっと眩しいかも」
ロミオの言う通り、小さい粒々は屋根まで真っ白で、陽の光を跳ね返して輝いている。
さらに足元を覗くと……。
「はは……。下を見るとちょっと怖いね」
普段見上げる建物たちが、足元の遥か下にある。そんな非現実的な状況に足がすくむ。
僕は自分たちがいかに高いところにいるのかを実感した。
「カイン、ビビってんの?」
そう言いうロミオの膝はプルプルと震えている。
「……疲労ってことにしといてあげる」
「な!?ふ、震えてねぇし!疲れてるだけだし!」
隣のアリスを見ると遠くを見ながら少し寂しそうな表情をしていた。
風に揺られた黒髪が静かに
アリスはこちらの視線に気がつくと、ニコッと笑顔を作った。
「どうしたの?」
「なんか……。いや、なんでもない。そういえば新しい魔術って?」
アリスは「そうだった!」と言わんばかりに目を丸くした後、展望台の外に向けて右手を翳した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。