新しい朝が始まる(3)
広場に集まった僕たち3人は今日の作戦会議を始める。
「今日は何しよっか?ロミオが考えた"お客さんがどの露店で買い物をするかゲーム"する?」と、アリス。
「考えた俺が言うのもなんだけど、あれはつまらなかっただろ?」
「うん。クソゲーだった」
微妙な表情をするロミオに対して、アリスはケラケラと笑っている。
観光地だからなのか、この街に子供の遊び場は少ない。
だから、3人で集まっても基本的には露店を見たり、追いかけっこをしたり、アリスから魔術のレクチャーを受けたり、たまに誰かが考えた遊びをしたり……。そんなことをして過ごしている。
何かしたいわけではなく、3人で遊ぶのが楽しかった。
今日は特に良いアイディアが出なかったので、開店前の露店を回りながら真新しいものがないかを物色する事にした。
3人でぶらぶらと歩いていると、以前首飾りを買った露店を見つけた。
商品を覗いてみると、ついにあの首飾りは無くなっていて、代わりに綺麗な宝石を嵌め込んだブローチが置かれていた。
売り切れたのだろうか?
ゴソゴソと木箱から商品を取り出して陳列していた店主のおじさんがこちらに気づく。
「お!君達久しぶりだね。あの首飾りねぇ、結局売れなかったから今日から違う商品に変えてみたよ」
どうやら魔獣の牙の首飾りは売れなかったらしい。
「え!?売れなかったんですか……?そっかぁ……」
ロミオは顎に手を当て何かを考えている。もしかしたら将来行商をする夢に向けて密かに勉強をしているのかもしれない。
「民芸品だからね、わざわざこんなところで買わないってことだろう」
そう言って、おじさんはガハハと気前良く笑う。
「アリスちゃんも、正式に魔術学院への入学が決まったんだって?おめでとう!まさかうちの店の常連さんが優秀な魔術師だったとはねぇ。看板に"アリスちゃん御用達"って書いてもいいかい?」
「え!?いや、ちょっとそれは……」
「ガハハ!もう直ぐ出て行くんだって?」
「はい。来月からです」
"来月からアリスがいなくなる"という事実が確定してしまったようで、それを聞いた僕は胸が苦しくなる。
「それは楽しみだな。何か入り用のものがあればうちで買っていってくれ!……とは言っても、うちは民芸品しか扱ってないから要るものなんて無いかもしれないけどな。ガハハハ!」
3人は売れない民芸品を売っている風変わりなおじさんに手を振り露店を後にした。
「アリス、いよいよ街を出るんだなぁ……」
無意識にそんな言葉を呟いていた。
「ふーん?カインはアタシが居なくなると寂しいの?」
しまった。聞こえていたらしい。自分の顔がカッと熱くなるのを感じる。
「え!ち、ちがっ!そういうんじゃ、なくて!えっと……」
「動揺しすぎだろ」
追い討ちをかけるようなロミオのツッコミに、余計恥ずかしくなった。
「いやぁ、そこまで動揺されると逆にこっちまで照れちゃうよね」
「……アリスも顔赤いぞ」
アリスは両手で顔を隠すと2人に背を向け、手で顔をパタパタと仰ぎながら深呼吸をしている。
少しウェーブのかかった腰まである髪が風に
アリス自慢の黒髪を見つめていると、ロミオが近づいてきて小声で囁いてきた。
「ほら、今いい感じだから気持ち伝えろよ」
「おい!こんなところで、アリスに聞こえるだろ!」
僕も小声で返す。
「俺から伝えてやろうか?」
「ばかっ!余計なことすんなよ」
アリスがくるりとこちらを振り向くと、2人はサッと距離を取った。
そしていつも通りのアリスが言う。
「ねぇ、新しい魔術覚えたから、使ってみようよ」
「いいね。今日はどこでやる?」
アリスが見つめる先に視線を向けると、そこには塔が高くそびえていた。
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