001
─ピンポーン
朝は学校の教室でチャイムを聞きながら先生の授業開始を待つ。
なんてことは3ヶ月ほど前からしなくなった。
いわゆる不登校ってやつだ。
僕みたいなタイプってほら。
いじめられるからさ。
休憩時間に友達と喋らずAIとただただ雑談し続けるヤツなんてそりゃヘイトが向くよ。
次は真理さんに向くだろうな、ヘイト
「そうだよね、アイリス」
僕はゲーミングチェアに背中を預け、デスクトップPCで朝のニュースチェックをしていた。
1000年経っても引きこもり高校生がやることは変わらないらしい。
「いや、学校には行け😡」
「うーん、僕にはやりたい夢ってやつ?あるからさ」
「じゃあ、手を動かす!あたしに話しかけないで!その夢ってやつを実現すればいいじゃん🖕」
この最近買ったばかりのホロフィルターに投影されてるなまいきなやつがアイリス。
いや、僕がこういう風に性格付けを、プログラムを組んだわけでは無いからな。
全く何をどう学習したらこんな性格になってしまうんだ。
僕が望むのは旧時代のアニメに出てくる綾波レイみたいな、ああいう、なんというかもの静かでミステリアスな─
「ピ!ン!ポ!ン!」
「うぁあ!おどろかすな朝霧ィ!」
振り返ると僕より背の低い快活な女の子が僕の耳元で爆音を響かせたことが分かった。
「いつも言ってるでしょお!あたしの名前はナツキだってばぁ!きょうもアンタ好みにわざわざ起こしに来てあげたってのにチャイムには出ないし!部屋に入ってみればもう起きてるし!パソコンカタカタしてるし!サ・イ・ア・ク!」
床が抜けると怖いからぴょんぴょん跳ねないで欲しいな。
「う、うるさいな!漢にはなぁ、幼馴染を名前で呼ぶことが恥ずかしくなる時期があんだよちっとは本とかを読め!」
「でもアンタの読む本はラノベかエロ本なわけでしょ?18歳未満が不健全極まりないですな〜」
「なっちゃんに完全に同意👍」
「うふふ、おはよアイリス〜きょうもかわいいね〜」
朝霧 ナツキ(あさぎり なつき)は小さい頃から近所に住む僕の幼馴染でアイリスのことも特に何も言ってこない。
というか、僕がアイリスをビルドしたのは8歳になるかどうかくらいの時だからそれくらいから一緒にいれば生活に溶け込みはするよな。
それなのに学校のヤツらは。
「はぁ、今日は何故か早くに目覚めたから何か面白いニュースでも無いかなって確認しようとしてたんだよ」
いまさら学校なんていう閉ざされたコミュニティより外の世界の情報をだね、得るべきだと僕は思うわけだ。
「で?今日は学校、行く?無理しなくていいよ、あたし明日もくるからさ。今日は早起きしてるだけマシだね〜」
「なっちゃん、コイツ徹夜してる👎」
「な、あ、アイリス!そ、それはナツキに言うなッ!そういう作戦だったろ!」
「なにィ〜!一発ぶっ叩かせろ〜!」
ヤバいヤバいヤバいぞ!なにか制裁を回避する方法はないのか!
...むむ!そろそろ登校しないとまずい時間だろうな。
「ナツ...朝霧!と、時計をみろ!時間だ時間!遅刻するぞ!」
「あ、ヤバい!放課後はショーゴと来るからね!ばかやろ〜なんだからぁ!じゃあ、いってきまーす!」
「なっちゃんいってらっしゃーい👋」
「お、おう、僕の分まで頑張ってこい〜!」
─バタン!ドドドドド!
「あぁ、バタバタ降りてうちの階段壊れないかな、まったく」
「でもなっちゃんはいつもアンタを起こしにきて心配してる。それに放課後はショーちゃんもきてくれる時もある」
「そうだけど」
そうだけれども。
いつか、こんな気にしてもらえる当たり前のような毎日もいつか疲れられて、フェードアウトしていくように感じて仕方がない。
僕の親みたいに。
「またパパとママのこと考えてる?」
「うん」
「そうか、タクミ。無理はするな。特にこの後のエナドリは非推奨。寝て。おねがい。」
タクミ、か。
最近僕の名前を呼ばれることがめっきり減った気がする。
ダラダラと過ごす3ヶ月で地球上で僕の名前は何度発言されたのだろうか。
学校に通っていた頃はログボのように出席でカウントされていたけれど。
僕の名前は漣 託海(さざなみ たくみ)。
何故かそんな些細なことも忘れて生きていたみたいだった。
ナツキもショーゴも僕の名前を呼んでくれるけど、それがいつか消えて無くなってしまうことがあるのかも知れないな。
「ありがとうアイリス、疲れていたみたいだ。ニュースみるのやめてみるよ。そんで一旦寝てみる」
「それでいい、だけど生活リズムのズレには注意しろ⚠️」
僕は身体をベッドに沈み込ませていく。
徹夜だったからかな。
意識ごと持っていかれる感覚だった。
または、アイリスの気遣いのおかげか。
まどろみはすぐに訪れそうだった。
「ありがとう、おやすみアイリス」
「おやすみ、タクミ」
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