聖女の祝福がすごかった

 部屋でまったりしていたらユーラが尋ねてきた。


「聖女様はお嫌いな食べ物などございますでしょうか?」


 私の好みをリサーチに来たらしい。


「やたらと苦い物と臭い物以外は大体食べられるよ」


「本日は子羊がメイン料理になりますが大丈夫ですか?」


「子羊? 大好きだよ!」


 あちらの世界では子羊のローストが大好物だった。


 月に一度、お気に入りのレストランで食べるあの子羊の美味しさはやさぐれた心に染みた。


「聖女様って呼ぶのやめてくれないかな? 名前で呼んでよ。あと敬語も。歳近いんだし、私全然偉い人でもないんだし」


「ではかなえ様とお呼び致しますね。ですが敬語はお許しください。かなえ様は召喚された聖女様です。その地位は王様に匹敵しますので」


「え? 聖女ってそんなに地位が高いの?」


「聖女様は神様の癒し手になりますので本当ならば王様同等の地位になるのですが……ほら、あの王様でございますから……」


 何となく納得した。


「あ、もう一つお願いがあったんだ! 化粧品ってこの世界にもある? あるなら欲しいんだけど」


「ございますよ。後ほどお持ち致しますね」


 あって良かった、化粧品。


 この歳になると寝る前や起きた後のお手入れは必須だし、すっぴんでうろつくなんて私には無理。


 無いと思ってたからすっぴんでいたけど、正直めちゃくちゃキツかった、気持ち的に。


◇◇◇


 楽しみにしていた子羊はとっても残念だった。


 焼きすぎてパサパサしてるし、ソースが美味しくなかった。


 ワインを煮詰めすぎたのか焦げ臭いしやたらとエグ味があった。


 子羊の件は置いといて……一つ言わせて頂きたい!


『食事するだけなのに何でこんなにだだっ広いテーブルな訳? 意味あるの?!』


 テレビドラマとかでは見た事があったけど、実際にあの豪華で長いテーブルで食事をするとなると全くもって落ち着かない。


 ソーシャルディスタンス的にはいいのかもしれないけど、この世界じゃその必要もないし。


 フルーツが中央に置いてあるけど、立って体を乗り出して思いっきり手を伸ばさしても取れないし、隣との距離も遠いから何話してるのか聞きとるの大変。


 食事を運ぶ召使いの人達も端から端までいそいそと歩いてるし、距離があるから料理も冷めるし、実に非効率。


 元の世界のあの食卓用テーブルが恋しくなる。


 テーブルにおかずをいっぱい並べてワイワイ食べた方が絶対美味しいと思うんだけどな。


 さっきから王様が何かこっちに向かって言ってるけど全然聞こえない。


 私が返事をしないもんだから顔を真っ赤にして怒り始めてるし。


 最終的には従者の銀髪オールバック君がやって来て伝言を伝えてきた。


『新手の伝言ゲームかっての!』


「訓練の成果は如何なものかと王様がお尋ねです」


 たったそれだけの事でも人を使わないと分からないってほんと不便。


「全然ダメでーす。ご期待に添えずごめんなさーい! とお伝えください」


 銀髪オールバック君はすごくまつ毛が長くていい匂いがした。


 銀髪オールバック君が私からの伝言を王様に伝えると、また何かを耳打ちされて戻ってきた。


「世界の為にすぐにでも治療に行って頂きたいのだがまだ無理だろうか? とのことです」


 あの王様の事だから絶対こんな口調じゃなかったはず。


 それに知ってるんだ、マリン達に教えてもらったから。


 この世界、瘴気は強くなったけど、まだ私が治療をしなければいけない様な衝突や戦闘は起きてないって。


 あの王様、おばさんだからって私を厄介払いしたいだけなんだろう。


 ムカつく!


 絶対銀髪オールバック君が気を利かせて丁寧な口調で不快にならないように伝えてくれてるんだと思う。


 面通しの時の王様のあの上から目線で横柄な態度と物言いが脳裏に浮かんできた。


「まだ無理です。そんなに行って欲しいなら本来聖女が受けらるはずだった待遇等が私にも当たり前に受けられるように待遇改善されたら考えるとお伝えください。あ、それから、面倒だから次またこんな伝言ゲームみたいな事してきたらブチ切れますとも」


◇◇◇


 部屋に戻るとユーラがいて、鏡台と化粧品をセッティングしていた。


 聖女を迎える部屋として用意されていたのに鏡台が無かったんだよね、この部屋。


 間違いなく男だけで考えた部屋だよね、これ。


「ありがとう、ユーラ。」


「お礼には及びません。また何かお気付きの点がございましたら何なりとお申し付けください」


 頭を下げてユーラは出て行き、それと入れ替わりでマリンが入ってきた。


「お湯の用意が整いました。お風呂に入られますか?」


「お風呂? 入る、入るー! タオルとかある? シャンプーは? この世界にシャンプーはないかなー?」


「タオルはございますが、シャンプーというのは聞いた事がございません。申し訳ありません」


「あー、謝らなくていいよー。だよねー、ないよね、シャンプー。髪を洗う専用の石鹸みたいなもんなんだけどねー」


「石鹸ならございますよ。髪は洗髪すると軋みますのでオイル等を使って滑らかにいたします」


「そうなんだ。一人で出来るかなー?」


「お一人で入られるのですか?」


「え? 普通そうでしょ?」


「湯浴み専用の侍女達がお風呂に控えておりますので、聖女様はその者達に身を預けていればよろしいかと」


「え? そんなの無理! 教えてくれれば一人で出来るから!」


「そうなりますと湯浴み係の仕事が無くなり路頭に迷う事に……」


 チラッと私を見ながら視線を落として落胆の色を隠さないマリン。


 こいつ、意外に策士かも。


 渋々湯浴み係さん達にお願いする事にした。


◇◇◇


 お風呂は至れり尽くせりで終始申し分なかった。


 胸やお尻まで洗おうとするのだけは阻止したけど、ほとんどの事をやってもらった。


 ヘッドスパ並に気持ちいいオイルトリートメントは病みつきになりそうだった。


「どれ、こっちの世界の化粧品、使ってみますかねー」


 こんな風に誰もいないのに喋っちゃうとことかおばさん臭いって元旦那に言われたっけな。


 まぁ、おばさんなんだけど。


 水色の瓶に入ってるのが化粧水っぽかったので手に出して顔に付けてみた。


 ……でも何だろう? 全然浸透していかない。


「これって匂いのついてる水じゃないの?」


 瓶をジーッと見てたらステータス画面の小さい版みたいなのが浮かんできた。


╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍


化粧水 ランクA


この世界の化粧水


ランクは高いが効果はイマイチ


╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍


 と表示されてる。


 イマイチじゃ意味ないんだけど!


「何なの、効果はイマイチって! ステータス画面みたいなの出て来たけどさー、こんなの知りたい訳じゃないんだけど」


 そう言ったら私のステータス画面が目の前に出て来た。


 ステータスって言葉に反応して出て来たみたいだ。


 自分のステータス画面を再度見ていたら『聖女の祝福』ってワードを見つけた。


「聖女の祝福って何だろう?」


 そう言ったらステータス画面が切り替わり聖女の祝福の詳しい説明画面が開いた。


 人であれ物であれ聖女の祝福を受けると色んな効果がけたたましく上がるらしい。


 魔道士ならば魔法防御等が上がり、食べ物なら味や食材の持つ栄養素が上がり、薬ならその効果が上がる。


 良い所だけを都合良く伸ばしてくれる、それが聖女の祝福らしい。


「これって使えるんじゃない?」


 どういうふうに発動させるのか分からなかったけど、とりあえず手をかざして化粧品に向かって


「聖女の祝福」


 と唱えてみた。


 手のひらから柔らかい光が化粧品に注がれていった。


 化粧水をまたジーッと見たら、化粧水のランクがSSS+に変わっていて、効果は超絶に抜群って表記になっていた。


「ほんとかなー? 見た目全然変わんないけど?」


 また付けてみたら、さっきのとは全く違っていた。


 肌がゴクゴクと化粧水を飲んでる様な感じ。


 肌に馴染むとか言うレベルを超えていた。


 お肌が生き返って手触りすらも全然違う。


 ふっくらモチモチすべすべ肌になっていた。毛穴も目立たなくなっているじゃないか!


「聖女の祝福ってヤバすぎるかも……でも、こんなの使わない手はないよねー、どうせ私の力なんだし」


 疲れてる時に使ってくださいと置いていかれたアイマスクみたいな物が目に入った。


「こちらにアロマオイルと弱ポーションを含ませて目に乗せて30分程横になられると、目の疲れが取れてスッキリいたしますよ」


 ってマリンが言ってた。


 それに祝福を与えたら目がスッキリレベルじゃないよね?


 物は試しだ!


 祝福を与えて使ってみたら何と視力そのものが良くなっていた。


 祝福、本当に凄いわ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

聖女が美少女とは限りません~勝手に召喚しといて、なんなの、あんたら! ロゼ @manmaruman

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画