第2話 森に捨てられました、キャンピングカーと

「いきなり放り出すやつがいるかよぉ~……」


 あの後、王子は騎士たちを使って私を拘束。そのまま馬車に乗せて数時間後。

 森の中に、ぽいっと放り出されたのである。


 うそでしょ……。なんでよ……。そっちの都合で呼び出しておいて、要らなくなったらぽいって……。


『偽物の聖女を誤って呼び出したなんて噂が立てば、王家の威信が失墜してしまうだろう?』

『とゆーことらしいんで、ばいばい澄子おばさーん☆』


 ……最後の最後まで失礼な連中だった。ああ、むかっ腹が立つ。


「てゆーか、どうしよ……これから……」


 状況を簡潔にまとめると、だ。


 JKとともに聖女召喚された

→ハズレスキルのせいで聖女じゃないと認定

→追放された


「何も知らない世界に一人放り出されるとか……はーあ……」


 しゃがみ込んで、頭をかく。これからどうしよう……。

 この世界のこと私何も知らない。魔王がどうのこうのって言っていた。


 魔王。ファンタジーものの定番設定だ。魔王がいるなら勇者とか、あと、魔物とかいるはず。


「魔物……」


 か弱い私にそんなものと戦う術なんて持ち合わせてないんですけど……。

 てゆーか、異世界召喚ものの主人公って、大抵はとんでもないチートスキルか、魔法を覚えてるんじゃあない?


 でも私のスキル……そういうなんかとんでもないスキルに見えないんですけど……。


野外活動車キャンピングカーって……」


 私がつぶやいた、そのときだ。

 ドンッ……! と目の前に、私が買ったばかりのキャンピングカーが召喚されたのである。


「どこ行ったのかって思ったけど……どこ行ってたのよ……!」


 どこから出てきたのよこれ……。え、なに? 私のスキルって……私の買ったキャンピングカー、もとい、野外活動車キャンピングカーを召喚するってものなの……?


「え、え、なにそれ……それだけ……? もっと他にないの?」


 すると……。


「グルルルル……」

「ひっ……! で、出たぁ……!」


 森の奥から、灰色の狼が現れた。で、デカい……! あんなのと戦うなんて無理、無理!


 ど、どうしよう……はっ! そうだ、召喚した野外活動車キャンピングカーの中に避難!


 私は急いで野外活動車キャンピングカーのドアを開けて、ドアを閉める……!


「ギャウ……? グルルウ……」


 窓から、外の様子をチラ見する。

 あれ……?


「ギャウ……?」

「こっちに気付いてない……?」


 なんか狼は、見当違いのほうを、キョロキョロとみていた。

 しばらくあっち行ったりこっち行ったりしたあと、どこかへと去って行った。


「どうなってるの……?」


 狼は私を認識していた。私を追いかけてくるはずだ。

 野外活動車キャンピングカーに入ったら、多分ドアの外にいて、ガリガリとドアをひっかく等の動作をする……はず。


 だというのに、あの狼は私を見失っていた……。一体、何がどうなってるんだ……?


「はぁ……わけわからん……って、あれ……?」


 ふと、私は野外活動車キャンピングカーの中を見て、気付いた。


「なんか……広くない……?」


 この車を買ったとき、もちろん内見(って言えば良いのか?)を済ませていた。

 キャンピングカーは、けっこー狭いはずだ。折りたたみベッドを広げたら中を動けなくなるくらいに。


 でも……私が居るのは、普通の、それこそマンションの一室のように広い空間だった。


「でっかいベッドまであるし……キッチンも、わ、アイランド式だ……」


 おかしい……。どう見ても、広すぎる。

 いったん外に出てみる。……うん、普通のキャンピングカーだ。


 中に入る。……うん、まるで高級マンションの一室かのように、広くて快適な空間が広がっている。


「どーなってるのこれ……」


 とりあえず、これが普通のキャンピングカーではないことがわかった。

 私は部屋の中をあらためてみる。


 広いリビングスペース。ソファがある、テレビもある。

 アイランド式のキッチンが併設されている。キッチンにはオーブンもあるし、水も……。


「わ、水も出るよ……」


 蛇口をひねると普通に水が出てきた。たしか、キャンピングカーって、キッチンカーみたいに、水のタンク(給排水タンク)を積んでいたはずだけど……。


「タンク……ない……」


 下の棚を開けてみたんだけど、配管は見て取れた。でも……それが床に繋がっているだけだ。タンクは見当たらない。


「わ、包丁にまな板まである……」


 キャンプ道具を、出発前に買っておいた。それがちゃんと車に常備されていたのだ。


「ってことは食材とかも……?」


 立ち上がり、そばに鎮座する冷蔵庫を見やる。

 パカッ、と開けてみる。


「冷やっこい……電気通じてる?」


 普通に冷蔵庫も動いてらっしゃる。中には、たしかに向こうで買った食材が入っていた。水のペットボトルを手に取り、蓋を開けて、のんでみる。


「んぐんぐ……うまし……」


 通電してるし、水も出る。ってことは……。

 私はキッチンのコンロの栓をひねってみる。ぱちちちちっ、という音とともに火が出た。


「……ガスも使えるか」


 なんか、キャンピングカーっていうより、マンション搭載型の車って感じだ。なんだマンション搭載型って……。


「とりあえず、住むところと、食べ飲み物には不自由しない……か」


 ホッ……と息をつく。とはいえ、まだまだ状況は厳しい。水も食料も、いずれは尽きてしまう。

 それに……これは車だ。つまりガソリンで動く。いずれも、使っていけば減っていくものだ。


「…………寝よ」


 なんかもういろいろなことが起きて、疲れてしまった。とりあえずちょっと寝て、それから、今後のことを考えよう……。

 ふらふらと立ち上がり、私はベッドに横になる。

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