第3話

 ニュースの音で目が覚める。いつから、寝てしまっていたのだろうか。いつの間にか、コトリの部屋から自分の部屋へと来ている。ニュースには見覚えのある、黒い魔法少女の姿が映っていた。彼女は街を闇の帷で覆い、空からたくさんの魔物を「すべては、書に記された通りに」生み出している。帳は徐々に広がってゆき、すべてを呑み込もうとしている。私は、彼女の元へと行くことにした。


 イノリは笑顔で私を見た。今まで見たことのないような、晴れ晴れしい笑顔だ。イノリはいつもムッツリとしていて、笑顔なんてなんだか恥ずかしげに、漏れてしまったかのような形でしか見せたことがない。私も、イノリが初めて見せる満面の笑みにつられて、なんだか晴れやかな気持ちになった。私は知っている。いつも文句しか言わない彼女は、実はとても優しい心を持っていて、なんだかんだと言いながら私たちを助けてくれていたことを。私は知っている。彼女は優しさから、こうすることを選んだってことを。

 私は、イノリに火をつけた。彼女がこれ以上苦しまないように。これは告別の炎だ。イノリをこの苦しい世界から送り出すための、葬送の焔だ。私の思い描く通りに、彼女の体を走る炎。イノリは苦しそうな顔じゃない。笑っている。涙を流しながら、笑っている。私も笑っている。同じように涙を流しながら。


 全ては燃えた。イノリの絶望を映し出した影を伝って、炎は燃え広がっていった。帳を覆い、その炎は地を走る。そして、すべては灰へと還った。まるで雪のように、イノリだったものが街へと降り注いだ。イノリが最後に作り出した、この美しい風景を、いつか夢で見たその景色を。忘れないよう、穢されないように、私は目を閉じた。


 声が聞こえる。ゆっくりと、目を開けた。そこは真っ暗な部屋だった。誰かが扉を開ける。そして、一冊の分厚い本が手渡される。私はそれを受け取って、読み始める。真っ暗で何も見えないはずなのに、なぜかすんなりと読むことができるその本には、私たちのことが記されていた。

 人々を救う私たち。感謝され、称賛された私たち。そしてその裏で、蠢く影も描かれている。シズクはなぜ一人で行ってしまったのか? そもそもなぜ、保護されているはずの家族が襲われたのか? ウララはなぜ、帰り道に無力に拉致されたのか? 彼女は抵抗ができなかったのか? コトリはなぜ、自死を選んだのか? 家族に危険が及ぶと、誰が言い出したのか? イノリはなぜ、全てを消し去ることを選んだのか? 無辜の人々を、今まで助けてきた人々になぜ刃を向けたのか? 


 そしてなぜ、私は今これを知らされたのか?


 全ては黒の予言書に刻まれていた。書の記述は未来にまでも及ぶ。私たちと、暗躍する影の記述の次が、最後のページだった。そこにはこう記されている。書の魔獣が、全てを呑み込み滅ぼす、と。


 私はすべてを知った。やるべきことができたのだ。この残酷な世界を、変えるために。


 私は書と、みんなでお互いにシールを貼りあった、あのステッキを手に取った。

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魔法少女プリエ・アカリ☆ 世界を救うことが使命なんだ! 【R-15G】 りあな @riana0702

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