第4話 グイグイ来るお姉さん
(ま、マジかよ……葉月さんに)
キスされてしまい、胸のドキドキが収まらず、しばらく観覧車の中で放心状態になってしまう。
俺達、まだ出会って数日とかだよな?
それでこんなことを……てか、里美とすらしてなかったんだけど。
「あ、もう着いたよ。降りようか」
「は、はい」
ドキドキしている間に観覧車が地上に着き、葉月さんに手を繋がれながら降りる。
彼女の手、細くて手入れがよく行き届いているのか、スベスベで触り心地がめっちゃ良いんだよな。
くそ、これじゃ意識しちゃうじゃないか。
「今日は久しぶりに遊んだなー。進一郎君はどうだった?」
「え? ああ、はい。楽しかったです」
二人で電車に乗って最寄り駅に到着し、そろそろ葉月さんとお別れの時間になる。
楽しかったけど、彼女にキスまでされたのは予想外っていうか
「そう。だったら良かった。本当にゴメンね。彼女に振られた日にあんな目に遭わせちゃっていたなんて」
「それは葉月さんが悪い訳じゃないですよ」
里美にフラれたのと事故が起きた日が重なったのは偶然だし、俺がフラれたことに彼女が責任を持つ必要なんかない。
まあ、事故った時はどうしてこんな理不尽な目に遭うんだと神様を恨んだけど、今や感謝したいくらいだ。
「へへ、進一郎君、何か可愛いね」
「え? 可愛いって……」
「そうだよ。さっき観覧車で失恋した時の話をしていたら、何か急にキュンっとなっちゃったっていうか……あはは、迷惑だった?」
「い、いえ。ビックリはしましたけど……」
「嫌じゃなかった? じゃあ、よかった。ね、またお姉さんとデートしようよ。嫌?」
「良いですけど、その……葉月さんって、付き合っている人とか……」
「いたら、誘う訳ないじゃない。ね、良いでしょう? 事故の罪滅ぼしも兼ねてさ」
おお、葉月さんもフリーな訳か。
だったら、遠慮する事はない……と言いたいが、何だか都合が良過ぎる展開なので、少し気持ちを落ち着けよう。
「わかりました。空いている日が出来たら、後で連絡しますね」
「うん、ありがとう。これからも仲良くしようね♪」
と葉月さんは頬を赤らめながら、満面の笑みでそう言い、この日のデートは終了する。
ああ、まずいな。彼女の事、本当に好きになっちゃいそうだな。
翌日――
「いってきます」
朝、いつものように制服に着替えて家を出る。
昨日は葉月さんとデートして、色々あったな。もしかして、俺は彼女と付き合っているのか?
流石にそこまでは……あのキスだって、挨拶代わりだったかもしれないし、でも本気だったらどうしよう。
と昨日から、葉月さんの事を考えるだけで悶々とした気分になってしまい、全く落ち着かないでいると、
「やっほー、進一郎君♪」
「へ? は、葉月さん」
学校に向かって歩いていき、交差点で信号待ちをしていると、何と葉月さんが背後からポンと肩を叩いて声をかけてきた。
「おはよ。体の調子はどう?」
「あ、はい。もうだいぶ良くなってきました……てか、どうしたんです、こんな所で?」
「どうもこうも進一郎君の調子が気になっちゃって。迷惑だった?」
「いえ、そんな事は……突然だったんで、ビックリしただけです」
まさか、朝から葉月さんに会うとは思いもしなかったが、もしかして俺の事を待ち伏せしていた?
住所を教えた覚えはないんだけど……あ、もしかして事故の時に俺の家の住所や連作先も知ったのかな?
「ビックリさせちゃったなら、ごめんね。進一郎君の様子がどうしても気になっちゃって。昨日は付き合ってくれてありがとう」
「俺の方こそ、誘ってくれてありがとうございます。あの、もしかしてこの近くに住んでいるんですか?」
「まあね。前にも言ったと思うけど、弟が君と同じ高校に通っているんだ。今、三年生なんだけど、進一郎君は二年だっけ?」
「はい。じゃあ、俺より一個上なんですね、弟さんも」
「うん。学年が違うんじゃ、面識はないかな」
だろうな。葉月さんの弟さんか。会ったら、挨拶くらいはしておいた方が良いのかな。
「へへ、元気そうで良かった。ねー、今日はちょっと用事あるけど、明日の放課後とか暇?」
「あ、明日は病院に行くんです。念の為、検査するってだけですけど」
「何だそうなんだ。私も付いて行って良い?」
「葉月さんもですか? あの、どうして……」
「やっぱり、進一郎君の容体も気になるじゃない。もし、異常が何かあったら、私も気が気じゃないしさ。保険の事もあるし」
ああ、俺の医療費も葉月さんの自動車保険から出すんだっけか。
それで色々と手続きが面倒なのは親からも聞いているが、そうなると葉月さんも無関係ではないって事だな。
「わ、わかりました。放課後の四時半に行くことになっているんで、その時には……」
「四時半ね。病院は学校近くの市立病院で良いんだよね」
「はい。じゃあ、その時間に」
「約束だよ。あ、そうそう今日のお昼ごはんって、どうするの?」
「お昼ご飯ですか? いつも購買か学食ですけど」
「なら、ちょうどよかった! よかったら、これ食べてくれる?」
「へ?」
葉月さんがバッグから、弁当箱っぽいのを取り出して、俺に差し出してきた。
「たまにお弁当も自分で作っているんだけど、よかったら、進一郎君にも食べてもらいたいなって。駄目?」
「あ……いえ、ありがとうございます」
「本当? ちゃんと味見はしているから、食べられるようになっていると思うけど……気に入らなかったら、残しても構わないからね! それじゃ、私はこれで」
「は、はい」
弁当箱を受け取った後、葉月さんは俺の前から小走りで去っていく。
世話好きな人なのかもしれないが、まさか弁当まで作って持ってきてくれるとは……ちょっと俺に尽くし過ぎじゃないかと思ったけど、無碍にするのも悪いし、ありがたく頂いておくか。
昼休み――
「さて、葉月さんの弁当を食べるか……お、おお……」
友達は学食で食べると言うので、取り敢えず今日は中庭で一人で食う事にし、葉月さんの弁当を開けると、中にはおにぎりとウインナー、リンゴ、卵焼きにおしんことシンプルだが、美味しそうなおかずがぎっしりと詰まれていた。
葉月さんって結構家庭的なんだな……というか、普通に美味そうなので、早く食いたい。
「いただきます。おお、うん。美味いぞ」
早速、おにぎりを食べたが塩も効いていて、美味い。ウインナーも香ばしくて良く焼けているし、卵焼きもちゃんと出来ているぞ。
「はー、これが彼女の手作り弁当か……いや、彼女って訳じゃないか」
里美だって、俺に手作り弁当なんて一回も作ってくれなかったから、葉月さんとはもう元カノとも経験してなかったことを色々とやってしまっている。
これはもう気があるのかなと変な勘違いをしていると……。
「もう、そんな事ないって」
「そうだろ。あ……」
「ん? いいっ!?」
目の前をやたらとくっついて、イチャついている男女が通り過ぎたので、見上げると、何と里美とあの三年のバスケ部の男だった。
さ、最悪過ぎる……せっかく、良い気分で葉月さんの弁当を食べていたのに。
「い、行こう」
「ああ。あれ、その弁当……」
里美が男の腕を引っ張って、その場を去ろうとしたが、男はなぜか俺の弁当を凝視し、
「な、何だよっ?」
「いや、それ……今日の俺の早弁と……」
「は?」
「もう、行こうよ」
「あ、ああ」
里美に引っ張られ、二人は俺の前から去っていったが、この弁当が何か気になるのか?
別におかずは普通だが……まあ、良いか。とにかく、二人と会って嫌な気分になってしまい、折角の葉月さんの手作り弁当も美味しく頂くことが出来なかった。
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