第5話 何でもするって言ったよね?

「あー、クソ。せっかく葉月さんの手作り弁当を満喫していたのに最悪だわ」


 里美とあの間男のせいで、全てが台無しだ。


 俺の前ってか、学校でイチャつくんじゃないよ全く。


「てか、この弁当箱、明日返せば良いのか?」


 今日は用事があるから会えないって言ってたから、明日で良いか。


 後でラインでお礼を言っておかないとね。


 奴らと会ってしまったのが、本当に最悪だったが、葉月さんのおかげでまだ心に平穏が保てるので何よりだ。


 あの時、俺を轢いたのが葉月さんじゃなかったら……と想像しただけで、ゾッとしてしまうわ。



「ん? 電話……葉月さんから? はい」


『こんばんは、進一郎君』


「どうもこんばんは。あ、今日のお昼はありがとうございました」


 夜中になり、自室でテレビを見ている最中に葉月さんから電話が来たので、すぐにお昼のお礼を言う。


 さっき、ラインでもお礼のメッセージは送ったんだけど、改めて本人に口で言っとかないとね。


『お弁当、気に入ってくれた?』


「はい。葉月さん、料理も上手だったんですね」


『意外だった? アハハ、まあたまに自分でも作ってるしね。今日はちょっと作りすぎちゃったから、弟にも少し分けたんだ』


「あ、そうだったんですか」


 何だよ俺にだけ作ってくれた訳ではないのね。


『うん。早弁にしたって言ってたけどね。あいつ、バスケ部だから』


「へえ、バスケ部……何年生でしたっけ?」


『三年だよ』


 ああ、三年って言っていたか。


 三年のバスケ部……う、頭が。



 思いっきり、あの里美を寝取った男とダブっているじゃねえか


 少なくとも葉月さんの弟と面識あるのは間違いないな。別に彼女の弟さんに罪がある訳じゃ……待てよ。


(確かあいつも、姉貴が事故ったとか言っていたような……)


『それで明日の事なんだけどね。私が車で進一郎君を送り迎えしてあげようかなって思って』


「え? 葉月さんがですか?」


『そう。お母さんの車借りられそうだし。あー、事故った人が運転する車とか嫌かな?』


「嫌じゃないですよ。でも、学校からそんな離れている訳でもないですし。てか、葉月さん、大学の方は大丈夫なんですか?」


『いいの、いいの。大学が午後、休講になったから暇になったしさ。じゃ、明日、学校が終わったら、迎えに行くね』


 と、明日一緒に病院に行く約束をし、電話を切る。


 面倒見が良い人なんだな……今日、お弁当まで作ってくれたし、ぶっちゃけ里美よりも遥かに良いかも。



 しかし、どうにも引っかかる事というか、嫌な予感が猛烈にする。


 葉月さんの弟って……バスケ部の三年。姉貴が事故った……。


「ま、まさかな……」


 そんな訳……いや、確かあいつも昼に葉月さんの弁当を見て、何か言っていたような。


 ジグソーパズルのピースが次々と合わせっていくのを感じ、猛烈に嫌な予感がしたが、必死に首を横に振って打ち消し、気を紛らわせるため、学校の宿題に一心に取り掛かったのであった。



 翌日――


「進一郎、今日は……」


「悪い。これから、病院行くんだ。まだ検査があるんだよ」


「何だそうだったか。じゃあな」


 放課後、友達と教室で足早に別れ、校舎をさっさと出る。


 葉月さんは確か裏門の方で待っていろって言っていたな。



「あ、あれかな」


「ヤッホー、進一郎君。さ、乗って」


「葉月さん。すみません、わざわざ」


 学校の裏門の方に行くと、葉月さんが既に学校の前で車を停めて待っていたので、すぐに乗り込んでいった。


「待たせちゃいましたか?」


「ううん、平気。市立病院で良いんだよね?」


「はい。まだ時間あるので……」


「まあ、少しくらい早くても大丈夫だよ。じゃ、シートベルト閉めてね。私も安全運転で行くから。今度、事故ったら、本当に免停くらいそうだし」


 助手席に座り、葉月さんが慎重にアクセルを踏んで、運転していく。


 俺にはよくわからないけど、やっぱり人を跳ねるってのもトラウマになるんかな。


 軽いけがで済んだけど、死んでいたら洒落にならないもんな。



「着いたよ」


「ありがとうございます。あ、昨日のお弁当箱」


「持ってきてくれたんだ」


「はい。とっても美味しかったです」


 病院の駐車場に着いたときに、昨日食べたお弁当箱を葉月さんに返す。


「また作ってきてあげるからね♪ 進一郎君には一日でも早く元気になって欲しいし」


「もう十分元気ですけどね。検査で何も異常がなければ良いんですけど」


 多分、何ともないと思うけど、脳震盪を起こしちゃっているので、脳に異常がないかも調べるらしいけど、大丈夫だよな?



「それじゃ、結果は来週に出るので、その時に」


「あ、はい」


 医師の問診を受けた後、色々と検査を受けて、今日の診察は終わる。


 病院通いもいつまで続くのかな……今のところ、生活に支障はないけど、医者に行くとちょっと不安になる。


「どうだった?」


「検査の結果は来週みたいですね。多分、大丈夫だろうって話ですけど」


「そう。ちゃんと完治するまでは私も気が気じゃなくて……」


「大丈夫ですよ。別にもう全然普通に生活できていますし」


 やっぱり、葉月さんは心配しているようだが、彼女を安心させるためにも早く治さないと。




「ね、この後、暇?」


「え? まあ、思ったより早く終わりましたし、暇ですけど」


「じゃあ、お姉さんとちょっと出かけない?」


「良いですけど、何処へです?」


「へへ、良い所♪」


 駐車場に停めてあった車に乗り込み、葉月さんがまた出かけようと言ってきたが、何処に行く気だろう?


 良い所ってのが何かドキドキしちゃうけど、まさかホテル……な訳ないか。



「到着っと。ちょっと待ってね。車庫入れするから……これ、慣れないんだよね」


「あのー、ここは?」


 二十分ほど車を走らせ、葉月さんが家の敷地にある車庫に車をバックで入れていくが、まさかここは……?


「うん。私の家」


「は? 葉月さんの?」


「そう。よし、上手く入った。ふふ、今、家に誰も居ないんだ」


 車を車庫に入れ終わると、車庫のシャッターが閉まり、車内の灯りを葉月さんが点けて、助手席に座っている俺の腕をがっしりと組んで寄り添う。




「そ、そうなんですか。家に上がらないんですか?」


「上げたいのは山々なんだけどね。個々の方が都合が良いかもって思って」


「はい? んっ!」


「んっ、んんっ……」


 一体、何を言っているのかと思って首を傾げていると、葉月さんが不意に抱き着いて、俺にキスをしてきた。



(ちょっ、何だこれ……_?)


「んっ、んん……はあっ! ねえ……私、お詫びに何でもするって言ったよね?」


「は、はい……そんな事も言っていたような」


「うん。ね、ここならだれも邪魔、入らないよ。家の中より確実」


「何がでしょうか?」


 葉月さんが潤んだ瞳で、俺を見つめながら、胸元を開けてそう言ってくる。


 も、もしかしなくても……これ、誘われている?


「いや、はは……流石に冗談ですよね?」


「冗談でこういう事しないよ。進一郎君、私のせいで酷い目に遭ったんだもんね。だから……良いよ、抱いても♡ちゅっ」


 と、もはや誤解の余地がないような言い回しで、俺の頬にキスをし、頭を撫でまわして、胸を体に押し付けていく。


 ちょっ、マジかよ? こ、これはどうすれば……良いんだ?

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