第3話 お詫びのデートでいきなりお姉さんと
「何だか思いがけない展開になってしまったな」
次の日になっても葉月さんにデートに誘われてしまった事が信じられず、未だに実感が湧かない。
てか、あんな美人なら彼氏とか居ないんだろうか? 居たらまず誘ったりしないだろうが……。
単に俺に同情しているだけかも知れないが、ちょっと変な勘違いしちゃおうかな。
「ん?」
「それでさー、姉貴が事故っちまって大変だったんだよ」
「へえ」
あ、あいつは……!
昼休みに購買でパンを買いに行こうとした途中で見覚えのある男子生徒を見かけたので、咄嗟に身構える。
間違いない! 俺から里美を奪った野郎だ。
確かバスケ部の三年の名前は……ええい、そんなのはどうでもいい。
同級生の男友達と話している様だが、よくもまあ人様の彼女を奪っておいて、堂々と学校の廊下を歩けるな。
ぶん殴ってやろうかと思ったが、そのまま二人で体育館に行ってしまったので、今のところは我慢してやり過ごす事にする。
思い出したら、腹が立つなあもう。あいつも里美もただじゃおかん。
しかし、チラっと耳にしたが、奴の姉貴が事故ったとか言っていたな。
あいつの姉貴がどうなろうが知った事ではないが、これも俺の彼女を寝取った報いだと言い聞かせて、どうにか怒りを鎮めていったのであった。
そして、日曜日――
「ここで良いのかな?」
葉月さんとの待ち合わせ場所である駅前に行き、彼女を待つがまだ来ていない様だ。
ちょっと早く着きすぎちゃったかな? てか、本当に来てくれるんだろうか……。
「お待たせ」
「あ……」
何て思いながら待っていると葉月さんがやってきて、俺に手を振りながら駆け寄ってきた。
「ゴメンね、待った?」
「いえ。時間通りですし」
「そっか。ちょっと何を着ていくか考えていたら、遅くなっちゃって。じゃ、行こうか」
と笑顔で言って、俺の手を握り、葉月さんと一緒に駅へと入っていく。
葉月さんは黒いミニのスカートにへそ出しの黒のトップスに白の上着を羽織り、ネイルも結構派手にしていて、中々のギャルファッションじゃないか。
「出来れば、車を使いたかったんだけど、流石にあんな事故を起こしちゃった直後だとちょっとね。あの車もまだ修理に出したばいだし」
「あ、やっぱり修理に出したんですか」
「うん。前の方が結構ヘコンでてね。あ、保険で直すから君は何の心配もしなくていいからね」
俺とぶつかってしまった車も修理に出したようだが、大したことなきゃいいけど。
「体の方は大丈夫? まだ怪我が感知してないようだったら、無理はさせられないけど」
「もう平気ですよ。今週、また病院で検査するんですけど、別に痛い所もそんなないですし」
「本当? だったらよかった。君の体に何か後遺症でも残ったら、もう私、どう償えば良いかわからなかったし」
一歩間違えたら、そうなっていたかもしれないけど、幸いにもそんなにスピードも出ていなかったので、大した怪我もなく済んだようだ。
安全運転って大事なんだな。まだ免許も持ってないけど、近いうちに取るだろうから、よく覚えておこう。
「えへへ、今日は遊園地に行くけど、何か苦手な乗り物ある?」
「あー、別にないですよ」
二人で電車に乗り、空いていた席に並んで座りながら、目的の遊園地へと向かう。
「そう。でも、絶叫系は止めておこうか。中田君の体に障るかもしれないし」
「ええ。葉月さんが乗りたかったら、一人ででも……」
「ダメダメ。今日は私が君に付きっ切りで面倒を見るって決めたんだから。それとも嫌?」
「いえっ! めっちゃ嬉しいです」
「本当? 良かった。今日は二人で楽しもうね」
葉月さんは俺の腕を組みながら、満面の笑みで言ったが、ヤバイ。
この人可愛すぎない?
俺よりはちょっと年上でファッションはギャルっぽいけど、ケバさは全くないし、何より人懐こくってマジで一緒に居るだけでドキドキしてしまう。
(落ち着け……葉月さんは俺に対するお詫びをしたいだけかもしれないんだ)
本当に好きになっている訳じゃないと言い聞かせているが、腕まで組まれたら俺に気があるんじゃないかと思ってしまうよ。
「きゃー、人いっぱいいるね」
目的の遊園地に着くと、流石に日曜で天気も良いだけあって人が凄かった。
「まずはどうしようか……あ、コーヒーカップにでも乗る?」
「いいですね。あの、お金、俺も出しますから」
「もう遠慮しないの。今日は私が誘ったんだし、君は何も考えず楽しんで」
「は、はい」
流石に全部出してもらうのは悪いので、せめて割り勘にしたかったんだけど、葉月さんもちょっと心配性なんかな。
今日だけは甘えておくけど、あまり彼女に気を遣わせないようにしないと
「きゃー、楽しかったね。はい、これ食べる?」
「いただきます」
あまり体に障らない様にコーヒーカップやメリーゴーランド、お化け屋敷など、絶叫系のマシーンを避けて葉月さんと遊園地を回っていき、昼過ぎに二人で昼食にハンバーガーとフライドポテトを食べていく。
めっちゃ楽しいなあ……里美とも遊園地にデートに行ったことあるけど、その時より楽しいかもしれない。
アトラクションに乗っている間にも、可愛い笑顔を振りまいてくれるし、気さくで俺の事を引っ張ってくれるし、こんなお姉さんとデート出来たなら、もうあの事故も最高にラッキーな出来事だったとしか思えなくなってきたわ。
「うわあ、超良い景色だね」
その後、二人で観覧車に乗り、地上の景色を眺める。
やっぱり観覧車からの眺めは最高だな。
「中田君、今日は楽しんでくれてる?」
「もう最高ですよ。誘ってくれてありがとうございます」
「よかった。ね、ちょっと聞きたいことあるんだけど、良いかな?」
「何です?」
「嫌なら答えなくても良いけど、病室で目を覚ました時にその……彼女にフラれたとかなんとか言っていたんだけど……あれって、ただの寝言かな?」
「あ、ああ……」
事故当日の時の事か。あの時は葉月さんをお袋かと思ってしまって、遂変な事を口走ってしまった。
「楽しい話じゃないですけど、良いですか?」
「いいの? 無理して話さなくてもいいよ」
「いえ。実はあの日、付き合っていた彼女にフラれちゃったんです。それで、めっちゃショックを受けてて……」
「え? そ、そうだったんだ」
彼女にしていい話かわからなかったが、気になっているようだったので、正直に話す。
ヤバイ。もっと気を遣わせちゃうかも。
「ご、ごめんねっ! そんなだったのに、私の不注意で……」
「いいえっ! 葉月さんは何も悪くないですよ。それでショックで回りに注意が行かなかったのかな。はは……」
「う……でも、私のせいで余計に辛い目に……」
「そんな。あの時はショックでしたけど、葉月さんと出会えて、むしろ良かったです」
「ほ、本当?」
「はい」
もうこれだけで救われた気分だ。と言っても、あの二人を許す気には全くなれないけど、人生、嫌な事ばかりじゃないな。
「へ、へへへ……ありがとう。中田君……あ、進一郎君、凄く優しくて素敵な人だね」
「あ、はは……」
「そうだよ。お姉さんも君に会えて嬉しいよ。ね、この先も仲良くしてくれる?」
「もちろん」
「本当? ありがとーっ! じゃあ、またデートしようねっ! ちゅっ♡」
「――っ!」
葉月さんが俺の不意に抱き着いて、顔を密着させると唇に柔らかい物が触れる。
え……ちょっと待って。今のってもしかして……
(キ、キス……されちゃったっ!?)
葉月さんはすぐに顔を離したが、彼女は頬を赤らめはにかんだ笑みで俺を嬉しそうに見つめていたが、今、本当にキス……されちゃったよね?
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