第四話
お礼にと言われ、嬢や店長から渡された物をバイクに積んでやっとの思いで帰宅した。
皆テンション高いし、あれやこれやと絡んでくるから疲労がすごい。
「はぁ……ただいま」
ガラガラと玄関をあけて、中に入るとリビングの方の明かりがついていた。
「あれ?ネピトー、まだ起きてたのか?」
「あら、帰ってきたのね。お帰りなさい。また大荷物ね」
「あぁ、お礼だって言われていろいろ持たせられた。美容とかの物が大半だから適当に使って良いぞ」
「あら、澪に対してのお礼なのにそんなこと言って良いの?まぁ、ありがたく使うけれど」
お礼の品は大半が美容パックだとか、フェイスマスクとか、化粧水とか、そんな物だった。
私はそこら辺に興味もないし、知識もないから、ネピトーに渡して、ネピトーが勝手に私に使うという感じになっている。
「寝ててよかったのに、何してたんだ?」
「待ってたのよ。お昼過ぎに約束したでしょう?」
一瞬何のことかわからなかったが、腕相撲勝負の時に言っていたことだとすぐに気がついた。
「ふうん……」
「私、お風呂は終わってるから、後は澪だけよ。香水の匂いは落としてきてね」
あぁ、やっぱり嬢達の香水の匂いが移ってるか。
「一緒に入ってくれねえの?」
「嫌よ、髪乾かすの大変なんだから」
「じゃあ、仕方ないか」
荷物を置いて風呂に向かうとほかほかの湯船が待っていた。
ネピトーが入れたのだろう乳白色の入浴剤が入ってる。
さっさと頭と体を洗って湯船につかると、気の抜けた声が出た。
「ふぁ~……」
湯船につかりながら、ボーッとしていると脱衣所の方で音がした。
気になって風呂場の扉を開けてみると、ネピトーがドライヤーを片手に何かをしていた。
「何してんの?」
「澪はいつもタオルで髪を拭くとそのまま放置しちゃうから、乾かす準備してるのよ」
「ふ~ん……」
私はネピトーほど髪が長くないんだから放置でも良いのに。
「う~ん、やっぱり浴槽はもっと広い方がよかったかしら……」
「なんだいきなり」
「だって、脚を伸ばせないでしょう?」
「別にかまわんが」
「それなら良いのだけれど……。早く上がってきてね」
ネピトーはそういって去って行ってしまった。
私はすぐに湯船から出て、さっさと用意をしてリビングに行く。
「あら、早かったわね」
「早くしろって言ったのはそっちだろ」
「もうちょっと湯船につかってると思ってたのよ。さ、ソファに座って、髪を乾かすから」
「うん」
ソファに座ると、カチンという音の後に暖かい風が吹き出す。
ネピトーの優しい手が頭に触れて、髪をとかしながら乾かす。
ブオォンという些かやかましいドライヤーの音を聞きながら、流れ続けるテレビを見つめる。
「あ、アゲハ蝶の三姉妹誘拐事件ニュースになってる」
「あら、あの子達誘拐されたの?へぇ、身代金……」
「まぁ、何事もなく解決したけどな。雑魚しかいなかったわ」
「それはよかったわね。皆、怪我はなかったの?」
「擦り傷とかはあったけど、大きいのはなかったよ」
昼間に起きた事件の話をしたり、明日のことを話したりしていると髪を乾かし終わってしまった。
ネピトーがドライヤーを置きに行っている間にテレビを消して、リビングの電気も消して、寝る準備をする。
片付けが終わって、寝室に向かう。
ベッドが視界に入ったとき、とんでもない物が転がっていて驚いた。
何このプレイ用に使いそうな長い赤い縄と口枷……。
「あら?何してるの?」
「あ、ネピトー。何これ、ガチもん転がっててびっくりしたんだけど」
「あぁ、使うかなと思って用意しておいたのよ。それ用の物じゃないと痛くなるってネットで見たから」
「そういう……。で、その格好は?」
「盛り上げるなら徹底的にと思って」
「そう」
寝室に入ってきたネピトーは褐色肌に映える透け感のある白レースのランジェリーに身を包んでいた。
脚にはニーハイソックスと、ガーターベルトを着けている。
「好きでしょ。白い下着、これちょっと前にプレゼントしてくれた物よ」
「似合うからな」
「この前はヒョウ柄だったわよねえ?」
「趣味だよ、悪いか」
「いいえ?」
ネピトーは抱きついてくる。
腹部にネピトーのスイカのように大きい胸が押しつけられて、むにゅりと形が変わる。
「だって、お互い様だものね」
ネピトーの手が服の中に入ってきて、肌をなぞるように服をまくっていく。
白いTシャツの下からは少し前にネピトーに渡された黒い下着が見えていた。
「余裕だな。今から私の好きにされるのに」
「きゃっ!」
ネピトーの二の腕を掴んでグイッと引っ張り、ベッドに転がす。
綺麗な黄金色の長髪が、ベッドに転がした拍子に扇のように広がる。
「んもう、強引ね」
「嫌じゃないだろ」
「ふふ、まぁね」
余裕そうに笑いやがって……。
シャツと半ズボンを脱いでその辺に放り投げ、ネピトーに覆い被さる。
軽く、子供の戯れのように唇をあわせる。
「で、明日の予定のリクエストは?あるんなら手加減するけど?」
「そうね、午後には港の方に新しくできたカフェに行きたいわ」
「何も事件がなければ、連れてってやるよ」
「楽しみにしてるわ」
ちゅう……。
またキスをする。
今度はさっきしたような子供の戯れと違って、長く、深く……。
ネピトーの柔い唇をペロッとなめると、何も言わず口を開けてくれた。
舌を差し込んで舌を絡め、歯列をなぞり、瞳を見つめる。
「ふっ、うんぅ……」
「ふっ、はふ……」
ネピトーの瞳が段々と、トロンと溶けていく。
「んう……」
ネピトーから離れると銀色の糸が互いから伸びて、プツリと途切れた。
「血の匂いなんてかき消してあげるから、優しくしてね?」
「はいはい」
二人の影が重なって、夜が更けていく。
これが私たちの日常。
朝起きて、事件が起きて、お昼ご飯。
そしてまた事件が起きて、夜になる。
これが奈落場市の日常。
本来ならば非日常であると明記されるだろう一日。
それでも、この町においては、当たり前の日常なのだ。
同じ夢を見ている__文学フリマ 猪瀬 @inose-isisi144
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