第二話
その後、アゲハ蝶までいって犯人の特徴を教えてもらう。
その間に終わった逆探知の場所が近場だったから私が行くことになった。
言われた場所に行ってみたものの、そこに残っていたのは捨てられた新品の携帯だけだった。
残された携帯からサルベージされた情報はほとんどなくて、次にやったことは監視カメラから情報を得ることだった。
アゲハ蝶の近くにある店に話をつけて映像を見せてもらい、車種とナンバーを特定したものの、盗難車であることが判明。
監視カメラの映像と目撃情報を追っていくことで犯人達の居場所を特定。
金を渡して油断させたところで、取り囲んでいたのが一斉に流れ込み捕獲が成功。
今回の件の黒幕は私が倒した。
まぁ、そんな感じで事件を解決した。
頬を赤くしてしなだれかかってきたり、腕を絡めてきたり、胸を腹に押しつけてくる嬢達に呆れつつ、なんとか離れてくれないだろうかと考える。
「私じゃなくて、他の連中に引っ付いてやれよ」
「いやよ、いやよ。澪の方が素敵なんだもの」
「そうよ、そうよ。情けないのはいやなんだもの」
「ほんと、ほんと。皆そろって度胸ないんだもの」
「ボロかすに言うなぁ……」
あぁ、周りにいる男衆がしょぼんとしている……。
かわいそうに……。
「澪、後でお店に来てね~」
「まってるから~」
「絶対よ。絶対来てね。私たちのおごりだからね~」
「あぁ、はいはい……」
あの三姉妹どころか、嬢の連中は引っ付いてくるからかなわん……。
下手をうつとネピトーを怒らせてしまうから勘弁してほしいのに……。
三姉妹と別れたあたりで、午前中が終わったので愛機に乗ってネピトーがやっている定食屋の『ほかほか亭』に向かう。
港町方面にあり、私たちの住んでる家の一階にある。
ほかほか亭は8時頃から開いていて夜の10時頃に閉まる。
一品物から、定食、あとは夜になるとアルコールまで提供していて、ご飯時になるとよくお客が入る店。
あたりでは有名で、繁盛している方だろう。
「今日の飯は何かな~っと」
今日は遅めの昼食です。
バイクを脇に置いてガラガラと入り口を開けると、たくさんの人が入っていた。
近くの工事現場から来たであろうお兄さん達、近くに住んでいる主婦やちびっ子、あとは近くに仕事場がある人たちとか、色んな人がいる。
ちびっ子が手を振ってきたので、手を振り替えしているとネピトーが私がやってきたのに気がついて話しかけてきた。
「あら、来たのね」
「ん、日替わりなにがあんの?」
「唐揚げと塩鯖よ。何にする?」
「唐揚げと緑茶」
「は~い、じゃあ、座って待っててね」
言われるがまま、大人しく定位置である店の奥の奥にある席に座る。
客達が食事をして、去って行く様をボーッと眺めていると定食が運ばれてきた。
「丁度良い温度になってると思うから早く食べてね」
「ん……」
ネピトーのご飯はおいしい。
和食、洋食、中華、イタリアン、どれをとっても旨くて、特においしいのがネピトーの母直伝らしいカレーだ。
今日のメニューにカレーはないようだが、唐揚げもとてもおいしいのだ。
外はサクサク、中はジューシーで食べてて飽きない味をしている。
私は猫舌なものだから、少しばかり冷めた物を貰ったが熱々なのもおいしいんだろう。
私が唐揚げを食べ終え、緑茶を飲みながらゆったりしていると、段々と客が少なくなっていく。
時計を見てみると時刻は午後二時をゆうにすぎていた。
お昼ご飯にするにはいささか遅い時間帯、客が減ったのを見たネピトーが今夜出す物の用意をするために冷蔵庫を開けたのだが、「あら……」と呟きが聞こえた。
「澪~」
「んう?何?」
「この後、仕事何かある?」
スマホの電源をつけて確認してみると今のところ何にも連絡は入っていないし、元々何かする予定もなかった。
「ないけど」
「じゃあ、お使い行ってきてくれない?昨日の買い物で買い足したつもりだったんだけど、忘れてた物があったみたいなの」
「わかった」
買う物を書いたメモとお金を渡され、ほかほか亭を後にする。
バイクに乗って近くの商店街に行くと八百屋が強盗に襲われていた。
「うわ……タイミング……」
まさか私が来たタイミングで強盗が起こるだなんて……。
「澪さん〜!たすけて~!」
おっと、人質にとらわれている八百屋の店主に見つかった。
強盗犯は私をキッと睨み付けて、こっちにナイフを振り上げた。
ナイフをこちらに向ける気なんだろう。
「こっちに来るんじゃ……」
強盗犯の視線が私の背後に一瞬だけずれた。
バキン!!
カランカランと音を立てて、ナイフの刃先が地面に転がる。
「は?」
強盗犯が振りあげたナイフを見上げて、間抜けな面をさらす。
「警戒すべき相手から視線をそらすべきじゃなかったな」
私の手には拳銃が握られており、銃口からは煙が上がっている。
強盗犯の視線が私から逸れた一瞬の隙を突いて、ナイフを拳銃で撃ち抜いて壊した。
「て、てめ__がっ!」
強盗犯は正気に戻ったが、私の投げつけたスニーカーが顔面に当たって地面に倒れることになった。
この後、商店街の人たちによって縛り上げられた強盗犯は警察に連行されていった。
運が良いのか、助けた八百屋が野菜を安くしてくれたので渡されたお金が余った。
ついでにと、私のお金でネピトーと私の二人分のアイスを買ったので後で二人で食べようと考えながらほかほか亭の扉を開けると随分とうるさいことになっていた。
「なんの騒ぎ……だ……」
「おお!澪じゃねえか!」
人のまばらになったほかほか亭でここまでうるさくなることとか、そうそうないのに、なんて思っているとある男達が視界に入った。
港で働く漁師達だ。
「……随分と集まってるな。騒がしい」
「いやなに、今日は午前で競りが終わって、もう漁にも出ないからな。飲みに来たんだよ」
「昼間から酒飲むなよ……」
呆れながら、頼まれた物を台所に入って冷蔵庫にしまう。
アイスはネピトーが忙しそうにしているから後の方が良いだろう。
「何か手伝う?」
「じゃあ、ジョッキを三番卓に持って行ってくれる?」
「わかった」
三番卓、つまり酒飲み漁師達がたくさんいる卓だ。
「ビールでーす」
抑揚のない声で言って、ビールが並々と入ったジョッキを机の上に置く。
「棒読みじゃねえか」
「もっと可愛くしろよ」
「ネピトー以外に対して可愛くする必要はない」
「筋金入りだな……」
女子供相手にするんだったら多少考えはするけれど、屈強な酒飲み漁師連中に対して可愛らしく振る舞ってやる気なんて微塵もない。
空になったビールジョッキを持って台所に戻ってみると、洗い物が積まれていた。
ネピトーは料理を作っているから、代わりに洗い物をしていると、ネピトーと漁師達の会話が聞こえてきた。
「いいよなあ。ネピトーちゃんは料理も上手だし、愛想も良いし、美人だし、しっかりしてるしさ。澪の奴が羨ましいよ」
「あら、お世辞を言っても安くしないわよ?」
「お世辞じゃなくて本心だし〜。なぁ、澪なんてやめて俺にしねえ?」
漁師のうちの一人、最近奈落場市にやってきたという若い男がネピトーを冗談交じりに口説きだした。
「……」
洗い物をするのを止め、桶の中に転がっていた包丁に手が伸びる。
「やめとけやめとけ、澪にゃ勝てねえよ」
「下手な男より澪の方が夜の蝶達に人気だもんな」
「腕っ節もあるしな」
「何よりネピトーちゃんが澪にゾッコンだからな」
がははと豪快に笑うおっさん達に、きっぱりと私に勝てないと言われた若い男は不服そうだ。
「え〜……。てか、本当に澪の方が腕っ節強いの?確かに俺よりも背は高いけど、細身の女だぜ?」
「強い強い、気になるんだったら試してみれば良いさ。丁度、本人もやる気みたいだしな」
「……べつに、何も言ってないが?」
突然の指名に、包丁から手を離し漁師達を見据える。
「何言ってんだ。こいつのこと刺し殺しそうなくらい睨み付けてたくせによ」
「え?俺、睨まれてたの?」
若い男に問われたが、否定も肯定もしなかった。
若い男に対して殺意があったかどうかについてだが、まぁ……ちょっとだけあった。
首をかしげる若い男を他所に、おっさん達は話を進める。
「一回、澪とお前で腕相撲でもすれば良い。なんで澪がお前よりも腕っ節が強いって言われてるのかすぐにわかるさ」
おっさん達、面白がってやがるな……。
人の気も知らないで勝手に言いやがって……。
「腕相撲?良いぜ!いくら身長が自動販売機くらいあるからって、漁で鍛えてる俺が負けるわけねえだろ」
「慢心はいけねえなあ。いっぺんその鼻っ柱折られてこい」
「ひっで〜......。な、な、腕相撲しようぜ。そっちが勝ったら旨い魚たくさんおごるからさ」
「……」
相手はやる気満々であるが、私はそうではなかった。
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