同じ夢を見ている__文学フリマ

猪瀬

第一話

薄いカーテンから光が差し、私の目元を照らした。

 唸り声をあげて、だんだん意識が浮上してくる。

 ベッドボードにある銃が鈍く光る。

「澪、そろそろ起きたらどう?」

 褐色の肌が白いシーツをなでつけて、私の白髪と対照的な金色の長い髪はカーテンのように私を覆い隠す。

「うぅ……」

 艶やかな姿の恋人を抱き締めて、ツーッと腹のあたりを指でなぞる。

「んっ……。もう!」

 また布団の中に引きずりこもうとするものの、手を叩かれてお断りされてしまった。

「おいたをしちゃ嫌よ」

「いいだろ、ネピトー……」

「だめよ。朝ご飯を食べなくちゃ。……安心して、血の匂いは取れてるから」

 ネピトーは私を安心させるように言って、床に散らばっている服を着てベッドから出て、そのまま寝室から出て行ってしまった。

 ネピトーがいなくなってふてくされた私は二度寝をすることにした。


 ゆっくりと二度寝を楽しんでいるとネピトーが私を呼ぶ声と、ゆさゆさと揺らされる感覚で起きた。

「お~き~てってば!」

「んあ?……なに?」

「ご飯よ、朝ご飯。さ、冷めないうちに起きて食べなさい」

「ん……」

 眠い目をこすりながらのそのそと起き上がる。

「服着て早くリビングに来てね」

「ん~……」

 大きくのびをして、あくびがこぼれる。

「待ってるから早く来てね」

 ぽうっとしながら、部屋を出て行くネピトーを見送る。

 もう一度あくびをして、ベッドから出てブルリと震える。

 そういや全裸で寝てたんだ。

 体が冷える前にとっとと服を着なければ、床に放り出されているTシャツを着て少し考える。

「……」

 めんどくさいから下着は良いか。

 ペタペタと歩いて寝室から出ると、丁度ネピトーが朝食を机に並べているところだった。

「何作ったの?」

「鮭焼いたのよ。顔洗ってきなさい」

「うん」

 言われるがままに顔を洗って、歯を磨いて、髪を整える。

 いざ朝食。

「いただきます」

「はい、どうぞ」

 焼きたてほやほやの鮭を食べて、白米を口の中に放り込む。

 うん、旨い。

 パパッとご飯を食べて洗い物と洗濯物を済ませると、あっという間に仕事に行かないといけない時間になってしまった。

 いい加減準備しないとなぁと、考えているとネピトーにお尻をつんと突かれた。

「ん?何?」

「澪、お尻見えてるわよ」

「履いてないからね。めんどくさくて」

「履きなさいよ、もう。風邪引くわよ」

「私、病気になったことないし……。ていうか、指で突かないで」

「お尻ぷにぷに……」

 お尻のぷにぷに具合はネピトーの方が上だけれど、それを言ったら怒られてしまうので口を閉じておくことにした。

 お互いに時間もないので、さっさと着替えて仕事に行くことにした。

「行ってきまーす」

「行ってらっしゃい」

 ネピトーに見送られて、家を出発する。


 ここは奈落場市、日本でありながら治安の悪さから日本ではないと言われている場所。

 いわゆる治外法権が適用される場所。

 毎日誰かが死んで、血が流れて、涙がこぼれ落ちる場所。

 ある人は天国と呼び、ある人は地獄と呼ぶ場所。


 はぁ、早くもネピトーのご飯が恋しい……。

 愛機に乗って、風を浴びながら事務所に向かう。

 私はこの奈落場市で杖道会という自警団に所属しており、今日も今日とて治安維持のために奔走するのだ。

 ネピトーも同じ杖道会に所属していて、定食屋をしている傍らで無法者が港町を荒らさないか見張っている。

「来たぞ~」

 奈落場市西部にある杖道会本部である日本屋敷に足を踏み入れると、どうにも慌ただしい事になっている。

「……」

 これは朝っぱらから面倒な事件が起きているんだろうな……。

「おい、何が起きてんだ?」

「あ、澪の姉御!おはようございます!」

 見た目だけ見るとヤクザのそれなんだよなぁ……。

「おう、おはよう。で?また王の中華屋が襲われたの?」

 王のやつ、何度言っても外装に金をかけて豪勢にする物だから金があると勘違いされて襲われるのだ。

「や、違います。アゲハ蝶っていうキャバクラあるの三姉妹嬢が襲われて拐われたって店長から電話があったんすよ」

「はぁ?まじかよ。あそこの連中、揃って気が強いのによくやったもんだな……」

 一人二人の暴漢程度なら蹴り倒す連中だぞ……。

「それが複数犯で、バンに押し込んだようなんですわ」

「はぁ……。で?要求は?」

「金でさぁ」

「ありきたりすぎて面白みもなにもないな」

「いや、面白みとか求めんでくださいよ……」

 金が目的って事は、嬢達は手を出されていないはずだ。

 タイムリミットもあるんだろうが、それでも救出までの時間はまだあるはず。

 金を渡した後はどうなるかわからないから、渡す前に決着をつけたいところだな。

「とりあえず、金の用意と相手の特定、それから突入メンバーの選定だな」

「金の用意は今してます。電話から相手を探知しようとしたんすけど、すんなりいくかどうか……」

「やるしかねえだろ。私は店の方行って話聞きに行ってくるから」

「うす!」

 どうして、こうも朝から事件が起こるのか……。

 毎日誰かが馬鹿騒ぎを起こしているが、流石に一日ぐらいは皆大人しくしてくれても良いと思うんだよ。

 愛機に乗って、また走り出す。

 一日たりとも平和な日なんて物はない。

 それが奈落場市の日常。

 それが私たちの日常。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る