第六話 引退宣言
その後、三人の話し合い――というよりもいがみ合いの結果。
放課後、何かしらの方法で正式に勝負をして、その結果如何で剣を自由にして良い、ということに。
「なんで私が同意もしてないのに……」
剣はぼやく。
場所は食堂。
一人で昼食。
放課後のことを考えると憂鬱になるが、今は食を優先。
ぼやきもほどほどに、黙々と食べる。
品目は学食の定番、期間限定の中華そば。あまり美味しくない。
「――おっ、剣ちゃん!」
不意に、剣を呼ぶ声。
同時に肩を叩かれる。
顔を向けると、そこには真希が立っていた。
「隣座ってええか?」
「やめてもらえますか」
「じゃあ座るわ」
真希は無理に隣へ。
真希の昼食はからあげ丼。
学食のメニューの中では比較的美味しい方。
「ところでな、剣ちゃん。ちょっとお願いがあるんや」
一方的に話し続ける。
剣は話を聞きたくないので、返答せずにラーメンを食べる。
美味しくない。
「野球部入ってくれへん?」
単刀直入。
剣は口の中のものを咀嚼し飲み込むと、即座に返答する。
「嫌です。もう二度と野球はやりません」
「なんでや。あんたも超野球少女やろ?」
「野球は嫌いなんです」
「嫌いやのに、わざわざグラウンドに立って勝負したんかいな」
「貴方が危ないってことを認めなかったからですよ」
「そんなめちゃくちゃな。
嫌いなんやったら、そんなんこだわらんでええやろ。
口で適当言うても、取り繕えへんもんがあるで。
あん時の剣ちゃんを見たら誰でも分かるわ。
あの拘りよう、あの魔球。
見りゃあ分かる。
どんだけマケて見積もったところで、剣ちゃんは野球のこと気になってしょうがないんやろ」
鋭い指摘。
だが、当然の結論でもある。
剣は後悔する。
あの時、自分の拘りを捨てられなかったから事態が厄介になってしまった。
嫌いだ、という嘘は通用しない。
かといって、全てを話すことも出来ない。
「……私は、野球をやってはいけない人間なんです」
言ってラーメンを食べる。
もう話したくないという意思表示。
だが、真希は構わず言葉を浴びせかける。
「やったらあかんってどういうことや。
そんなことあるかいな。
野球やりたいんやったらやりゃあええんや。
誰かに止められとるっちゅうことか?
親に辞めろとでも言われたんかいな。
そんなもん無視せえよ。
本当は、剣ちゃんは野球がやりたいはずやろ。
どんなしがらみがあろうが、構うな。
放りたいだけ白球を放れ。
ウチが全部受け止めたる」
「ごめんなさい。
それでも、私は野球はやれません。
そんなこと、出来るはずが無いんですよ」
剣は泣きそうな、震える声で言った。
どうも様子がおかしい、と真希も悟る。
これ以上要求したところで逆効果だろう。
「……すまんな剣ちゃん。
そんなに無理なんやったら、しゃあないわ。
今回は諦める。
でもな、もし野球がやりたいっちゅうんやったら、ウチはいつでも味方になるで。
剣ちゃんがボール投げるんやったらウチが受ける。
投げへんのやったら、しゃあない」
それで話は終わりだった。
その後、昼食が終わるまで。
真希も剣も、一言も発さなかった。
先にラーメンを食べ終えた剣の一言が、沈黙を破る。
「……あんまり美味しくない」
これに、真希が吹き出す。
「そら災難やな」
「まあ、分かってて注文したんですけどね」
「なんでや。不味いんやったら頼まんでええやん」
「だって期間限定ですから。つい頼んじゃうんです」
そんなやりとりをして、二人は別れた。
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ツルギの剣 narrativeworks @romchou
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