聖夜

「あー、可愛いな、もう」

 友嗣ともつぐは悶えている。

 日はすでに暮れていて、おそらく愛しい彼はもうすぐ来るだろう。

 何度となく読み返してはニヤニヤと笑顔を向け、文に頬擦ほおずりしている友嗣は、どこからどう見ても変質者である。

 しかし、恋は盲目。彼自身はそんなこと、気にも留めない。

 それに邸に住むのは友嗣一人で、あとは女房にょうぼうやら舎人とねりやらがいるだけだ。見咎みとがめる人間はいない。

 しかし、と友嗣はその文をまじまじと見た。

 はたして、彼がこれほど素直に想いを告げてくれたことがあっただろうか。

 いや、確か、一度だけある。

 その昔、お互いが好き合っていることに気が付きながら、自分の気持ちに戸惑い、周りを気にして、言い出す頃合ころあいをなかなか掴めなかった、あの日々。

 それを脱したのは、彼が全力で体当たりしてきたからだ。

 友嗣が一人でいた時に、俊雅としまさは文字通り体当たりをしてきたうえ、恥ずかしさで顔を紅くし涙を浮かべながら、叫ぶように想いを告げてくれたのである。

 あの時は、直球だった。

 だがあれ以来、彼が想いを告げてくれたことは無いに等しい。

 愛情表現はあるのだ。突然抱きついてきたり、遠慮がちにすそを掴んできたり、不意討ちで口付けられたり。

 けれど、言葉にはしてくれなかった。 

 まあ、顔を紅くしながら行動に移す姿は思わず押し倒したいほど可愛いし、自分だけにしかそういう行為をしないのだと分かっているから、構わないのだけれど。

 でも、やはりこうやって言葉で表してくれるというのは嬉しいものだ。

 興奮しても仕方がない。

「友嗣、来ました」

 愛しい俊雅の声に、がばりと顔を上げる。

 視線を、寒さ避けのために下ろした御簾みすに彷徨わせる。目的の人物を見つけ、立ち上がって彼のもとへ足早に駆け寄った。

 友嗣は、御簾を上げて笑みを浮かべる。

「いらっしゃい、俊雅。さぁ、入った入った」

 中へ招くと、彼はいそいそと入ってくた。少し遠慮がちなのがいじらしい。

 俊雅が中へ収まるなり、友嗣は彼を後ろからぎゅうと抱き締めた。

 頭一つ分以上違う背丈のせいで、俊雅の頭は胸元に当たるの。これがまた可愛くてたまらない。

 不意に抱き締められた俊雅は、回された友継の腕を叩きながら、慌てて口を開いた。

「ちょ、何するんですかっ!」

「ん~? 補給~」

「ば、馬鹿なこと言ってないで、離れてください!」

 顔を真っ赤にして暴れる俊雅だが、力も体つきも友嗣の方が優位である。

 暴れる彼の手を掴んで押し倒せば、彼は顔を紅くしたまま睨んできた。

 無駄だと分かっているくせに、なおも地面に縛り付けられた手を解こうともがく。

 これを可愛くないと言う人間がいれば、ぜひお目にかかってみたい。

 結局諦めたのか、俊雅は一つため息を吐いておとなしくなった。

 そして、呆れたように呟く。

「あなたは、こういうこと以外の頭は無いんですか」

「いや、そんなことはないはずなんだけどな。俊雅を見ていたら、気持ちがはやって」

「まったく、あなたは……」

 普段は照れ屋で素直ではない彼だが、男らしい時もあった。それが、今のような時である。

 友嗣の言動を、呆れながらも受け入れてくれる俊雅。彼は、やはり友嗣にとってかけがえのない存在なのだ。何度だって、それを確認させられる。

 俊雅は仕方ない人ですねと言うと、瞬間、友嗣に口付けをした。

 触れるか触れないかの、本当に一瞬のこと。けれど間違いない。彼が体を起こし、唇を近付けて来たのだ。自ら。

 友嗣はたまらなくなって、俊雅の肩口に顔を埋めた。

「ちょ、友嗣!?」

「ああ、もう。可愛すぎだ。どうした? 今日は積極的だな」

「……初雪、ですし」

 顔をさらに紅潮させて、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟かれた言葉は、友嗣の熱を一気に昂らせる。

 初雪だからなんて言い訳に過ぎないことは、お互いよく理解していた。

 今日だけは素直に行動しようと、決意して来たのかもしれない。

 ああ。もう、だめ。限界。

 込み上げる衝動に逆らうことはしなかった。


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