燃ゆる思ひ

「は、ずかしい人ですね……」

 みなもとの俊雅としまさは、文に目を通すなり溜息を吐いた。

 この真っ白な和紙に書かれた歌は、間違いなく惚気である。

 わざわざ一般書類に紛れ込ませてくるあたり、忍びの恋だという自覚はあるらしい。けれど、問題はそこではない。

 こんな歌詠む暇あるなら仕事してくださいよ、と声には出さずに呟いて、俊雅としまさは傍らから紙を取り出す。

 仕方ない、きちんと返してあげるよう。 なまじ朝廷で顔を合わせられる分、滅多にしない歌のやり取りなのだ。

 普段はお互いの家族や周りを気にして、さらには余計な矜恃きょうじが邪魔をして、なかなか思いをそのまま伝えることができないから。今くらいは、素直に。

 俊雅は、同じく白い紙に、返し歌を書き綴る。


 白雪は 寒きにありし ものなれば 燃ゆる思ひに 溶けて消えなむ

 ――白雪は寒い日にあるものです。貴方が私を白雪だと言うのならば、私は己の内に燃える思いの火で溶かされて、消えてしまうでしょう。貴方への思いは、堪えず熱いものだから。


 我ながら恥ずかしい歌を詠んでしまったものだけれど、まあ、たまになら。

 どういう反応をするだろうか。喜ぶかな。そうだったら良い。

 今日は彼の住む邸での逢瀬。さて、一体何を言われるだろうか。

 早く、夕方になれ。


*****

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