時間停止能力持ちの俺がクラスのみんなの思い出を守るまでの話

大外内あタり

第1話 その思い出に

 もし、袋いっぱいに宝石が入っていたら、誰かは一番きれいな宝石を選ぶだろう。

 じゃあ、残された宝石はどこへ行くのか。

 父さんは、いつも「どうする」と言っていた。

 オレは「全部もってくよ」と言うんだけど、

『それはとっても重いんだよ』と悲しそうに笑う。

「それでも! オレは全部もってくから!」

 小さいころのオレは何でもできると思っていた。高校二年になり、今もそう、行動すればするだけ、誰かを助けることができる。


『サプライズッ、オープン!』

 携帯の表を空に、その上に『約束』を。

 白上しらかみゆりかの「約束のミサンガ」がくるくると周り、ゆりかの後ろに紐状の巨人が出てくる。

「くっそ、南方高校の巨人女かよ!」

 目の前にいた生徒二人の内、一人が制服とサプライズを見て叫ぶ。

「オレが足止めするから行け! サプライズ・オープン!」

「やってんことわかっとる!? 不意打ちのサプライズ回収は違法や!」


 ゆりかの声に、俺はスッと胸ポケットから携帯を出して、その上に親父の時計を乗せる。

「サプライズ、オープン」

 ふわりと親父の時計が浮いて場が止まる。

「とっとと、まどかくん、時間止まらせなば言ってくう」

「ごめん、白上しらかみさん。相手が煙系みたいだったから」

 ゆりかは気づいたように殿を任された男子の背景が曇っているのを見て「ありゃあ」と口に出した。


 彼女のサプライズは糸の巨人。最大の物理攻撃系のサプライズ。

「とりあえず、縛っとこ」

 煙のサプライズを使おうとした男子、逃げだそうとした男子を無理やり座らせて縛ると、

解除リリース

 浮いていた時計を回収すると時が動き出す。

「いぎっ」

「くっそっ、そいつ時間系ってことは南方の春チームだな!」

 一人が地面に倒れると恨みがましそうに俺を睨みつける。


「とりあえず、回収ちゃ」

 二人から、二人のプライズと依頼があった人のサプライズを回収して、ゆりかはポイと二人を地面に放った。

「いてっ」

「なんでサプライズを奪った?」

 俺の声に二人は無視を決め込み、目線をそらす。

「いいだろうよ! サプライズ無しからスマホを奪う! みんなやってんだろーが」

 サプライズがなくとも、かなりの負担だがスマホからサプライズを顕現させることはできる。

 しかし、途中で息切れて倒れてしまうのが通常だ。

「その奪い担当、ちゃね」

 ゆりかがスマホを出して秋チームの城島じょうじま歩羽利ふうり連絡する。

「あ、ふーちゃん、犯人捕まっちゃねん」


『サプライズ』

 己の心にある喜び、悲しみ、憎しみ、そして思い出が詰まった個々の一品。

 この都市では高校生二年生の間だけ『サプライズ』が決まり、顕現させるスマホを奪い合う争奪戦が起こる。

 思い出の品で異形を目覚めさせ戦う。そういうルールだが、コイツらみたいにサプライズをこっそり奪い、別チームがサプライズ無しに攻撃を仕掛けてスマホを奪う。


 そう奪い合うのは支給されたスマホ。

 高校ごとのポイントになっている。だからサプライズを奪うことはスマホを簡単に手を入れられるのだ。

 そして、うちのクラスは「正義」に生きていた。

 不意打ちで戦闘もせずに奪われた人からの依頼で取り返す。

 今回はサプライズを奪い、別働隊にスマホを回収させようと仮作していたようだったが、すでに依頼人のそばにはクラスで何人か護衛に回っているので、安易に盗られることはない。


「通報ちゃ」

 混ざった方言で話すのは今回バディを組んだ白上しらかみゆりか。

 そして俺、今上円こんじょうまどかの二人。

 五人一組なのだが、今回の相手が奪う役・回収する役と別れているのを知って、クラスで最大火力のゆりかと時間を止められる俺が奪った側を追跡し、こうして捕まえた。


 通報された人間はスマホの回収と思い出の品が「委員会」に取られる。

 そして二度と思い出に関する記憶が欠落してしまうのだ。

「バカなことやりやがって」

 ごちると座らされていた一人が俺に向かって、

「サプライズ奪って本人襲撃なんて常套手段だろうーが」

「規定では一対一の勝負にてスマホの受け渡し、だろ」

「ハッ、委員会様はそこまで見てねえだろ。だから、オレたちみたいなのが未だにいるんだよ」

「記憶がなくなるんだぞ?」

「ハーッ、優等生様だな。オレは無くなったっていいね」


 こいつの言う通り、サプライズは人ぞれぞれで「いいも」「わるいも」ある。

 だから、忘れてもいい規定違反でチームを作り、辻斬りみたいなことをやつらがいるのだ。

 そのチームは捕まらないうちは率先して奪い、ポイントを稼ぐ。

 奪ったスマホを自分たちのクラスのポイントにする特攻隊である。


「オレのは親父のタバコの煙だよ。同情してくれよ。暴力親父の思い出なんていらないね」

「同情だけでいいならしてやる。運がなかったな」

「ハッ」

 ゆりかに攻撃しようとした男子のサプライズ由来を聞いて同情してやる。

 俺がサプライズを使ったのは煙に物理攻撃が効かない可能性があると判断して、時限式のサプライズ『父の時計』を使ったのだ。


 この都市には三つの高校があり、そのうちの二年生一クラスが『奪い合い』に参加する。

 だが、最後まで自分のスマホを持っていた時点で勝ちでもあり、頭の中での思い出を一生忘れないようになるぐらいで、敗者の方は忘れるだけ。

 積極的に奪い合うのは「そうしなければ」という気持ちが沸き上がるからだ。

 いやな勝負だと俺は思う。

 でも誰かが参加するのであれば協力してやりたい。

 奪われたら奪い返してやりたい。


 俺のサイプライズは『父の時計』

 綿々と続く今上こんじょう家に伝わる長子だけに渡される時計。

 効果は時間停止。

 しかし、それは一族が生きてきた分だけの時間。

 曾祖父の時代からあると聞いているので、この一年間は余裕でもつと思っている。

 外した時計を付け直すと、その文字盤を撫でて早くに死んでしまった父を思う。


 とても重い宝石たちでも、俺は全員の思い出を守ってやりたいんだ。

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