第3話 暗い希望


これは...メモ?

本から落ちた紙はメモ帳サイズの小さい紙で、裏にはインクが滲んでいる。


この本に挟まっているという事は、勉強かなんかのメモだろうか。

どうであろうと、拾わない理由は特に無い。

...無いのだ。

腰を屈め、指で摘むだけ。たったそれだけ。それだけの事が、出来ない。

あまりにも、あまりにも非情で、そして理不尽な現実は、私を縛り付けるのに充分だった。



どのくらい経っただろう。

しばらく呆然としていた。

本を閉じ、床に落ちたメモを見ながら硬直する私を、周りの人間はどう感じただろうか。

姉は、もう戻らない。

戻らないなら、どうする?


"解放"


そんな言葉が頭をよぎる。

そうだ、私はお姉ちゃんに何でもしてもらった。

たくさん助けてもらったし、愛してもらった。

なら、私が最後にしてあげることは、1つ。


...お姉ちゃんを救わなきゃ。

お姉ちゃんをこんな事にした社会から。

お姉ちゃんをあんな状態で放置する奴らから。


狂ってしまった肉塊から。



私は、メモを拾いあげる。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

蘇遺会 藤有ビル B2F 8/12 19:00〜

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



メモには、短く、簡潔に、場所と日時が書かれていた。

文面通り受け取るなら、蘇遺会なる組織の集まりが、藤有ビルで8月12日に行われるという事なのだろう。

蘇遺会...


もしかして、私と同じ様な人が集まっている?


...分かっている。こんなの、ろくでもない組織の可能性の方が高い。

過激な人もたくさんいるかもしれない。


何があるか分からない。もしかしたら私の思ってるような組織では無いかもしれない。


それでも、こんな図書館にある本には載っていない何かが、そこにはあるかもしれない。


行く価値はある。




私は、スマホを取り出し写真に撮ると、メモを見ていないフリをしながら本に挟んだ。


震えた手で本を棚に戻す。


胸は暗い希望に包まれ穏やかだった。

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2025年12月19日 20:00

蘇るなかれ かきたね @kakinotane0612

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