第5話 失敗の共鳴
俺は岩盤に触れた手を離した。
(素手で壊すのは不可能。騎士団が戻ってくる前に、突破する方法が必要だ。
だが、俺は攻撃スキルを持たない)
俺の脳裏には、先ほど見たラーメンの背脂の輝きと、
エリアが俺を壁に叩きつけたあの瞬間の光景が、同時に鮮明に蘇っていた。
エリアは俺のスキルを「防御」に利用した。
ならば、俺のスキルを「攻撃」に利用する方法はないのか?
俺のスキル【聖域の加護】は、対象へのあらゆる物理・魔法干渉を完全に遮断する。
(遮断……つまり、「絶対に壊れない防御壁」を、他者に付与できるということだ。
もし、俺がエリアにスキルを付与した状態で、彼女をこの岩盤に思い切り叩きつけたら?)
岩盤が壊れる前に、彼女の体が壊れる。通常であればそうなる。
だが、彼女の体は【聖域】に守られているため、衝撃を一切受けない。
岩盤に激突するのは、彼女の体ではなく、「絶対に壊れない防御壁」なのだ。
それは、矛を盾にぶつけるという、自殺行為にも近い論理の飛躍だった。
(俺が考えた方法じゃない。この不公平なスキルと、俺を裏切ったエリアが思いつかせたんだ。
全ては、ラーメンのためだ)
しかし、エリアは今、左の通路を逃走している。彼女を呼び戻す時間はない。
そのとき、壁の向こうから、何かがこちらへ向かってくる微かな音が聞こえた。
(騎士団じゃない。足音ではない。何かが、回転している音だ)
その回転音は、エリアが左の通路で直面した「次の異常」の余波だと直感した。
そして、その回転音が、エリアの逃走ルートだった左の通路から、
俺がいる右の通路の行き止まりの岩盤を通じて、微かに共鳴し始めている。
「ド、ド、ド、ド、ド、ド……!」
振動は速く、まるで巨大なドリルが岩を削っているかのような音だ。
その音と共に、ダンジョンが作動した。
騎士団を避け、エリアが左の通路を進んだことで、彼女はそこで何らかの「問題」を解決し、
それが再びスケールアップして俺のいる場所に押し寄せてきているのだ。
岩盤が耐えきれなくなり、ヒビが入り始める。
(時間がない。この回転する何かは、この岩盤を貫通する。
俺はここで、遠く離れた場所で起きたエリアの「解決」の巻き添えで死ぬんだ)
絶望的な状況。
俺は、岩盤の前に立っていた。
(仕方ない。誰もいないなら、これを使うしかない)
俺は、瓦礫の山から、両手に持てるサイズの、鋭利な瓦礫を二つ拾い上げた。
そして、その瓦礫の一つを「エリア」だと見立て、もう一つの瓦礫に【聖域の加護】を発動した。
黄金の光が、小さな瓦礫を包み込む。
「【聖域の加護】!」
俺は、光に守られた瓦礫を、もう一方の瓦礫に思い切りぶつけた。
キン!という金属的な甲高い音が響き、瓦礫は光に弾かれて粉砕された。
そして、俺は、黄金の光に守られた「絶対に壊れない弾丸」を、岩盤のひび割れた一点目掛けて、全力で投げつけた。
ゴオオッ!!
爆発的な音と共に、岩盤に弾丸が食い込み、貫通する穴が開いた。
俺は息を呑んだ。この「絶対に壊れない盾を矛にする」という発想は、成功したのだ。
だが、それと同時に、岩盤の向こう側から、回転する何かの巨大な先端が、
その穴を通じて俺のいる通路に顔を覗かせた。
それは、巨大な「胃酸混合攪拌ドリル」だった。
(俺は今、ドリルに貫かれた岩盤の穴を、唯一の希望として見つめている)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます