第5話


『とりあえずこちらでも動くつもりだ、なにか進展があれば報告する。晃一、悪意には気を付けろよ』


『ん、了解』


 俺は手短に返事をして電話を切る。


「一体これはなんだ。デマに加えて悪意マシマシじゃねえか。それに肋骨折ったって、俺たちか警察の人くらいしか知らない情報だろ。どうして外部に流出しているんだ」


 加えて俺は警察官の息子であって、警視総監の息子ではない。一体どうなっているんだ全く。

 それに、どうにも引っかかるのはこの写真だ。なにか違和感がある気がする。


「三鷹くんは誰かにこの件をお話しましたか?」


 俺は首を横に振る。今回の件はもちろん、親の職業の話なぞ外で一度もしたことがない。


「つまりこの学校に、おそらく俺に対して悪意を持っているやつがいるってことだよな?」


「ええ、そうです。この犯人は極めて身近な人間だと思います」


 そう言って彼女はスマホを俺に見せる。

 これは佐藤のアカウントか。今朝投稿した俺の写真が並んでいる。残念ながらバズってはいないようだ。

 例の拡散された写真と似ている、というか同じものであろう。


「これってつまり、佐藤がやったってことか?」


「それは、その、わかりません。でも彼のアカウントは鍵垢なので、限られた人しか見られません」


「つまりどういうことだ?」


「犯人は佐藤さんのフォロー承認を得た人物の一人ということです。つまり真犯人はその中にいるってことなんです」


「えらくノリノリだな」


「今回のターゲットは私じゃないですし、一度こういう探偵みたいなことをしてみたかったのです」


「はぁ。立川は楽観的でいいな」


「いいえ、大事なボディーガードさんを助けるためです。決して楽しんでいる気持ちだけではないですよ、ええ、本当です」


「……ちょっと前までは凹んでいたのに、随分と強くなったんだな」


「それはそれ、これはこれです。とりあえず教室に戻って佐藤くんに話を聞きましょう」


「まあ、そうだな」

 その刹那。

 背後から冷たく鋭い視線のようなものを感じる。

 気のせいだろうか。いや俺が疑心暗鬼になっているだけであろう。


 ◇

 教室に戻るとひどいことになっていた。案の定と言うべきか、佐藤がクラスメートから詰められていたのだ。

「違うって! これは絶対俺じゃない!」


「でも今朝、三鷹くんを撮っていたじゃない」


「俺がこーいちにそんな真似するかよ。ってかこーいち、俺じゃないんだよ!」


 俺を見るやいなや、佐藤は泣きついてくる。


「なあ佐藤。お前の撮った写真をもう一度見せてくれないか?」


「え、ああ。うん、ほれこれだ」


 俺が仏頂面でプロテインと写っている写真。

「立川。俺のリーク写真を見せてくれ」


「はい、どうぞ」


 二つの写真を見比べてみる。すると違いがすぐにわかった。


「やっぱりおかしいと思ったんだ。お前の撮ったこの写真とこのリーク写真、少しだけ違う」


「え、三鷹くん。そうなんですか?」


「リーク写真は元画像と比べて画質が妙に綺麗になっている。それになぜか、写っている俺が小さくピースサインしているんだ。元の写真とは全然違う」


「これもしかしてAI画像じゃないですかね。この画像を入手して加工して再投稿したとか」


 立川が思い出したかのように呟く。


「こんなに精巧にできるものなのか」


「ええ、誰にでも可能ですよ。その分野は発展してきましたからね。でも三鷹くんのガラケーではできませんけど」


 立川はここにきて急に辛辣になる。

 それに周囲が反応し、げらげらと笑い出した。


「俺の話はもういいから。ぶっちゃけこれだけじゃ犯人も特定できないな。みんなは佐藤を責めるのはやめてやってくれ」


 恥ずかしさを押し殺しつつ話をまとめる。


「ありがとー、こーいちー」


「ということはこれは開示請求案件ですね。で、もしそれが佐藤くんだった場合は?」


「ヒッ」


 立川が今日イチのいい笑顔を見せると、佐藤はこの世の終わりみたいな顔をした。

 クラス中は笑いに包まれる。

 正直、このクラスに犯人がいるとは考えたくもない。根はいい奴ばかりだと思っているからだ。

  立川のスマホをぼんやり見ていると、画面の文字入力カーソルが勝手に動いた。


「え?」


 一文字、また一文字と、文字が打ち込まれていく。


『三鷹晃一。私はずっとあなたを見ている』


 先ほども感じた鋭い視線を、背中から感じる。

 しかし振り返っても、そこには誰もいない。

 もしや俺たちはとてつもないものと対峙しているのではないか。

 そう思わざる負えなかった。


 そして立川のスマホはひとりでに画面を消した。

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ネットに疎い俺の青春ラブコメストーリーはバズりから始まる。 山﨑山々 @orange_8

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