推理作家のこだわりが隠し子の存在を露見させる

烏川 ハル

推理作家のこだわりが隠し子の存在を露見させる

   

「聞いたわよ、由美ゆみ。離婚したんですって?」


「ええ、大変だったわ。真面目な人だと思ってたのに、実は浮気してたなんて……」


「酷い話よね。だって、由美の旦那さんって……いや、もう『元旦那さん』か。とにかくあの人、ずっと売れない小説家だったのを由美が支えて来たんでしょう? それなのに浮気だなんて、酷い裏切り!」


「ええ、確かに彼の本が売れない間、私が頑張って働いてたわけだけど……」


「それがちょっと売れるようになった途端に浮気! しかも隠し子まで作ってたっていうんだから、本当に酷い話よね!」


「そう、その隠し子。それが表沙汰になって、とうとう離婚になったわけ。しかも、彼の変なこだわりのせいでね」


「変なこだわり……?」


「ほら、彼が書いてたのってミステリー小説でしょう? それも本格推理小説と呼ばれるジャンル。伏線とか手がかりとか重視しすぎるこだわりがあって、読者を楽しませるのは二の次で、それでなかなか売れる本が書けなかったんだけど……」


「あれ? そんな作家としてのスタンスみたいな話、今回の離婚と何か関係あるの?」


「そうなのよ。彼ったら小説の世界を飛び出して、現実世界にまで妙な手がかり置いちゃってね」


「現実世界の手がかり……? 何それ……?」


「例の隠し子よ。『隠し子だからいまだ知られていない、未知なる子供』って意味で『未知子みちこ』って名付けててね。その名前がきっかけで、隠し子の存在がバレちゃったの。馬鹿みたいな話でしょう?」




(「推理作家のこだわりが隠し子の存在を露見させる」完)

   

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