少女と神託
なるほど。
そういうことか。
少女の素性は、亡国の姫ではない。
もっと厄介で、もっと逃げ場のない肩書き――
勇者の子孫。
血筋。
伝統。
神託という名の、断れない仕事。
「使命が生えた」
いい表現だ。
誰も頼んでいないのに、勝手に生えてくる。
切っても切っても、また生える厄介なやつだ。
雨の中でも強行軍した理由も、これで全部つながる。
根性論じゃない。
英雄譚への憧れでもない。
「そう育てられた」
それだけだ。
幼い頃から積まれてきた修練。
耐久。
精神。
自制。
そして――「逃げない」癖。
七難八苦?
来い、全部受けてやる。
そういう顔をしていた。
だから俺も、選んだ。
……で。
満を持して、魔王。
来た。
しかも、土下座付き。
いや、普通はここでだな。
仲間が倒れ、
絶望が積み上がり、
最後に剣が振るわれる。
だが現実は違う。
使命感マシマシで挑みに来た勇者の子孫の前に、
覚悟ゼロの魔王が
「すみませんでした」と
音速で降ってきた。
少女は、しばらく沈黙していた。
積み上げてきたものが、
行き場を失っている。
使命。
覚悟。
修練。
全部、「斬るため」に整えられていたのに。
――斬る相手が、土下座している。
これはな。
剣としても、少し同情する。
俺は、少女に伝える。
――七難八苦はな、
――敵が用意するもんじゃない。
――自分で背負うもんだ。
少女は、ハッとした顔をする。
勇者の血が、ようやく別の方向に流れ始める。
「……じゃあ、私は」
「討伐者、じゃなくていい」
神官が、静かに頷いた。
ああ、あの神官。
知っていたな。最初から。
「勇者の子孫とは、
必ずしも剣を振るう者ではない」
魔王が、恐る恐る顔を上げる。
「え、あの……
まだ斬られます?」
知らん。
それは少女次第だ。
まだ、やってるか?
店に聞くな。店員に聞け。
まぁ、俺は気に入らん客だと扉を開けないどころか電撃流すタイプの店だが。
だが一つだけ言える。
今日、彼女が斬るものがあるとすれば――
それは魔王ではない。
神託という名の、逃げ場のない物語だ。
剣生一行目、更新。
・勇者の子孫を、
「勇者役」から解放した剣。
……悪くない。
むしろ、誇らしいな。
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