魔王土下座剣

 魔王、フライング土下座。

 

 ……は?

 

 いや、待て。

 ちょっと待て。

 聞いてない。

 そんな展開、剣生マニュアルに載ってない。

 

 覚悟は――なかったらしい。

 なるほど。

 こちらが聞きに行くまでもなく、

 向こうから教えに来てくれた。

 

 空から。

 猛速度で。

 

 ドン。

 衝撃。

 土煙。

 衝撃波を即座に障壁で中和。

 周囲の建造物、無傷。

 幼子もいない。よし。

 

 地面にめり込んだ魔王は、

 めり込んだまま、頭を下げている。

 

「す、すみませんでしたぁぁぁ!!」

 

 ……フライング土下座。

 しかも着地の衝撃込み。

 勢いがありすぎる。

 フライング地面刺さりだ。

 

 あれだな。

 原因は分かっている。

 

 光の柱。

 あれが良くなかった。

 

 天と地を貫く極大演出。

 神官ワープ。

 無害だけど無害に見えないやつ。

 

 あれを見て、

 魔王、ドン引き。

 

 そりゃそうだ。

 あんなの見たら、

 

「世界の最終兵器が起動した」

「新型勇者システム稼働」

「神殿が本気出した」

 

 どれかだと思う。

 

 魔王は震えながら叫ぶ。

 

「ち、違うんです!

 侵略とか、支配とか、

 そういうノルマはもう終わってて……!」

 

 ノルマ制なのか。

 嫌な業界だな。

 

 少女は唖然としている。

 剣を握ったまま、完全に思考停止だ。

 

 俺は、ため息をつく。

 魔力制御、通常モードに戻す。

 斬撃判定、まだオフ。

 

 ……どうする。

 これは斬る流れじゃない。

 

「ま、魔王……?」

 

 少女が恐る恐る声をかける。

 

 魔王は地面に頭を擦りつけた。

 擦りすぎて火花が散る。

 やめろ。削れる。

 

「命だけは!

 せめて魔族の社会保障だけは!」

 

 知らんがな。

 

 俺は、少女にだけ伝える。

 

 ――落ち着け。

 ――今斬ると、

 ――世界史が一行で終わる。

 

 少女は、深呼吸する。

 そして、言った。

 

「……何しに来たの」

 

 魔王は、顔を上げる。

 涙と土まみれだ。

 

「謝罪と、

 今後の方針相談に……」

 

 相談?

 

 ああ。

 なるほど。

 

 剣の初陣が、

 討伐ではなく

 面談になるとはな。

 

 ……まぁ、いい。

 

 剣生一行目、修羅場回避。

 これはこれで、

 悪くない。

 

 さて、魔王。

 次はゆっくり話そうか。

 

 その前に――

 フライングは二度とやるな。

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