お前の剣だ
良いだろう。
持って行け。
――ただし、手続きは必要だ。
使い手が決まったと、正式に知らせねばならない。
でないとだな、「由緒ある神殿の剣を勝手に持ち出した少女」として、
窃盗罪の証拠品扱いで俺が押収される。
それは困る。非常に困る。
せっかく選んだ使い手が、初手で牢屋行きは笑えん。
だから――
派手に行こう。
魔力、全開。
溜めに溜めた分、惜しみなく。
極大の光の柱。
天と地を繋ぐように、まっすぐ。
だが熱はない。
痛みもない。
ただ淡く、静かに光るだけの、完全無害仕様だ。
雨は光に溶けるように消え、
中庭のざわめきが一瞬、完全に止まる。
幼子たちが口を開け、
遠くの荒くれ者が膝をつき、
神殿そのものが「何事だ」と身構える。
そして――
光が消える。
そこに現れたのは、
一人の神官。
……見覚えがある。
そうだ。
俺を「寄付? 寄贈? とにかく押し付けられた」あの神官だ。
幾分、老けたな。
目尻に皺。
髪も少なくなった。
だが魔力の流れは、当時と変わらん。
神官は俺を見て、
次に少女を見て、
深く、ため息をついた。
「……ああ」
声が少し震えている。
「やはり、君か」
やはり、とは何だ。
何か知っているな。
神官は膝をつき、
正式な所作で頭を垂れた。
「神殿の剣。
使い手が定まったこと、ここに認めます」
少女が慌てる。
「え、え? え?」
神官は微笑んだ。
疲れた顔だが、どこか安心した顔で。
「怖がらなくていい。
この剣はね――
選ばれた者しか、連れて行けない」
ほら見ろ。
俺は窃盗品ではない。
神官は立ち上がり、俺にだけ聞こえる声で言った。
「……長かったな」
ああ。
長かった。
台座。
雨。
幼子。
荒くれ者。
魔力実験。
全部、今日のためだったらしい。
さて、少女よ。
覚悟はいいか。
俺はもう、
台座の剣ではない。
――お前の剣だ。
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