託児剣2

 幼子が増殖した。

 

 ……増殖した。

 いや、表現が悪いな。

 自然増殖だ。人間という生き物の仕様だろう。

 

 お〜い。

 ここは託児所じゃないぞ。

 剣の台座だ。

 時に荒くれ者が「伝説だぁ!」とか叫びながら抜きに来る場所だ。

 

 もっとも――

 今ほんとに荒くれ者が来たら、即座に入口を塞ぐがな。

 

 神殿の門、回廊、ついでに風通しの良かったアーチ。

 障壁、展開。

「お帰りはあちらです」と、空間ごと誘導する。

 斬る? しない。

 危ないし、後始末が面倒だ。

 

 幼子たちはというと、台座の周りで勝手に陣取り始めた。

 一人が座れば、二人が真似る。

 三人になれば、もう集会だ。

 

 誰かが俺に触る。

 誰かが鞘もない俺の根元に石を並べる。

 ……供物ではないな。遊びだ。

 

 刃は眠っている。

 障壁は常時稼働。

 切断判定は完全にオフ。

 

 俺はいま、

 ・刺さっている

 ・斬らない

 ・守っている

 

 完全に守護柱である。

 

 荒くれ者が遠くで騒いでいる気配がする。

 酒臭い。

 視線が俺に向く。

 

 ――はい、却下。

 

 空気が固まり、通路が「行き止まり」になる。

 荒くれ者は首を傾げ、なぜか別の出口から外へ出ていく。

 世界とは、そういうふうに書き換えられるものだ。

 

 幼子の一人が俺を見上げて言う。

「これ、あんぜん?」

 

 ああ、安全だ。

 少なくとも、お前たちがここにいる間はな。

 

 剣とは、本来、守るために振るわれるものだ。

 抜かれずとも、刺さったままでも、

 守れるならそれでいい。

 

 ……だがな。

 本当に使い手が来た時は、話は別だ。

 

 その時はちゃんと、

「危ないから下がれ」と言える剣でいよう。

 

 さて。

 今日の台座は満員だ。

 次に増殖したら、さすがに神官を呼ぶか。

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