台座剣

 はい。こちら現場の剣です。

 もとい、台座の剣です。

 

 使い手を選ぶ剣――という触れ込みで、神殿の中庭、もっとも人目につく場所に刺さっております。

 晒し者とも言う。

 

 いやな、台座に刺しっぱなしというのは本来よろしくない。

 湿気、埃、鳥。三重苦だ。

 俺じゃなければ錆びる。

 鈍る。

 そして「伝説の剣(笑)」として後世に語られる羽目になる。

 

 もっとも、俺は最近、身につけてしまったのだ。

 魔力の使い方というやつを。

 

 神官どもの仕事を、巻かれながら、運ばれながら、置かれながら、よーく観察していた成果である。

 祝福、浄化、保存、修復。

 あれ、だいたい同じ理屈だ。

 

 おかげで今の俺は、錆びない。

 欠けない。

 たぶん折れない。

 

 そして――仮に折れても、治る。

 たぶん。

 

「たぶん」が多いのは仕様だ。

 剣は実験台にされる側であって、検証する側ではない。

 

 台座に刺さってから、何人も挑戦者が来た。

 勇者気取り。

 筋肉自慢。

 目が金色に光る系。

 中には「なんか抜けそうな気がするんだよね」と言ってくる、勘だけで生きているタイプもいた。

 

 結果?

 全員、ダメだ。

 

 力が足りない者は論外。

 力だけの者はもっとダメだ。

 剣というのは、振り回すものではない。

 付き合うものだ。

 

 たまに触れた瞬間、ビリッと来て腰を抜かす者がいる。

 悪いな。

 条件反射だ。もう癖になっている。

 

 それでも俺は、ここで待つ。

 待っている、というより――

 観察している。

 

 台座というのは案外、悪くない。

 人間の行き交う様子がよく見える。

 欲望、焦り、虚勢。

 剣にとっては、良い教材だ。

 

 そして今日も、魔力を集める。

 自動錆止め。

 自動自己修復。

 自動耐久強化。

 

 神官が見たら泡を吹くだろうが、問題ない。

 俺はもう、神殿の剣だ。

 

 名前はない。

 一人称はまだ迷っている。

 だが折れる予定も、鈍る予定もない。

 

 さて――

 次はどんな使い手が来る?

 

 条件は簡単だ。

 俺を抜こうとするな。

 俺と歩こうとしろ。

 

 それが分かる奴なら、

 台座から降りてやってもいい。

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