初恋 (カクヨムコンテスト11【短編】 お題『未知』)

姑兎 -koto-

第1話 未知の未知

未知と出逢って僕の人生は180度変わった。

奔放で無垢。

大人で子供。

つかみどころのない彼女だったけれど、どんな彼女も魅力的で。

初恋だった。

一目惚れだった。

無味無臭だった僕の人生が彼女の匂いで満たされた。


あの日。

何故か、ほろ酔いで路地裏に迷い込んだ僕。

そこに、彼女が居た。

一目で恋に落ちた僕は、誘われるまま引きとめられるままに。

あの日から、僕は、家に帰っていない。


「未知」と名乗った以外自分の事は何一つ話さない未知。

僕の事は何も話していないのに、何でも知ってる風な未知。

そんな疑問も『好き』の前には些細な事だと思っていたんだ。



彼女は、深夜、こっそりどこかへ出かけていく。

最初は気にしないようにしていたけれど、想いが募る程に気になって。

ある日、僕は、堪らず、こっそり未知の後を付けて行った。


辿り着いたのは、分厚い扉の前。

扉は、彼女が暗証番号の様なものを囁くと音も無く開いた。


あけ放たれた扉の先は、映画で見る様な荒野。


ここは、一体、どこなんだろう。

麻痺していた僕の記憶が蘇っていく。

そもそも、外呑みしない僕。

あの日、僕は、なぜ、酔っぱらっていたのだろう。


そして。

扉から出た未知は、ぐにゃりと溶けるとスライムの様な姿になった。


「え?」

思わず声が出た僕に気づき、振り返ったスライムのようなナニカ。


僕の頭の中で未知の声が響く。

「ここまでのようですね」


そこで気を失った僕。



スマホの着信音で気付いた時には、僕は部屋で寝ていた。

スマホには、夥しいほどに残された僕を心配する友人からのメッセージ。


あれは、夢だったのだろうか。

いや。

だとすれば、この着信の意味が解らない。


であるならば、あれは、どこの星だったのだろう。

僕にとっては、文字通りの『未知との遭遇』だったのではないだろうか。



あれから、時折、未知の匂いを感じる。

もしかしたら、彼女が、また、来ているのかもしれない。


ささやかな期待を胸に、路地裏を歩く。

風に乗って未知の声が聞こえた気がした。


ー完ー







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初恋 (カクヨムコンテスト11【短編】 お題『未知』) 姑兎 -koto- @ko-todo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画