第3話 地球人 SHOW・開幕
目を覚ましたとき、俺は硬い床の上に倒れていた。
背中に伝わるのは、ひどく冷たい金属の感触。
「……ここは……?」
上体を起こす。
視界の端で、人影が動いた。
いや、ひとりやふたりじゃない。
男、女、子ども、年配者。
泣いている者、怒鳴っている者、呆然と立ち尽くす者。
ざっと見て、百人前後はいる。
(……夢じゃないな)
そう思った瞬間、頭の奥がじわりと痛んだ。
周囲が次第に騒がしくなる。
視線を追うと、少し離れた場所で人だかりができていた。
中心にいるのは、金色に染めた髪の男。
細身の体にスーツ姿。
「もしかして、龍くんですか?」
「えっ? ジェリーズのBAZZメンバーの?」
「嘘ーーーー!? ファンなんです! 握手してください!」
ざわめきは、次第に黄色い歓声へと変わっていく。
男――龍と呼ばれたその人物は、困ったように笑いながらも丁寧に対応していた。
「ありがとう。でも、今は状況を把握したいから、少し静かにね」
「きゃーーーーーーーーーーーー!」
「熱愛の話もあとで聞かせてくださ〜い!」
「まぁ……それは……今度……」
(アイドルも大変だな……。
ていうかスーツってことは、会見か何かの予定だったのか)
そんなことを考えていると。
空間の中心に設置されていた巨大なモニターが、音もなく点灯した。
反射的に、全員の視線がそこへ集まる。
映し出されたのは――
どう見ても、人間ではない存在。
暗く、輪郭は曖昧。
生物なのか映像なのかすら判別がつかない。
ただ一つ確かなのは、
こちらを見ている、という感覚だけだった。
《皆様、お集まりいただきありがとうございます》
やけに丁寧な声。
感情の起伏はなく、機械的とも違う。
それが、逆に背筋を冷やした。
《混乱なさるお気持ちは、十分理解しております》
《しかしながら、ここは皆様の知る地球ではございません》
さっきまで騒いでいた人々も、完全に口を閉ざしていた。
《私どもは、皆さまを……この説明も、今回で四回目になりますね》
(四回目……?)
《改めましてご挨拶を》
《私どもは、皆様を“観測”する者でございます》
「ふざけるな! ここはどこだ!」
「早く家に帰してよ!」
「なんの冗談だよ!」
怒号が飛ぶ。
《ご不安はもっともでございます》
《ですが、まずはご説明をお聞きください》
ざわめきが、波のように広がっていく。
《地球人という種族は、実に興味深い》
《恐怖に晒されたとき、皆様は協力なさるのか》
《それとも、互いを切り捨てるのか》
《私どもは、その“選択”を拝見したいのです》
一拍置いて、宇宙人は続けた。
《こちらがご用意いたしました企画の名称は》
《――地球人SHOW》
空気が、張り詰める。
《ルールは極めて簡単でございます》
《制限時間は七日間》
《その間、生存していただくだけで結構》
「……生存、だと?」
誰かが呟いた。
《エリア内での行動は、基本的に自由》
《ただし、死亡した場合は即時“脱落”となります》
その言葉が、重く落ちる。
《なお、脱落者の復帰はございません》
(……死んだら終わり、か)
無意識に、喉が鳴った。
《エリアの詳細、危険要素につきましては》
《皆様自身の“選択”と“行動”によってご確認ください》
「説明になってないだろ!」
《恐れ入りますが、それも“ショー”の一部でございます》
淡々とした声。
最初から、こちらの恐怖など考慮していない。
《それでは、四番目の出演者の皆様》
《どうか、存分にお楽しみください》
モニターが暗転した。
次の瞬間――
足元の床が、消えた。
「うわっ――!」
視界が反転し、
身体が宙に投げ出される。
俺たちは、それぞれ別々の場所へと放り出された。
(……もう、始まるのか)
そう理解したときには、
もう遅かった。
地球人SHOW 銀河猿 @galaxymonkey6790
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