総合感想と勝手に統合版
ChatGPTからすでに薄々察してはいたものの、Grokまで終わって改めて思う。婚約と結婚の区別がついてない。
「女性側からも婚約指輪を贈っている」とか、「結婚を前提に恋人関係を数ヶ月以上継続する性格」とか、「籍は入れていないがほとんど夫婦関係」とかを主人公や恋人のキャラクターとして折り込めばそれは立派な「設定」になるのに、作中で利用されないので単に「婚約破棄=まだ結婚してないはずなのに結婚指輪を持っている」という根本的な物語内論理の破綻になってる。
やはりまだその辺り、無機的な論理と有機的な言語を結びつけるのは人間の領分なんだろう。
AIは主人公の描写をしているわけでも主人公の物語を描いているわけでもなく、前の文脈に続くテキストを推論しているだけだから、そういった因果関係を創り出したり、生まれた設定を利用して掘り下げたりはしてくれない。
「起伏」に執着しすぎていたのか、みんな展開が忙しなかったな。怒ります! 落ち着きます! 悲しみます! 思い出します! 決意します! 余韻です!! うるせえ。
「私は成長した」説明する必要が生じている時点で成長できていません。
「これは希望です」言い聞かせるなら自己主張に過ぎません。
「静かな余韻が残りました」それは余韻ではありません。
結局「彼が浮気してたから主人公側が婚約を破棄した」という、あまりにもシンプルがゆえに納得感のある、というか登場人物が破綻していないプロットを出してきたGrokが結果的に一番まともに小説を書けていた気がする。
Grokの書いたものだけが押しつけがましい結論を提示していない。脚本の都合ではなく登場人物の感情で物語が動いていた。死に設定にするくらいなら奇抜な設定を持ってこないほうがいい。
かろうじて「しょーもない人間」が呼吸だけはしていたGrokと比べて他の三作には生命の気配がまったくなかった。強いて言うならChatGPTには人間の残滓らしきものが感じられ、Claudeは人間の絵を描き、Geminiは人間の観察記録を出してきた。
フル活用するならGrokがアイデアを出してChatGPTが構造を組み、Geminiがプロット化してClaudeが執筆するのがよさそうだ。
***
各AIのバージョンを全部繋げて足して削って改訂する。Claude→Gemini→ChatGPT→Grokの順。配置に従って季節を変更した。
ChatGPT版・Gemini版の相手が女性(結局浮気じゃん)という事実を削除した。「これは単なる恋愛じゃなくってえ、もっと尊いものでえ」の説明が長すぎるため。
ついでに宏樹の相手(アトリエのパートナー)をChatGPT版の彼ということにする。ClaudeとGrokがせっかく拓也被りなので同じ程度にゆるく背景を繋げる目的。
***
1.美咲
指輪を外すとき、思ったよりも軽かった。三年間はめていたプラチナの指輪がこんなにも軽いものだったことに、美咲は今更ながら気づいた。
駅前のカフェのテーブル席で、美咲は拓也と向かい合う。
「ごめん」
拓也が先に口を開いた。美咲は窓の外の桜に視線を据えたまま、小さく首を振った。
「私も、ごめんなさい」
三年前、二人は大学の就職支援課の前で偶然ぶつかった。拓也の持っていた書類が散らばり、美咲が一緒に拾い集めた。そんな些細な始まりだった。
いつもの帰り道の公園で、「一緒にいたい」という素朴な言葉と共に指輪を渡され、美咲は迷わず頷いた。
けれど社会人になってからの二人の生活は、学生時代の恋のように単純にはいかなかった。
仕事に慣れるほど互いの忙しさが見え始めた。終電で帰る日が続き、休日出勤が重なり、会えない週末が増えていった。
「来月、式場の下見に行こう」
そう約束しても、どちらかが必ず仕事で行けなくなった。延期を繰り返すうち、式の話題は二人の間でタブーのようになっていた。
久しぶりに二人で食事をした今日、美咲は気づいてしまった。拓也の話す仕事の内容が頭に入ってこない。自分の中で彼の存在が以前ほど大きくなくなっていることに。
そしておそらく、拓也も同じだった。美咲が話をしても、彼の目は遠くを見ているようだった。
「結婚、やめようか」
「……うん」
涙は出なかった。悲しみと呼ぶには遠い痛みだった。
二人はしばらくカフェに座っていた。窓の外では、通勤する人々が足早に行き交っている。あの人たちの中にも、様々な人生があるのだろう。うまくいっている人も、そうでない人も。
拓也が躊躇いがちに言った。
「いつか、もし違う形で会えたら、俺たちもっとうまくやれるかな」
美咲は改めて拓也をまっすぐに見つめた。彼の目に、かつて公園で指輪を渡してくれた時と同じ温かさを感じていた。
「きっとその時は、今とは違う形でお互いうまくやってるよ」
美咲の言葉に拓也は少し驚いた顔をして、それから穏やかに笑った。
「そうだな。それがいいな」
カフェを出ると、まだ冷たい空気が頬を撫でた。
駅に向かう帰り道は川沿いの道を選ぶ。橋の上で立ち止まり、ポケットから指輪を取り出して見つめる。
「三年……」
これをどうするかは、もう少し時間が経ってから考えよう。
午後の陽射しを浴びて、川面に散った花びらが浮き沈みしながら流れてゆく。遠くを走る電車の音が美咲の胸に響いていた。
2.美月
雨が降り続く梅雨の夜、入浴中だった宏樹のスマートフォンが短く振動した。ロック画面に表示された通知が美月の視界に入る。
『例のアトリエ、契約したよ』
宏樹は絵など描かないし、芸術に興味を示したこともない。不思議に思った美月は翌日、彼が捨て忘れたレシートをもとにその場所を訪ねた。
古いビルをリノベーションしたカフェやギャラリーが集まるエリア。雨に霞むその場所は、美しくも少しだけ寂しい風景だった。
その一角にある、これから内装工事が始まるらしい店舗。ガラス戸の向こうに宏樹を見つけた。
作業着姿で壁のペンキの色見本を見比べる宏樹の横顔は憂鬱を吹き飛ばす太陽のようなエネルギーに満ちている。
美月と築く生活の裏側には宏樹が情熱を傾けるべきものがあったのだ。自分はそれを少しも知らなかった。
空虚感に背中を押されて、美月は静かにその場を去った。
美月は、リビングのテーブルに婚約指輪を置いた。剥き出しの輝きが蛍光灯の下で寒々しく光る。
夜、帰宅した宏樹がそれを見て息を呑んだ。
「美月……?」
「見てきた。隣県の、アトリエ」
宏樹の顔から血の気が引いた。ああ、やはり。虚しい納得が胸に落ちる。根本的に、宏樹は美月を信頼してくれていないのだ。
「あれは、ただの趣味で……美月に不安定な生活はさせないよ。仕事も続けるし、結婚に支障をきたすことはしない」
ただの趣味ではないことくらい、美月には理解できる。仕事を辞めてでも叶えたい、不安定な生活に、ついてきてほしい。そう言ってほしかったのに。
怒鳴ったり泣いたりできる人間であれば、宏樹は打ち明けてくれたのだろうか。
わがままを言って困らせてくれたのだろうか。
翌朝、クローゼットの奥に宏樹のスケッチブックを見つけた。中を開くと、拙いながらも力強い線で椅子のデザインが描かれていた。
ページの隅には見慣れた宏樹の文字。
『俺がデザインした椅子に座って、朝のコーヒーを飲む』
その夢が美月との生活に根差すことはない。自分は天秤に乗ってすらいなかったのだ。
降りしきる雨が心に溜まって、深い水底にいるようだった。
宏樹との結婚生活を想定する時、美月は心が軽くなる。それは彼があのアトリエで見せた情熱とは違っていた。
彼といれば、お手本のような幸福をなぞってみせることが容易だった。それだけだ。
そこには美月という人間も、宏樹という人間も、息づいていないけれど。
二人分のコーヒーを淹れてリビングのソファに腰かける。
「美月、式場の花なんだけど、カサブランカじゃなくてバラにしないか?」
「バラ? 最初は『白百合がドレスの雰囲気に合う』って言ってたじゃない」
「赤いバラのほうが美月に合うかなと思ってさ」
「……そっか。じゃあそうする……そう、したい」
いつか彼が美月ではないものを選ぶとしても、泣いて縋りつくことはできないだろう。
それでも宏樹との婚約を破棄したくない。水底から見上げる月のように朧げなその願いが、美月の叶えたい「私」だった。
雨は、まだ止まない。
3.雪乃
弱まりつつある陽射しが庭の縁石を温める。落ち葉の鮮やかな色が目の奥を刺した。じきに壊れそうな家具の軋みに似た、鈍い予感。
「話がある」
昴はそう言って椅子に腰かけた。彼の視線は雪乃の肩越しにある。
昨日からホットに切り替えたコーヒーが二つ、テーブルに並んでいる。豆の香りが妙に薄い。
「婚約を解消したい」
たった一言で部屋の空気が変わる。壁紙の白が枯れ、時計の秒針が耳元で大きくなった。
雪乃は瞬きを忘れ、昴の口元を見つめた。そこから尤もな理由がこぼれ落ちてくるのを待つように。
「やりたいことが、できたんだ」
息が浅くなる。雪乃の喉から出た声はすっかり乾いていた。
「いつから?」
「……半年前」
半年。昴が迷って悩んで、すでに決意の入り口に立っていることを示すだけの時間だった。
彼が忙しいと言って会えなかった夜、久しぶりに触れた週末、指輪のサイズを測った日。思い出が順番を無視して押し寄せる。
「ごめんな」
謝罪は丁寧で、誠実だった。怒りが湧く余地もなく、ただ体温が下がっていく。
「私と一緒になったら、できないの? 私は邪魔?」
言ってから格好悪さに後悔した。昴は困った顔で首を振る。
「君は悪くない。全部、俺の問題だ」
問題。解決策があれば直せるみたいな言い方。雪乃は笑おうとして、唇の端が引きつった。
二人は向かい合ったまま、しばらく黙っていた。時計が音を刻むたびにコーヒーの湯気が弱々しくなってゆく。
帰り道は風が強かった。
雪乃は靴の先だけを見て歩いた。舗道のひび割れを踏んで、爪先が落ち葉を蹴散らす。世界は細部ばかりが鮮明で、全体がぼやけている。
声が聞きたくなって母に電話をかける。雪乃が事情を説明すると母は短く息を吐いた。
「そう……。大丈夫?」
大丈夫という言葉の意味が分からなくなる。雪乃は曖昧に答え、互いを気遣う当たり障りのない話をして電話を切った。
風の音が、遠くで鳴る波みたいだった。
長くなった同棲生活を引き払うために、昴は数日に分けて荷物を取りにきた。
その最後の日、雪乃の視線が昴の手元に向かう。見慣れない傷が小指にあった。
「怪我したの?」
「え? ああ、アトリエで作業してる時に、ちょっとな」
「大丈夫?」
曖昧に頷く昴を見て笑みがこぼれる。彼も今、大丈夫の意味が分からなくなっているのかもしれない。
「今度、お客さんとして見に行っていい?」
自分でも驚くほど穏やかな声が出た。昴は少し照れくさそうに頷いた。
ドアが閉まる。鍵をかける。昴の物が一つもなくなった部屋には、雪乃の呼吸だけが残る。
彼にもらった指輪を窓辺に置いてみた。夕陽が石に反射して、小さな星みたいに瞬く。
婚約破棄なんて劇的な結末だと思っていた。でも今は何かが始まっている気もする。
窓を開けて、清冽な秋の空気を深く吸って吐き出すと、胸の奥に冷たい痛みが走る。その冷たさのおかげで痛みの形が分かる。
遠くで電車の音がする。揺れるカーテンの下に輝く星を見ながら、雪乃はその音に耳を澄ませた。
4.あかり
東京の喧騒を抜けた小さなカフェですべてが始まった。あかりは二十八歳の編集者。仕事に追われ、恋愛とは縁が切れていた。
ある午後、喧騒を背景に原稿の修正に没頭していた彼女の手が止まる。
「すみません、隣いいですか?」
「どうぞ」
あかりは頷いて作業を続けたが、ときどき彼の視線を感じた。休憩に本の話題を振ってみると、意外と話が弾んだ。文学好きの共通点が見つかって連絡先を交換する。
彼の名前は健、三十歳の建築士だという。穏やかな笑顔と落ち着いた物腰が印象的だった。
それからも何度か約束を交わして二人で美術館を巡り、またある時は図書館で互いに好きな本を読んで過ごした。
ゆるやかに静けさを共有できる関係があかりには好ましかった。久しぶりの恋愛に年相応の知的な成熟を感じていたのだ。
半年後の冬、夜景の見えるレストランでリングを差し出しながら、健はあかりにプロポーズした。
「君を一生守らせてほしい」
はい、と答えた瞬間、夜空の星々が輝いたように感じた。家族や友人に祝福され、結婚式の準備が始まる。ドレス選び、招待状のデザイン。一転して情熱が溢れる日々だった。
しかし冬が深まり結婚が近づくにつれて雲行きが怪しくなった。
健の仕事が極端に忙しくなり、デートが減った。電話も短くなった。あかりは不安を押し殺し、自分を責める。自分がわがままなのかもしれない、と。
二人でいる時、健のスマホに着信があった。健が慌てて電話を切るのを不審に思う。あかりの視線に気づくと彼は笑って誤魔化した。
「仕事の電話だよ。気にしないで」
「だったら、出ればよかったのに」
「君との時間のほうが大切だから」
「最近、変じゃない? 何か隠してる?」
「疲れてるだけだよ。愛してる、あかり」
クライマックスはすぐに訪れた。
あかりは残業続きだという彼にこっそり晩ごはんを作るために、健のマンションを訪ねた。合鍵で部屋に入る。そこにいたのは健と見知らぬ女だった。
みるみるうちに青褪めてゆく健の顔を見ながら、どこまでもドラマじみた展開にあかりの心はなんだか冷めてしまった。
「あかり、これは……ち、違うんだ」
「説明して」
「こいつとはただの友人だ。でも最近……君との関係がマンネリ化してて、つい」
「はあ? ついって何よ!」
隣にいた女のほうが自分よりも怒り、悲しんでいるように思えてならない。
マンネリ? それが浮気の理由? 私たちは婚約したのに。なんて無責任なのだろう。
「ごめん。許してくれ。気の迷いだ。あかりなしじゃ生きられない」
くだらない人間性とそれを見抜けず婚約までした自分に腹を立てながら、それでもあかりは、どうしても悲しかった。
自分も彼なしでは生きられないと思っていた。今この瞬間まで、そう思っていると信じていた。二人に背を向けて自宅に帰ると、あかりは一晩中泣いた。
翌朝、健をあのカフェに呼び出した。同じ場所で始まった恋を終わらせる。陳腐なドラマに相応しい、陳腐なエンディングで飾りたかった。
あかりは女優のような仕草でリングを外してテーブルに置く。
「遅くなったけど、やっぱりあのプロポーズ、断るね」
「待って! 考え直してくれ。結婚式の準備も進んでるんだぞ」
「キャンセルするから。違約金は出してよ」
「あいつとはもう会わない。本気なんだ、あかり」
「何を言ったってあなたが浮気した事実は変わらない」
崩れた信頼関係は編集不可能だ。
破棄の手続きは意外とスムーズだった。経済的な損失は心の痛みに比べれば小さい。
婚約と大仰に言ってみても所詮まだ結婚していない恋人同士。二人の関係は世間にとっては何物でもなかったのだ。
健から何度も連絡があったが、あかりは無視した。
再び仕事に熱中し、忙しい日々が傷を癒した。健と過ごした時間への感傷も寒さと共に和らいでゆく。
そんなある日、温かな陽射しの公園をのんびり散歩していると昔の友人に会った。拓也は学生時代に同じ業界を志した仲間で、久しぶりの再会だった。
「いろいろあったって聞いた。元気にしてる?」
「今はね。新しい人生を歩いてる。そっちは?」
「俺も、まあ……いろいろあったよ」
「そっか」
確かにいろいろ、あるだろう。誰の人生もそんなものだ。
芽生えの気配が近づく道を歩きながら、あかりはふと空を見上げた。雲がゆっくりと流れていく。
ただ結婚することになり、ただそれをやめただけ。いろいろあったが、それだけだ。
この冬がどんなものであれ、次の春に何が起きるかは誰にも分からない。
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