あの時助けた鶴は不死鳥で、異世界まで来たらしい。
ピカッと藍丸
第1話:なるほど、ならお前はふーちゃんだ。
「おうおう、せっかく助けたのに煽ってくれちゃってよー」
暗い空の下、俺は雪に背を預けながら一羽の鶴を見上げた。ずっと真上で旋回していて見たくなくても視界に入る。
まぁ、最期に見るのがあの綺麗な鶴ならいいのか。とも思いはする。
「にしても、助けた側が死ぬなんてどんな感動話だよ」
誰が置いたのか分からない罠にかかっている鶴を見つけ、かわいそうだと思って助けた結果、吹雪いて迷子になってこれだ。まったく泣けてくる。
それにしても寒い。俺は今、人類で最も冷えてる男と言っても過言ではない。
あ、なんか眠くなってきた。
意外と雪もあったかいんだな。
家帰ったら鍋でも食おうかな。
そして俺は、目を閉じた。
もちろん分かっていた。こんな雪の中目を閉じた先にあるのは、死だけだと。でも、閉じてしまったから仕方がない。割り切るさ。
「んあ、眩し」
やけに眩しくて目が覚めた。なんだ俺生きてたのか。
どれだけ寝ていたのか、太陽はあの鶴がいたように真上にある。
じゃない、これは人の顔だ。なんつー笑顔だ眩しいな。
「起きたか人間!」
なんかすごい嬉しそう。
とりあえず、腰と背中が痛い。
立ち上がり身体を伸ばしながら周囲を見ると、辺り一面の平原だ。なんでだよ。俺が寝てたの雪山だろ。
まさか、雪が解け山が消えるほどの年月寝ていたのか、俺は。
自分の眠る才能が怖くなるね。
それにしても、この子の髪の毛真っ赤だな。紅だ。着てるワンピースも紅い。
あ、なんか寄ってきた。
歳は十五とかか?
少女は俺を指さした。
「お前は死んだ! 私は着いて来た! これからはここで楽しく過ごそう!」
「何言ってんだお前。俺生きてるだろどうみても」
胸を張る俺を見ても、少女は首を横に振った。
「あの雪山で、お前は死んだ。そして私はお前に助けられた。だからこれからは私がお前を守る」
それなら、あの雪山で助けてほしかったな。
「守るって、何からだよ。ここ何にもない平原じゃん」
少女は横を指さした。
おう、なんかおるやんけ。なんだあいつ。
人間の体躯をはるかに上回る大きさに、口元から見える二対の牙を持つ四つ足の獣。
俺には分かるぞ。あれはヤバいやつだ。
そしてこの少女は俺を守ると言ったな、あれから。
「一つ聞きたいんだけど、どうやって守るつもりで?」
「こうやって」
少女が指を鳴らすと、小さな火球が獣へ飛んでいき、爆音を巻き散らして爆ぜた。
圧倒される俺に、少女は再び笑顔を向けた。それはまるで、褒めてもらおうとする子供のように。
「す、すごいな……」
「でしょ!」
えへへ、と少女ははにかんで後ろ手を組んだ。
「私、強いからお前のこと守れる」
胸を張り、拳にした右手で叩く少女。
にしても、さっきからお前お前ってなんだ。
「俺は久我拓斗。お前って呼ぶな」
「くが、たくと……?」
「そう、久我拓斗。で、お前の名前は何だ」
少女は首を傾げた。
「私? 名前なんてないよ」
「名前ないってどういうことだよ」
少女は思案するように顎に手を当てた。
「拓斗、人間」
「そうだな」
「私、名前ない、不死鳥」
「おう、そうか」
かわいそうに思い頭に手を乗せると、少女は微笑んだ。
ん? 不死鳥って言ったか?
「お前、不死鳥なの?」
「うん!」
少女もとい不死鳥はいきおいよく頷いた。
「さっき、俺が助けたって言ってたよな。俺さ、不死鳥なんて助けた記憶ないんだけど」
「助けてくれたよ。あのなんか、ギザギザしてるやつから」
ギザギザ……?
「お前もしかして、あの時助けた鶴なの?」
「鶴がなにかは知らないけど、拓斗には助けられたよ」
ほら、と足を見せてくる不死鳥。
確かにそこには傷跡のようなものが見える。
「不死鳥ならさ、そういうものすぐ治せるもんじゃないの?」
不死鳥は両手で頬を抑えて体を揺らした。
「拓斗が初めて助けてくれた思い出だから」
なるほど分かったぞ。こいつは多分馬鹿かそれに類するやつだ。
「ねぇ拓斗」
不死鳥は可愛らしく見上げてきた。
「私に名前つけて」
「名前って俺がつけていいもんなの?」
「いいよ。もう私は拓斗のものだから」
何やら犯罪チックなことを言ってくれる。
それにしても不死鳥か。俺ネーミングセンスないってよく言われてたからどうしようかな。
死なない、紅い、かわいい、女の子──。
「ノットデッドレッドキュートでどうだ」
「なにそれー」
ジト目で俺を見てくるノットデッドレッドキュート(仮)
「いやか?」
「すごくいや」
えーならどうしよ。
うん、ならこれしかない。
「ならお前は不死鳥だからふーちゃんだ」
ノットデッドレッドキュート改めふーちゃんは、目をぱちぱちさせて俺を見る。
「それならいいよ!」
いいらしい。よかった。
「ふーちゃんは拓斗のものです! 守ります!」
俺に向かって指を鳴らすと、後ろでさっき聞いた轟音が聞こえた。
ふーちゃんは気にした様子もなく俺の手を取った。
「行こ!」
「行くってどこに」
考えるふーちゃん。
「どっか!」
はい、アホの子。
とは言ったものの、俺も当てがあるわけではない。なら今は、ふーちゃんの言う通りどっかに行くのが一番なのかもしれない。
それにしても力強いなふーちゃん。
ずんずんと歩いて進むふーちゃんの背中を見つめながら思う。髪の毛、紅いなぁ。
この日、紅くて強い、ちょっと傲慢でアホな不死鳥ことふーちゃんとの、楽しい俺のセカンドライフが幕を開けた。
あの時助けた鶴は不死鳥で、異世界まで来たらしい。 ピカッと藍丸 @Aitne_suvn
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