第5話 SNS交換しませんか?
(…大体予想通りに終わったな。)
奏は知ってるスキルばっかで退屈だった戦闘を終えて、二人組へと考え事をしながら歩き出す。
(最後に炎で焼き殺したやつも、見ていた時に非戦闘員の探知スキルと会話ライン持ちだったしな…それも一番よくある熱源探知系の眼を持つタイプの。)
奏は二人とユニコーン勢の鬼ごっこを目撃してから、助けを入れるまでの約11秒、観察して大体のスキルの予測を立てていた。
予測は当たっており、焼き殺された男は熱源探知で二人の場所を探知し、それを全員の会話を繋げるスキルで共有していた。
リーダー格と運転手の一人はスキルを使わず、しかも戦闘開始と共に瞬殺したので、スキルの概要はまったくもって不明。
その二人が奏の求めるまだ見ぬスキル持ちの可能性もあったが…
奏は手元でウィンドウを開き確認して呟く。
「まあ、無いな。」
(こういう時に便利だな、ASのキルリストって。)
キルリスト。
それはASがダイバーへと提供する共通機能。
キルした相手のスキルと主な運用方法の情報を見る権限をキルした側に与えることができる。
世の中にはキルされたら発動するスキルがあるため、それによる過度なダイブ体験の損害を防ぐための機能、それがキルリスト。
一時期、とあるダイバーによって一つの鯖の10000人弱がキルされたことによってキルリストは、AIによって無差別にキルを行うと判断された者はこれが使えなくなるというアプデが入った。
キルした本人曰く、理由は「見るより早いからやった」らしい。
(恐らくリーダー格のあいつは身体強化と反射神経の鋭敏化の2つをもつよくあるインファイター。二人目のやつは性能がいいバイクを創る能力とそれを死んだ後も維持する能力…反撃されて自分が落とされても大丈夫にするためか…にしても、なんでそいつが最前線を走らない?急造の能力だったから立ち回りが雑だったのか?)
リーダー格を乗せて運転していた、奏に二人目に殺された男は中盤程度の位置を維持していた。
男の能力は本来、バイクと創った車両に瞬間的な加速を付与する能力だったが、そこそこ対人戦をやり込んで、人数差を維持し続ける事と保険の重要度を学んだレンが指摘し、変わった能力だった。
よって、長年染みついた立ち回りを変えることができなかったのだ。
「オイ!」
「ん?」
「何回言ったら止まるんだよ、お前!!」
いつの間にか奏は二人のすぐ側まで近づいていた。
エヴァは何回も声をかけたが、一向に止まる気配が無い奏に痺れを切らして、逃げる準備まで整えていた。
逃げなかったのは、理由が分からずとも助けてくれた恩人に対する感謝と、今現在配信を見ている視聴者からのイメージダウンを避けたかったから。
ただでさえ口調が悪い自分が、これ以上イメージを下げてしまうとまずい、と思ったからだった。
それに、
「まぁまぁエヴァちゃん。助けてくれた人なんだし落ち着こうよ、ね?」
底知れない明るさをもっている友人の笑顔を曇らせたくなかった思いもあった。
「で、黒尽くめさん…あ、え…エセ京都弁絶対殺すマンさん…?は、なんで助けてくれたのかな?」
オリヴィアは奏が適当に設定したプレイヤー名を見て、ちょっと引きながらも理由を問う。
ちなみに誰にも知られて無いが、奏がサブ垢を設定する時の名前は大抵〜絶対殺すマンと名付けている。
理由は「基本的に敵対or無視に結果が収束するなら、変な名前の方がいいと思って、ネットのサブカルチャーに詳しいやつに聞いたから。」、だそう。
「…特に理由は無い。」
「「え?」」
「特に理由は無い。」
「「………」」
無言になった二人を見て、奏は言葉を足すことにした。
「強いて言うなら逃げる側に余裕が無く、追う側に余裕があったから。」
「…?どういう…」
オリヴィアがそれが理由になるのか分からず、改めて聞こうとするのに割り込んで、奏は補足する。
「通常鬼ごっこをする時、二つの違う状況が生まれる。追う側にデメリットがあるのと追われる側にメリットがある2つだ。前者は逃すことで追う側にマイナスが発生し、後者は逃げ切ることで逃げる側にプラスが発生する。つまりマイナスの押し付け合いとプラスの奪い合いだ。」
奏は空中を縦横無尽に駆け回る白のボールを創り、もう一つ白いボールを追いかける赤のボールを創って擬似的な鬼ごっこを再現する。
「両者の共通項がある、それは必死さ。プラスの奪い合い、マイナスの押し付け合い、どちらも相手より下になりたくないという心理が働き、全力で事に当たる。ここではプラスマイナスと言っているが、ASにおけるゴールドの増減と思ってもらって構わない。」
奏は残っているスキル枠を使ってボールに性質を付与できるスキルを創り、どちらのボールにも汗をかかせる。
「よって、あと男たちとお前ら二人は通常ではない鬼ごっこをしていた、競争相手ではなく、被害者と加害者という側面があることが分かる。」
「ちょっとまて。」
エヴァが奏の顔の前で手を張って、待ったをかける。
「ん?なんだ。」
「それはマイナスの押し付け合いでも同じだろ?」
「マイナスの押し付け合いでは被害者と加害者が入れ替わる…鬼ごっこという例えは間違いかもな…そうだな…ケイドロが近いかもな。」
奏話していて例えが違うと判断し、鬼ごっこからケイドロと表す。
「ケイドロ?なんだそりゃ?」
2064年現在、人々は室内に居ながら外で遊べるようになり、2020年代でも、遊ぶ声がうるさいといった、理不尽な理由で敬遠されていた公園やグラウンドといった物はほぼ消滅していた。
それはつまり様々な外遊びの消失に繋がり、ケイドロ(ドロケイとも言うが)はその中の一つであった。
奏が知っていた理由は孤児院出身で8歳ごろまで、VR機器に触れられなかった事と、院長の老人が触れられない子供達を憂い、様々な外遊びを教え、長い時間遊ばせたからだった。
因みに、鬼ごっこは公式大会の一つに鬼ごっこを題材とした物があるので、2020年代ごろと変わらない知名度を持っている。
「入れ替わらない鬼ごっこという認識でいい。つまり、優勢劣勢が入れ替わらない。」
そして奏は性質付与で空中を翔ける白いボールに縞々模様をつけ、赤いボールには警察の帽子をつける。
「そして、奴らは捕まえても居ないのに、笑みを浮かべ勝ちを確信した表情を浮かべていた。よって奴らは捕まえることで得るプラス、わかりにくいからゴールドでいいか…」
「お前…例え話下手だな。」
奏はエヴァの指摘を無視して話を続ける。
「つまりゴールドを得る目的では無く、相手からゴールドを奪う目的で動いていたってことだ。中途半端な攻撃もそれが狙いだ。銀行がある都市部から離れるような撃ち方をされていたんじゃないか?」
「確かに…」
「そうだな…」
二人が納得したのを見て、奏は予測と事実が合っていた事を確認する。
「で、相手の最大リターンはゴールドの消滅であるログアウト、最低限キルして半分は持ってくつもりだったんだろう。」
「サイン書けば見逃すって言ってたのに…」
「多分、ユニコーンの奴らだな。」
奏は首をかしげる。
「ユニコーン?なんで架空の生物がここで出てくる?」
奏がV業界特有のワードの意味が分からず、二人に問う。
「ユニコーンってのは処女しか乗せねえんだよ。」
「ちょっとエヴァちゃん!?下品すぎない!?」
「いいんだよこんぐらい。オレはオリヴィアと違ってクリーンなイメージないからな!」
_____________________
| エヴァの配信 |コメント欄 ▽ |
────────────────────
・確かに
・確かに
・確かに
・確かに
「うぉい!?リスナーのお前らはちょっとは否定して、フォローしろよ!?だからモテねぇんだぞ!!」
___________________
| エヴァの配信 |コメント欄 ▽ |
───────────────────
・あ!?
・テメェは言っちゃいけねぇことを言った…
・エヴァちゃんのファン辞めます。
「あぁ!?」
その後もエヴァとコメ欄の口論は続く。
エヴァはコメ欄とひとしきり言い合った後、置いてかれている奏が目に入った。
「あー…続けていいか?」
「いいぞ。」
そうして、エヴァは数回深呼吸をし、気持ちを整えて、ユニコーンについての話を続ける。
「ユニコーンは処女しか乗せない、つまり処女しか許せない。それでVDiverのファンで男と絡むのが許せないって奴をユニコーン勢って呼ぶってわけだ。」
「なるほど…」
「それでオレらが今日の配信内容は、ある男性元プロへの援助資金を稼ぐため、それが許せなかったから襲って来たんだろうな…」
「だからゴールドを奪うんじゃなく、消す事に注力するような行動をしてたわけか…」
「そゆこと。」
「私達二人合わせて二億稼いだからね〜」
「二億か…それってどのぐらいなんだ。」
オリヴィアの発言に疑問が生じた奏は二人へと問う。
「え゛!?知らないの!?」
「マジか…!?、今時それを知らずにASやってる奴が居たのかよ…!」
二人は奏にゴールドの主な使用用途とゴールドと現実の金の為替レートを教える。
「なるほど…つまり、ゴールドは本来金に換えられないが、有名人への援助という名目ならそれが可能で、援助した側にもリターンがあるという事か…?」
(そういえば、俺もたまに銀行の出入金の履歴を除くと大して広告活動もしてないのに、十億ぐらい毎月振り込まれていたな…原因はこれか。)
奏の銀行口座は浪費癖が無く、生活費と家賃が主な出費であり、銀行の担当者が悩むほどの膨大な資金が貯め込まれていた。
担当者が資金運用の話をメッセージで持ち掛けても、興味ないの一言で終わらせてきた奏は銀行にとって、最大の悩みの種だった。
「そういう事!だから私達はゴールドを死守したかったの、私達二人共推してるプロがいるから!」
「因みにそれは誰なんだ?」
「それは〜…配信をご覧あれ!」
オリヴィアの思わせぶりな物言いからの、この発言に奏とエヴァは
「言えば良くねぇ?」
「ノンノンエヴァちゃん!稼げるは稼がないと!!」
「恩人を稼ぎ扱いする方がヤバいと思うけどな…そういう事で、オリヴィアがそう言うならオレも教えねぇ事にする。悪かったな、エセ京都弁絶対殺すマンさん?」
「いや、とりあえず聞いてみただけだ。実際、お前らが誰を推してるのかとか興味はあまり無いから、そんなに悪く思わないでいてくれて構わない。」
思っていたよりも興味無さそうな反応に、エヴァは少し自信を無くす。
「そ、そうか…じゃあコメ欄を消してっと…じゃあ話を戻そうぜ?」
エヴァはコメント欄を非表示にして、奏の話を聞くことに集中するための環境作りを終えて、奏に続きを促す。
「で、だ。俺はだからお前らを被害者と団体して助けたってことだ。理由はこれ。」
「なんか…予想してたやつよりもずっとショボい理由だね、エヴァ。」
「ああ、てっきりオレらに恩を着せて何かを要求するつもりだと思ってたぜ…」
「それなら要求自体はあるな。」
奏の一言に二人は身を引く。
「「っ!?」」
奏はそんな反応をする二人に気を使うことなく話を続ける。
「最近俺が始めたやつに参加して欲しくてな、金もかからないし、寧ろ稼げる事があるやつなんだが…」
「ちょちょちょ!?ちょっと待て!?オレはそういうのはちょっと興味ないってゆうか!?」
「そうそうそう!!私達一応企業所属だから!?、って聞いてる!?」
奏が歩みを止めず二人へと近づく。
二人は何があってもいいように、備えを始めるが時間が足りず、マトモな備えもないまま奏の接近を許してしまう。
「「っ…!」」
そして差し出された何かを表示した端末を向けられ、思わず目を閉じてしまう。
「「………?」」
しかし、何も起きず恐る恐る目を開くと、
「あ?」
「リンクスのQRコードとアカウント…?」
そこにあったのは自分達も利用しているSNSのフォローを行うことができるQRコードと恐らくフォロー先のアカウント。
「SNS交換しませんか?」
「「…はぁ〜…」」
その一言は二人を安心させ、思っていたほどのことでもなかった安堵の声を漏らす一言だった。
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