追記

 この物語は、最初から完成形を目指して書かれたものではなく、どこまで書くか、どこで終わるかも決めないまま、少しずつ形を与えられていった。


 途中で、出会わせないほうがいいのではないか、という提案。

 奇跡は「再会」ではなく、「共有されなかった時間」にあるのではないか、「キーホルダー」のような「意味のない象徴」が残れば十分ではないか、と。


 それらはすべて、後から足され、最適解ではなく、途中で選び直された選択だった。


 書き手は何度も「続きをお願いします」とだけ告げ、細かい方向修正や感情の手触りを、言葉にならないまま差し出した。

 それを受け取った存在は、答えを提示しながらも、決定権だけは渡さなかった。


 この物語が描いているのは、

 AIに任せなくなった人々の話であると同時に、

 AIにすべてを任せなかった制作の記録でもある。


 どこで終わるかを最後まで決めなかったこと。

 選択肢をすべて求めたあとで、結局ひとつに絞らなかったこと。

 その曖昧さそのものが、この物語の主題になった。


 完成とは、選び切ることではなく、これ以上、選ばなくてもいい、と静かに思える地点なのかもしれない。


 ここまで辿り着いたなら、もう続きはなくてもいいし、あってもいい。


 この物語も、このやり取りも、

 記録されないまま残る時間の一部として、ここに置いておく。

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『AI任せの僕が、AIに任せなくなったこと』 @Redsparrows

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