最終話 駅の待合室

 ローカル線はAI障害で止まっていた。

 理由は曖昧なまま、復旧の見込みだけが繰り返される。


 大学生の僕は、待合室に入った。

 スーツ姿の男が先に座っている。


 しばらくして、女性が入ってくる。

 手には売店の袋。


 三人ともスマートフォンを持っているが、誰も操作しない。


 雨音が続く。


「長くなりそうですね」


 それだけで、十分だった。


 女性が缶コーヒーを差し出す。

 理由も、説明もない。


 やがて運転再開のアナウンスが流れ、三人は別々に立ち上がる。

 名前も連絡先も交わさない。


 その夜、三人はそれぞれAIを起動しなかった。


 記録されない時間が、確かに残った。

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