第3話:飛び火する災厄
キィィィィン、という耳鳴りが止んだ後、教室には何事もなかったかのように静寂が戻った。 他のクラスメイトたちは「今の何?」「機材の故障かな」と口々に文句を言っているが、私と健太、梓の三人だけは、硬直したまま動けなかった。
「……見た? 今の信号」 私が震える声で尋ねると、健太が顔をひきつらせて頷いた。
「ああ。点滅してたな。ありえねえよ、あんなリズム……」
結局、一時間目の授業は全く頭に入らなかった。 教科書をめくろうとすれば紙で指を深く切り、ペンを持てば芯が何度も折れる。 私にまとわりつく「不幸」の濃度が、明らかに濃くなっているのを感じる。
休み時間。私たちは人気のない非常階段の踊り場に集まった。
「ねえ、梓。掲示板の続き、何か書いてなかった?」 私が縋るように聞くと、梓はタブレットを操作しながら、唇を噛んだ。
「……さっきの続き、見つけた。でも、内容がひどすぎる」
梓が指し示した画面には、実行者Aのその後の記録があった。
【16:20】一緒にいた友人が階段から転落。意識不明の重体。 【19:00】帰宅途中の母親から電話。家でボヤ騒ぎ。 【21:30】実行者本人、風呂場で転倒。頭部を強打。
「……これって」 健太が絶句する。
「『赤ノロシ』は、信号無視をした本人だけを狙うわけじゃないみたい。その行為を**『目撃した者』や、『話を聞いた者』**……つまり、呪いの存在を認識した周囲の人間にも、不幸が飛び火する」
梓の言葉に、心臓が跳ね上がった。
「じゃあ、健太や梓にも……?」
「……多分。健太のスマホが壊れたのは、その予兆だったんだよ。ゆみが信号を無視するのを、一番近くで見ていたから」
健太の顔から血の気が引いていくのがわかった。 「冗談じゃねえぞ。俺は止めたんだ、あんなことやるなって!」
「わかってる! ごめん、本当にごめん……」
私が謝りかけたその時だった。
ガシャァァァァン!!
頭上から、凄まじい衝撃音が響いた。 踊り場の天井にある天窓のガラスが、何の前触れもなく粉々に砕け散ったのだ。
「うわぁっ!?」
咄嗟に健太が私を突き飛ばした。 直後、彼のすぐ隣に、大きなガラスの破片が槍のように突き刺さる。 もし健太が動いていなければ、間違いなく頭を割られていただろう。
「健太! 大丈夫!?」 「……ああ、かすっただけだ」
健太の手の甲から、赤い血がツリリと垂れた。 破片が刺さったコンクリートの床を見ると、そこには砕けたガラスが散乱し、日光を反射して不自然なほど赤く輝いていた。
「……ねえ、見て」 梓が震える指で外を指差した。
校庭の向こう、例の交差点。 そこには、一台の真っ赤なクレーン車が止まっていた。 作業員が何かを点検しているようだが、そのクレーンの先端が、まるで巨大な指のように、この校舎を、いや、私たちを指し示しているように見えた。
「赤ノロシ……。ノロシって、合図のことだよね」 梓がうわ言のように呟く。
「合図を送ってるんだ。『次は、お前たちだ』って」
不幸のバトンは、もう私の手の中だけにはない。 私のわがままが、一番大切な友人たちを死の淵へと引き摺り込もうとしていた。
――この時、私は初めて理解した。 これはただの「運が悪い」で済まされる話ではない。 私たちは、明確な「悪意」にロックオンされたのだ。
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