魂のZZR
あのZZRのアクセルを捻る度、フレームがまだ歪んでいるのかエンジンの動力が、少し遅れて地べたに伝わる。
ーーーーこうなりゃあそこに持っていくしかない。
俺は若松区の山の奥にある寂れた板金屋に、ZZRを持っていった。
「こりゃとんでもねぇな、カタナ手放したら今度はまともに真っ直ぐ走らねぇ様なやつを持ってきたのか昭一。」
職人のおっさん"唐澤"がそう言いやがる。
「うっせぇよ唐澤のおっさん、とにかくこれフレームまともになるか?」
唐澤はその問いに、余裕の笑みで返してきやがった。そりゃそうだこの道40年の大ベテラン、やつに直せないものは、ほとんどねぇ。
「明後日辺りまた取りに来い、そうすればこいつは真っ直ぐ走るようになってるさ」
俺は明後日が待ちきれず夜も眠れなかった。外から聞こえる、バリバリとしたバイクのエンジン音。それが聞こえる度アイツを思い出す。
ーーーー「畜生が、、」
その一言がふと口から出てしまった。それと同時に前が歪んで見えなくなった。
時が重く流れるなら遂にその"明後日"が来た。唐澤のおっさんは本当にあのフレームの歪んだZZRを文句の言えない程に仕上げてやがった。
でも本当は少し治らないでと願っていたのもあるだろう。ZZRを前にして跨る気力がありゃしねぇ。
ーーーー「無理して乗るぐらいなら、そんなガラクタ潰しちまえ。」
唐澤のオッサンが工場の天窓を見て遠い空を眺めるようにそう口にした。
「うるせぇよ、こいつに乗ってあそこの峠を攻めねぇと気が済まねぇ。」
唐澤のおっさんはそれ以上何も言わなかった。
クラッチを握りエンジンをかけ走り出す、半クラを使い駆け足ぐらいのスピード、でも治っているのは良くわかった。
「お代は結構だ。だからそいつがぶっ壊れたらもうそこでしまいにしろ、お前は未来がある、鈴鹿八耐のチームからもオファー来てんだ。」
俺は軽く頷き、紅葉の吹雪の中をかっ飛ばす。あいつの背中を追ってるみたいに。
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