第8話
それまで上機嫌だった葉山は午前中と同じように塞ぎ込んでしまった。自惚れかもしれないけれど、葉山は僕とお別れになることを悲しんでいるのかなと思った。僕はなんと声を掛けたら良いのかわからなかった。
その夜、葉山はこれまでのことを僕に語った。幼いころから母親に無視されていること、普通のことだと思って友達を家に招いたらその日からというもの汚物扱いされていること、その友達が高校でも同じでレッテルを張られていること、そのせいで自分の体臭がわからなくてコンプレックスになっていること。葉山は、それでもいいなら―、匂いを嗅いで良い、と言った。あの日は拒否されてしまったけれど、今は許してくれている。何よりも僕に心を開いてくれたことが嬉しかった。僕はあの日のように、葉山の首元に顔を寄せて、匂いを嗅いだ。言葉にするのが難しいけれど、葉山の匂いは、やっぱりずっと嗅いでいたいけれど、どこか落ち着かなくなる匂いで、心臓が爆発しそうだった。葉山の顔を見ると、少し緊張しているように見えた。僕が臭くないなんてない、というと、葉山はポロポロと泣いて、憑き物が落ちたような笑顔で、ありがとう、と言った。そのとき、胸の奥がスッと軽くなった。そのときにようやく気がついた。ああ、僕の未練って葉山を笑顔にすることだったんだ、と―。
翌朝。僕の葬儀の日。みんなとお別れする日。式場にはズラリと席が並んでいて、葉山は誰も座らない一番後ろの席に座った。僕はどこにいたらいいのかわからなくて、葉山の隣に座った。
読経が始まると、胸がポカポカとなって、眠気に誘われた。出棺するときには、意識を保てず、隣の葉山の肩を借りて、いい匂いに包まれていた―。ただ、ふと僕は1つ忘れていたことを思い出した。一番大事なことを。眠っちゃだめだ、といくら思っても、身体は抗えなかった。
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