第2話
それまでの勢いはどこにいったのか、葉山は時が止まったかのように固まってしまったが、僕は"沈黙は肯定"と、どこで聞いたかもわからない言葉を思い出し、葉山の耳元に顔を近づけた。なぜ首元かというと、人の匂いは耳元から強く発すると聞いたことがあるからだ。僕が耳元でスーッと息を吸い込もうとしたそのとき、葉山が突然叫んだため、反射的に僕は仰け反り、背後の壁に体を打ち付けた。葉山の顔を見ると、引きつっていて、すぐに走り去っていった。僕は自分の振る舞いを猛省した。強引に迫って葉山を怯えさせたに違いない、と。
翌日、登校して謝罪するために葉山を探したが、どこにも見当たらなかった。授業中には葉山は教室に戻っていたが、休憩時間はどこかへ出ているようだった。
放課後になって、葉山に声をかけようとしたが、やはりどこにもいなかった。だが、荷物は机に置いてあったので、どこかにはいるようだった。
しばらく探していると、ある男と一緒に葉山が歩いている姿を見かけた。葉山は男の腕に自分の腕を組ませていた。ああ、彼氏がいたのかと思った。ただ、昨日の僕との一件を思い返すと、彼氏がいたうえで“サービス”を持ち掛けてくるのは違和感があった。2人の後をついていくと、屋上にたどり着いた。屋上への道は薄暗くて近寄りがたい雰囲気があるため、不良にたまり場になっていると噂になっていた。そのためか、開放されているのにも関わらず、ほとんど生徒が利用することはなかった。そんな場所で男女で密会なんて、といかがわしい想像がよぎった。屋上の扉から二人の様子を伺っていると、葉山が男に封筒を手渡した。そのとき、男の顔がチラリと見えた。男は鷹野 恭介だった。鷹野は好色と噂で、やはり屋上で逢引きしているのかと思ったが、鷹野が葉山から受け取った封筒を開けると、紙幣が出てきた。鷹野は銀行員のような慣れた手つきで札勘定すると、葉山の頭を撫でた。遠目だったが、葉山と鷹野の雰囲気は良さそうに見えて、胸が締め付けられたのを覚えている。
葉山が屋上から出ていく素振りを見せたので扉の陰で待つと、僕に気づかずに階段をスタスタと降りて行った。しかし、なぜか鷹野が出てこなかったので、再び扉から覗き込むと、僕は情けない声をあげてしまった―。
鷹野が扉の目の前で、不敵な笑みを浮かべていたのだ。
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