ここで彼女の話となる

玄 律暁

ここで彼女の話となる 第1話

■ ここで彼女の話となる


○ 幾度となく通らなければならない過去


● モノを書く順番

何かしらモノ書く人であれば多くの方々は計画的に進めることができる。しかし私にはできない。そういう性格だから。一応大雑把に計画を立ててもその通りにいかない。このことに関してはもう諦めた。何度もうまくいかなくて、その度に少し落ち込んだりしてしまうからだ。


だから、いっそのこと諦めてしまおうと。


そういうことで、私がモノを書く順番というのがめっちゃくちゃであって、頭の中で過去20年前のことと、つい2年前のこととを同時並行しながら考えたりしていて、結果として出来上がったもののいずれかに意味不明な章が混じっていたりする。それはそれで何かしらのエピソードを書いた、として捉えることがきるのであれば放置して構わないと思うのだけど、全く何の脈絡もなく、意識がどこかへ行ってしまうこともある。


これについてもまた、諦めている。


何事に対しても諦めず挫けずに、という姿勢は素晴らしいと思うが、そういう姿勢を取れるような余裕が、私にはもうない気がする。


● 忘れられること

これから書く話は、必ず私が書かないといけないと思っていたことだ。もっとも、私にしか書けないことなのだが。


知っての通り、いずれは誰もが忘れ去られる。今後もそうなっていく。歴史に名を残しているような人物であっても、画像、映像、といった情報は残るが、本当に覚えている人というのはいずれいなくなる。


あなたの大切な人は、あなたを忘れる。


あなたもまた、どんなに大切な人のことでさえも忘れる。死ぬと同時にそのよう

になるかもしれない。


人に忘れられるということは喜ばしいと捉える考え方もあるかもしれない。人によって考え方は様々だ。


せめて大切な人に対して、何かしら書いたものを遺したり、遺してもらったりしてもらうと多少は救われるのかもしれないが、いつ、どんなタイミングで人は死ぬのか全く分からない。


私は2012年6月1日に親友(享年26)からの遺書を受け取り、同年11月20日には大好きな女の子である奏美(享年25)から大量のLINEメッセージを遺された。もっとも彼女の場合は遺そうという意識はなかっただろう。私の端末に残ってしまっていたのだ。


奏美が亡くなる1年ほど前から、わかりやすく書くと急接近することがあって、そして何度目かわからない程なのだけど自分の気持ちを伝えて、ようやく少し報われた部分があった。高校一年生となった頃から約十年間の片想いをしていたのだが、片想い、と呼んでこそいるが、これは

8割程実っていたと表現していいだろう。実った直後に、その実のなってる木が倒木したような形だ。


老舗旅館の若女将だった。


奏美と、もしその先に何かがあるとしたら自分はどのようにするか、、ということを覚悟していた。

もちろんそのことも、長い長いやり取りを重ねる中で伝えてあった。

よく大好きな子が亡くなったというこの話をするのだけど、実際のところはそこまでの覚悟をしていた。生半可なものではなく、全てを投げ打つつもりでいた。


しかし、彼女は死んでしまった。


単に大好きな子が死んでしまったという話ではなく、自分の人生が全く見当もつかない方向へといってしまうこととなった。


精一杯、自分にできることはした。できることはしたからと言っても後悔はなくならない。

彼女の母が女将ということになるのだが、その方と一緒に彼女を全力で守った。付きっきりというわけにはいかなかった。仕事は仕事であったため、それ以外の時間を使って。本当に、それはもう大量のテキストが遺ったのはそういった時からのやり取りでのことも含まれる。


無駄な時間だったのだろうか。

けれども少しは報われたのだから、まだ良い方なのだろうか。


● 話はスピードをあげていく

さて、昔々あるところに、二回目の高校一年生を迎えた男子がひとりいた。二回目の一年生だけあって、私は周囲から甚だしく浮いていた。髪の毛も茶色がかっていたり、何より耳に大きなホールピアスを入れていた。


そんな時に何やら「すごく可愛い女の子がいる」という声が聞こえたので、その集団となった男たちの群れの後をつけて、隣の教室をなんとなく見に行ってみた。そこにいたのが奏美だった。一目惚れというのは絶対に自分はしないだろうと思っていたのだけど、彼女に対しては完全に一目惚れした。の、だと思う。


さあ、どんどんスピードをあげていく。


あるとき学校をサボって電車で帰宅する途中、同じ方面へ向かう男がいた。フレンドリーな雰囲気を持っていて、すぐに私たちは仲良くなった。貴章という男だった。


中学生の時、貴章と奏美とは付き合っていたのだ。その話を聞いてから余計に私は彼女を意識するようになった。


高校生っていうのは男女ともに不安定なもので、私なんかもまさに狼の如き男と成り果てていたため、奏美のことが大好きであったのだけど、そう言っておきながら他の女の子と付き合ったり別れたりを繰り返していた。高校一年生のうちに奏美に一回だけ告白したのだけど、同じクラスの男女十数名とカラオケ店で大量に酒を飲んだ後のことだったからか、彼女は私のことを酔っ払って何か言っている人、と認識していたようで、後年、その話をしたのだけど全く覚えていないとのことだった。


● 彼女は大学生となり

いいスピードだろう?

更に加速していこう。……実際にしていることは文章を短くしているだけだが。


奏美は新潟大学へと進学したが、私は地元の企業に就職した。進学校だったのに、就職したのだ。学年は200人居たのだが、就職したのはわずか4人だけだった。


19歳から22歳くらいの時は……私の狼症候群も更に悪化しており、良くない噂があちこちで飛び交うようになっていた。良くない噂くらい、なんともない。それよりも心配だったのは、奏美がを患ったという噂だった。その話は噂ではなく真実だった。


私は奏美の夢を知っていた。


アナウンサーになることだ。


まさにぴったりな職業だと思っていたが、その道には進まなかった。家へと戻り、女将のあとを継ぐことに決めたらしい。

それもまたぴったりに思えた。綺麗な子だから、着物姿もよく似合う。


皆が社会人となり、週に2、3回は貴章と私と、加えて私が当時付き合っていた彼女とで旅館へ遊びに行き、温泉に入っていた。いつもいつも、とても喜んでいてくれた。


→ 続く ● 水上花火

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