第3話
「帰りません」
そう言い放って、ツカサは目の前の椅子に腰を下ろした。
ここで帰ればもう話すチャンスはないだろう。こんな特別な機会、逃せるわけがない。
ツカサは、ミナトが依存しているPC画面のコメント欄を、親指で強く指し示した。
「先輩は、『それ』への依存がどれだけ脆いものか分かっていない」
ミナトの顔が硬直する。
「脆い?」
ミナトの声がわずかに高くなった。
「これは私が生きている証。脆くなんかない」
「不特定多数からの賞賛なんて、小さな綻び一つで敵意に変わる。先輩はその脆さを埋めるために、常に新しい曲を捧げているんですよね?そんなの……」
一瞬、言葉に詰まる。喉を締めて、言葉を押し出した。
「そんなのは悲しい上に、凡庸です」
ツカサは意図的に「凡庸」という言葉を使った。これは彼が最も恐るところであるが故に、彼女を最も刺激する言葉であると考えたのだ。
ミナトは目を見開き、唇をわずかに震わせた。ツカサの言葉を噛み締めているようだった。
その沈黙を破るように、PCがピポッと鳴った。
ミナトの肩がぴくりと揺れた。視線は画面に吸い込まれているようだった。
「……うん」
画面を見つめ、何かを確かめるように頷いた。
そして、ゆっくりこちらに向き直り、薄く笑った。
「面白いね。そういうこと言う人、なかなかいないよ」
「私は放課後いつもここにいる。来たいなら来れば。──見たいんでしょ。私がどれだけ脆いか」
彼女は続ける。
「でも、もし途中で来なくなったら……そのときは、私よりきみの方が脆くて凡庸だってことかな」
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