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小型艦がドックに収まると、外部との接続が完了した。
固定アームが展開され、艦体がわずかに揺れる。
それすらも、想定通りの挙動だった。
艦内の照明が通常光へ切り替わり、戦闘時特有の緊張感が、ゆっくりとほどけていく。
「よし。ログ確認に入る」
分隊長の声で、各員が端末を操作し始めた。
これは義務であり、習慣でもある。
戦闘の内容を感覚ではなく記録で確かめるための時間。
ゴームは武装ログを流し読みし、特に問題がないことを確認すると、早々に興味を失った。
「俺の方はいつも通りだな。ちょっと振りすぎたくらいだ」
「それ、毎回言ってるよ」
ひまわりは笑いながらも、索敵ログを丁寧に追っている。
「うーん……」
その表情が、わずかに曇った。
「どうした?」
分隊長が問う。
「いや、異常ってほどじゃないんだけど……」
ひまわりは言葉を探すように、画面を拡大する。
「反応の出方が、整いすぎてる」
「整いすぎてる?」
「うん。出現、接触、消失。全部が一直線。ノイズが少なすぎるの」
ゴームが眉をひそめる。
「それ、悪いことか?」
「普通は、もう少し散らかる」
ひまわりは、過去のログを並べて表示した。
確かに、比較すると今回のデータは異様なほど滑らかだった。多数のホシクイが出現するタイミングとリズム。接触時の敵対反応の出方。反応消失の残滓もほぼない。
つまりは余計な揺らぎがない。
「ゼロス」
分隊長が視線を向ける。
「君の分析は?」
ゼロスは、それとは違う点に着目していた。
「配置に、わずかなズレがあります」
淡々とした声で、事実だけを述べる。
「索敵で把握した位置と、実際に接触した位置に、時間的な遅延が見られます」
「どれくらいだ」
「戦術判断に影響を及ぼすレベルではありません」
即答だった。
「誤差として処理される範囲です」
分隊長は、その言葉を反芻する。
「つまり、問題なし」
「はい。その結論が最も合理的です」
ゼロスは、その判断を否定しなかった。
否定する理由が、どこにもないからだ。
ひまわりが、少しだけ首を傾げる。
「ゼロス的には、気にならない?」
「気にはなります」
即答だった。
三人が、同時にゼロスを見る。
「ただし、現時点で報告対象とするには、情報が不足しています」
「なるほど」
分隊長は納得したように頷いた。
「正しい判断だ」
その評価は、ゼロスにとって重要だった。
自分の分析が、指揮官の判断基準と一致しているという証明。
「今回の任務に関しては、通常通り“異常なし”で報告する」
分隊長が結論を出す。
「引っかかる点はあるが、運用上は問題にならない」
「了解」
ひまわりも、ゴームも、反論しなかった。
実際、反論する材料はない。
データは揃っている。
結果も出ている。
誰も傷ついていない。
それでも。
ひまわりは、ログを閉じる直前、もう一度だけ画面を見つめた。
「……なんかさ」
「まだ気になるか」
分隊長が、穏やかに問う。
「うん。でも、たぶん今じゃない」
彼女はそう言って、端末を閉じた。
ゼロスも、自身のログを保存する。
問題はない。
判断は正しい。
そう記録される。
だが、彼の内部では、一つのタグが付け加えられていた。
――未整理。
――要経過観察。
それは、規定には存在しない分類だった。
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