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戦場に残るホシクイの影は、すでに数えるほどになっていた。
散開していた個体も、いまや互いに距離を取り、逃げ場を探すような動きを見せている。だが、防衛ラインの外縁から内側へ踏み込む余地はない。第258分隊が、そこを完全に押さえていた。
「残り三」
ひまわりの報告は簡潔だった。
「位置、共有するね。右上に二、左下に一」
「了解」
分隊長が応じる。
「ゴーム、右を一掃しろ。ゼロス、左下を任せる」
「一人ですか?」
「そうだ。問題ない」
「了解しました」
ゼロスは、指定された方向へと進路を取った。
視界の先に、単独で動くホシクイがいる。胴体を大きくうねらせ、手足をばたつかせながら、進路を定めかねているようだった。
小型クラス。脅威度は低い。
だが、それは油断していい理由にはならない。
ゼロスは距離を詰める。
推進器の出力を抑え、最小限の動きで接近する。相手の視線――正確には、反応器官の向きを読み取る。
ホシクイがこちらに気づき、胴体をしならせて突進してきた。
ゼロスは一歩、横へずれる。
真正面から受けず、動きの流れに沿って刃を振るう。ブレードは胴体の側面を深く切り裂いた。
ホシクイが悲鳴のような振動を放ち、体勢を崩す。
――まだ、動く。
ゼロスは距離を詰め直す。
今度は、迷わなかった。
二撃目。手足の付け根を断ち、動きを完全に止める。
三撃目で、胴体の中枢部を貫いた。
ホシクイは、ゆっくりと力を失い、宙域に沈黙した。
「対象、撃破しました」
ゼロスの報告は、いつも通り淡々としていた。
「確認した」
分隊長の声が返る。
「よくやった。戻れ」
その短い一言に、余計な感情は含まれていない。だが、それで十分だった。
一方、右側ではゴームが最後の二体を相手取っていた。
「まとめて来いよ!」
挑発するような声とともに、大剣が大きく振るわれる。二体のホシクイが交錯した瞬間、その隙間に刃が滑り込んだ。
一体が断たれ、もう一体が体勢を崩す。
そこへ、ひまわりの一撃が重なる。
「はい、終了っと」
光線が貫き、残る個体も沈黙した。
「――全目標、撃破」
ひまわりの声は、少しだけ弾んでいた。
宙域に、再び静寂が戻る。
漂うのは、破壊されたホシクイの残骸と、分隊の四体だけだ。
分隊長は全体を見渡し、戦闘終了を宣言する。
「第258分隊、作戦完了。帰投準備に入る」
「了解」
四体は自然に集まり、艦へと戻っていく。
その途中、ゴームがゼロスの方をちらりと見た。
「初陣にしては、悪くなかったな」
「評価基準が不明確です」
「褒めてるんだよ」
「……理解しました」
ひまわりがくすっと笑う。
「ゼロスってさ、戦闘中はちゃんと噛み合ってるのに、こういう時だけ妙に堅いよね」
「平常時の応答として、最適だと判断しています」
「その判断、もうちょっと柔らかくてもいいと思うなー」
やり取りを聞きながら、分隊長は黙って歩いていた。
艦内へ戻る直前、ふと足を止める。
「ゼロス」
「はい」
「今日は分隊として、いい動きだった」
「……分隊の連携による成果です」
「それも含めてだ」
それ以上は言わない。
だが、その背中が示すものは明確だった。
第258分隊は、今日もいつも通り任務を果たした。
それが、彼らの“日常”だ。
誰にも気づかれない静かな宙域で、星を守るために戦う。
ゼロスは、その一員として、そこに立っていた。
まだ知らないことは多い。
だが、少なくとも今は、この場所で、この分隊とともに戦えている。
小型艦のハッチが閉じ、プラットフォームへと帰投を開始する。
戦闘は終わった。
だが、第258分隊の日常は、これからも続いていく。
その先に、どんな異変が待っていようとも。
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