2/3


 戦場は、すでに第258分隊の色に染まりつつあった。


 宙域を漂っていたホシクイの数は、目に見えて減っている。ひまわりの射線が空間を区切り、ゴームの剣がその内側を荒々しく制圧し、分隊長の指示が全体の流れを微調整する。その中に、ゼロスの動きも自然に組み込まれていた。


「左、少し散るよ」


 ひまわりの声が飛ぶ。


 次の瞬間、残ったホシクイの一部が進路を変え、分隊の側面へ回り込もうとする。


「想定内だ」


 分隊長が即座に判断を下す。


「ゴーム、前を押さえろ。ゼロス、ひまわりの射線を守れ」


「任せろ!」


「了解しました」


 ゴームは躊躇なく前へ出る。大剣を振るいながら、敵の注意を自分に集めるように立ち回る。その動きは荒々しいが、位置取りは正確だった。防衛ラインを背にする角度を常に意識している。


 一方で、ゼロスはひまわりの前に立った。


 後方支援用に調整された彼女は、火力と索敵に集中する必要がある。その時間を稼ぐのが、ゼロスの役割だった。


 迫るホシクイが二体。


 細長い胴体が絡み合うように接近してくる。


 ゼロスは一歩踏み出し、最短距離で刃を振るう。片方の動きを止め、もう一体の進路を遮る。致命傷には至らないが、十分だ。


「そのまま、少し耐えて」


 ひまわりの声。


 次の瞬間、背後から光が走り、ホシクイの胴体を正確に貫いた。


「処理完了。ありがと、ゼロス」


「こちらこそ」


 淡々とした返答だったが、その立ち位置は崩れていない。


 ゼロスは理解していた。


 この戦場で重要なのは、個々の撃破数ではない。分隊として、流れを維持することだ。


 分隊長はその様子を確認し、小さく頷いた。


「いい位置だ。そのまま維持しろ」


 彼の指示は多くない。だが、必要なときに必要な言葉だけが飛ぶ。その一言が、戦場の形を決定づけていた。


「残り、あと少しだね」


 ひまわりが軽く言う。


 声色は普段と変わらないが、指先の動きは鋭かった。索敵と射撃を同時にこなし、味方の死角を埋めていく。


「楽勝とは言わねえが」


 ゴームが笑う。


「このくらいなら、準備運動だな!」


 彼の剣が振り下ろされ、また一体のホシクイが沈黙する。


 戦場に残る敵影は、さらに減っていった。


 ゼロスはその中で、動きを合わせ続ける。


 分隊長の位置、ゴームの進行方向、ひまわりの射線。それらを常に意識し、最も無理のない場所へ身を置く。


 結果として、彼の周囲には、自然と“空間”が生まれていた。


 敵が入り込みにくく、味方が動きやすい場所。


 それは、意図して作ったものではない。


 ただ、分隊の動きに合わせているうちに、そうなっていた。


「ゼロス」


 分隊長の声が届く。


「前に出す。残りの一群、切り崩せ」


「了解しました」


 ゼロスは即座に前進する。


 そこには、まだ動きを止めていないホシクイがいた。単体であれば脅威は低いが、油断すれば絡みつかれる。


 ゼロスは距離を詰め、今度は迷わず踏み込んだ。


 ブレードが振るわれ、胴体の要所を正確に断つ。完全な撃破ではないが、動きは明らかに鈍った。


「今だ」


 分隊長の短い声。


 その合図に応じるように、ひまわりの一撃が重なる。ホシクイは力を失い、宙に漂った。


「よし」


 ゴームが振り返る。


「残りも片付けるぞ」


 戦場は、終盤へと向かっていた。


 第258分隊の動きは、終始変わらない。


 慌てず、乱れず、淡々と。


 それが、この分隊の強さだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る