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戦場は、すでに第258分隊の色に染まりつつあった。
宙域を漂っていたホシクイの数は、目に見えて減っている。ひまわりの射線が空間を区切り、ゴームの剣がその内側を荒々しく制圧し、分隊長の指示が全体の流れを微調整する。その中に、ゼロスの動きも自然に組み込まれていた。
「左、少し散るよ」
ひまわりの声が飛ぶ。
次の瞬間、残ったホシクイの一部が進路を変え、分隊の側面へ回り込もうとする。
「想定内だ」
分隊長が即座に判断を下す。
「ゴーム、前を押さえろ。ゼロス、ひまわりの射線を守れ」
「任せろ!」
「了解しました」
ゴームは躊躇なく前へ出る。大剣を振るいながら、敵の注意を自分に集めるように立ち回る。その動きは荒々しいが、位置取りは正確だった。防衛ラインを背にする角度を常に意識している。
一方で、ゼロスはひまわりの前に立った。
後方支援用に調整された彼女は、火力と索敵に集中する必要がある。その時間を稼ぐのが、ゼロスの役割だった。
迫るホシクイが二体。
細長い胴体が絡み合うように接近してくる。
ゼロスは一歩踏み出し、最短距離で刃を振るう。片方の動きを止め、もう一体の進路を遮る。致命傷には至らないが、十分だ。
「そのまま、少し耐えて」
ひまわりの声。
次の瞬間、背後から光が走り、ホシクイの胴体を正確に貫いた。
「処理完了。ありがと、ゼロス」
「こちらこそ」
淡々とした返答だったが、その立ち位置は崩れていない。
ゼロスは理解していた。
この戦場で重要なのは、個々の撃破数ではない。分隊として、流れを維持することだ。
分隊長はその様子を確認し、小さく頷いた。
「いい位置だ。そのまま維持しろ」
彼の指示は多くない。だが、必要なときに必要な言葉だけが飛ぶ。その一言が、戦場の形を決定づけていた。
「残り、あと少しだね」
ひまわりが軽く言う。
声色は普段と変わらないが、指先の動きは鋭かった。索敵と射撃を同時にこなし、味方の死角を埋めていく。
「楽勝とは言わねえが」
ゴームが笑う。
「このくらいなら、準備運動だな!」
彼の剣が振り下ろされ、また一体のホシクイが沈黙する。
戦場に残る敵影は、さらに減っていった。
ゼロスはその中で、動きを合わせ続ける。
分隊長の位置、ゴームの進行方向、ひまわりの射線。それらを常に意識し、最も無理のない場所へ身を置く。
結果として、彼の周囲には、自然と“空間”が生まれていた。
敵が入り込みにくく、味方が動きやすい場所。
それは、意図して作ったものではない。
ただ、分隊の動きに合わせているうちに、そうなっていた。
「ゼロス」
分隊長の声が届く。
「前に出す。残りの一群、切り崩せ」
「了解しました」
ゼロスは即座に前進する。
そこには、まだ動きを止めていないホシクイがいた。単体であれば脅威は低いが、油断すれば絡みつかれる。
ゼロスは距離を詰め、今度は迷わず踏み込んだ。
ブレードが振るわれ、胴体の要所を正確に断つ。完全な撃破ではないが、動きは明らかに鈍った。
「今だ」
分隊長の短い声。
その合図に応じるように、ひまわりの一撃が重なる。ホシクイは力を失い、宙に漂った。
「よし」
ゴームが振り返る。
「残りも片付けるぞ」
戦場は、終盤へと向かっていた。
第258分隊の動きは、終始変わらない。
慌てず、乱れず、淡々と。
それが、この分隊の強さだった。
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