第2話 《仮面》の選択、そして物語の始まり


 『初期設定が完了しました。これより、《仮面マスク》の選択に移ります』


 その声と同時に、乳白色で埋まっていた空間が黒く染まった。

 …話には聞いていたけど、急にやられるとさすがにビックリするな。


 周囲には様々な人の顔…いや、仮面が浮いている。


 『あなたの仮面を選んでください』


 その言葉で周囲の仮面が消え、輝きを放つ水晶に姿を変えた。

 この水晶の中から仮面を選べということだろう。


 水晶は無数に漂っているわけではなかった。数は多いが、さっきの仮面ほど圧倒的ではない。だけど、一つ一つが確かな存在感を放っていて、視線を向けるだけで胸の奥が微かにざわつく。


 『《仮面マスク》は、この世界における第二のあなたの役割と在り方を象徴するものです』


 メイシアさんの声は、前よりも少しだけ慎重だ。

 RaceやJob以上に、このゲームの根幹に関わる要素みたいだ。当たり前か、創造神が力が尽きるというのにわざわざ用意したものだし、重要なのは必然といえる。


 水晶に近づくと、それぞれに淡い文字情報が浮かび上がった。


 【赤の仮面】

 【青の仮面】

 【緑の仮面】

 【黄の仮面】

 【白の仮面】

 【黒の仮面】


 情報はその仮面の色だけで、どんな仮面なのかは書かれていない。

 ちなみに、これらの仮面以外にも【紫の仮面】や【橙の仮面】など色の種類は様々だ。


 βテスターたちからの情報は仮面を選ぶというところまでで止まっている。どの仮面がどんな効果があるかは守秘義務があっていってはいけない決まりになっているらしい。


 私が選んだのは――――白の仮面だった。


 『【白の仮面】に決定しますか?』


 「はい、お願いします」


 私が【白の仮面】を選んだ理由は特にない。強いて言うなら私の抽選で当たったバイザーの名前がWhiteだったからだ。考察もできなくはないけど…私は経験から、こういう時は直感で選んだほうがいいって思っているんだ。


 『使用されているバイザー、Whiteによって【白の仮面】が変質します』


 …ほらね。


《 【純白の仮面】

  目標〈キャラクターの殺害・救済〉

  性質〈裏切り〉

  特性〈何者にでも染まることができる〉 》


 私の前に現れたのは美しい装飾がされたピアスだった。

 …うーん、ピアスかぁ。耳に穴をあけたことはないからイヤリングがよかったな。

 

 そう思ったら目の前のピアスがイヤリングに変わる。おぉ、凄い。


 正直、【純白の仮面】の内容はとても気になる。でも仮面が使えるようになるのはレベルが20になってからだ。だからそれまでじっくり考えることにした。


 仮面が表示された瞬間――何かが始まる予感がしたのは気のせいかもしれないしね。


 ちなみに目標や性質は、それに伴った行動をすると能力が上がるということを示している。


 『ゲームを開始するとしばらくは仮面を使用することができませんが、先に仮面での外見の設定を済ませますか?』


 「いえ、それはゲームが開始して仮面が使えるようになってから自分で決めるので大丈夫です」


 『わかりました。では最後に、初期地点の設定を行います』


 『選択できるのは神聖メルキオス王国、マルガンデ共和国、アールカ帝国、獣王国ヒルデです。また、アトラス大陸の中からランダムで初期地点を選ぶこともできます』


 これらの初期地点で選ぶことができるところは公式サイトで既に情報が公開されている。


 選ぶことのできる国の中で、人族の国家は3つ。

 1つ目は神聖メルキオス王国。創造神を敬ってはいるが魔族と敵対するヒューマンの国で、アトラス大陸で一番大きい国家だ。

 2つ目のマルガンデ共和国は技術の高さが有名で地上にも地下にも国があるという特徴を持っているドワーフの国。

 最後の3つ目はアールカ帝国で、大樹に囲まれた自然と共生するエルフが治める魔法国家。


 そんな中で一つだけ人族国家ではないのは獣王国ヒルデ。獣人が治める国で、実力主義の、保有する戦力が一番大きい国だ。この国は魔族も強いからという理由で受け入れているらしい。

 魔族は普通ならこの国にしたほうがいいけど…私の選択はもう決まった。


 「ランダムでお願いします」


 Raceもスキルもランダムを選んだし、初期地点もランダムにしようか。


 『ランダムですね。初期地点の設定が完了しました。それではこれより転移を開始いたします。』


 設定、結構時間がかかったけどようやく終わったね。メイシアさんの言葉と同時に足元から光があふれてくる。


 『では改めまして、ようこそルルーシア様。Unique Story Onlineへ。今からこの世界での新たな物語が始まります。ルルーシア様のご活躍を期待しております』


 「はい、いってきます。ありがとうございました!」


 そう言い終わった瞬間、私は光に包まれた――――…




 『あの方もに巻き込まれるんですよね。少し…贔屓でもしちゃいましょうか』



――――――――――――――――――――



 目を開けるとそこは――異世界だった。


 私の周わりには背の高い木々が生い茂り、その葉が日光を遮っていて、そこから透過した光が地面を照らしている。

 周囲の木々には見たことのない形の果実がなっている。その果物は現実では考えられない、種が見える半透明の実だ。


 少し湿った森のにおい。


 肌に感じる涼しげな空気。


 まるで、ここが現実のようだと錯覚させられそうだった。



 …感動するのは後にして、まずはステータスの確認をしようかな。ランダムで得たスキルを確認しよう。



 ふむふむ、増えたスキルが…【妖精眼】【神聖魔法Lv.1】【剣術Lv.1】【植物知識Lv.1】。


 ……レアっぽいの、多くないか?種族スキルがランダムで出るとか初めて聞いたんだけど。

 とりあえず掲示板でスキルについて確認してみる。【剣術】以外は最初に選べた初期スキルになかったスキルだ。


 

【ランダムで選べる】新しく出たRaceについて話そうぜ【新Raceとは?】


1:名無しの犬獣人

ランダムで選択すると低確率で今まで情報がなかった別のRaceが出るって聞いたけど本当か?


2:名無しのヒューマン

AIが嘘つく必要ないから本当だろ

俺はランダムガチャ引いたけど出なかった


3:名無しの犬獣人

ガチャってなんだ



――気になるけどこのスレじゃなくて…こっちか。


【スキル】新スキル情報総合スレ【まとめ】


1:名無しの異界人

ここはユニストに無限にあるスキルの情報を募るスレッドです。些細なことでもスキルについて気になることがあれば書き込んでください。


運営によって削除される可能性があるので荒らしは止めてください。

情報を出す場合はできるだけ詳細にお願いします。


2:名無しの異界人

スレ立て乙ー

2げと


3:名無しの異界人

いままでのスキルまとめ↓

【剣術】STRに補正がかかり、剣の扱いが上手くなる

【短剣術】AGIに補正がかかり、短剣の扱いが上手くなる

【弓術】DEXに補正がかかり、弓の扱いが上手くなる

【杖術】INTに補正がかかり、杖の扱いが上手くなる

【盾術】VITに補正がかかり、盾の扱いが上手くなる


 ……見つけた。


【動物知識】レベルに応じて動物に関する詳細な情報がわかるようになる

【鉱物知識】鉱物に関する詳細な情報がわかるようになる

】植物に関する詳細な情報がわかるようになる


 なるほど、【植物知識】は植物に関する情報がわかるようになる鑑定スキルの一種らしい。【鑑定】のスキルよりも詳細な情報がわかるみたいだし、現在周囲は木々に囲まれている。

 取得条件は今のところ分かっていないみたいだし、ラッキーだったと思っておこう。


【初心者必読】序盤で知っておきたいスキル・仕様まとめ


1:名無しの異界人

新規向けまとめスレ

まずはここから読め


2:名無しの異界人

生活魔法はマジで必須。これないと火も水も詰む


3:名無しの異界人

ランダム取得はギャンブル

当たると強い、外れると泣く


 ……私は当たったほうなのか。


 私はスクロールを続けた。


4:名無しの異界人

鑑定系スキル

【鑑定】→汎用

【〇〇知識】系→特化型

後者は取得条件不明


5:名無しの異界人

知識系はランダムか特殊条件

初期選択不可なのは確定


 なるほど。

 やっぱり【植物知識】は当たり枠らしい。【鑑定】はおすすめされていたけど取っていなかったからちょうど良かったかもしれない。


 このスレとは別のスレも見てみる。【妖精眼】は種族スキルらしいから、妖精のようなRaceの人が持っているかもしれない。



【Race】ランダム種族報告スレ【ある?】


1:名無しの異界人

ランダムRaceで初期に出ない種族引いた人いる?


2:名無しの異界人

ハイエルフとかは聞くけど

それ以外あるのか?


3:名無しの異界人

そこで俺、登場!

なんとRaceランダムで精霊人が出たのだよ!!


4:名無しの異界人

≫3

釣り乙


5:名無しの異界人

≫3

それガチ?なら証拠出してくんね


 少し荒れ始めたところで、本人らしき書き込みが続いた。


6:名無しの異界人

ガチ

Race:精霊人(風)

外見は耳が尖ってるぐらいしかヒューマンとあんま変わらん。

AGIがめっちゃ高い。次いでINTも高い


7:名無しの異界人

≫6

ステ見せろ


8:名無しの異界人

≫6

実は私も精霊人当たってるんだよね。属性はないけど全体的にステは高め。


9:名無しの異界人

ここで新情報か


10:名無しの異界人

陣営は人族側だけど魔族とはあんま敵対してないらしい

分類:精霊


11:名無しの異界人

それどこ情報です?


 そのまましばらくやりとりをみていると【妖精眼】についての記述が見えて思わず書き込んでしまった。


17:名無しの異界人

精霊人の種族の種族スキル

【妖精眼】

【風のささやき】

精霊人は全員【妖精眼】持ちっぽい

属性持ちは属性に対応した種族スキルが増える感じかも


18:名無しの異界人

【妖精眼】はどんな効果があるんですか?


19:名無しの異界人

≫18

とりあえず今判明している効果を載せていくな

【妖精眼】効果まとめ

植物・地形・魔力の流れが可視化

隠された自然罠の察知

精霊人以外は取得不可っぽい

(精霊や妖精といったRaceがあるならいけるかも)


20:名無しの異界人

あともしかしたらだけど、Raceが精霊人だと

人族NPCの初期好感度が上がるかもしれない!

NPCから聞いた話だけど、精霊人は敬われる神聖な存在だって言われてたぞ


 なるほど…ランダムで種族スキルが出たのは好都合だったかもしれないね。

 情報を見る限り、精霊人は人族陣営に属していて見た目の特徴も耳が尖っているぐらいだ。

 NPCからも好印象らしいし、【偽装の魔眼】でRaceを精霊人に偽装しよう。


 後は【神聖魔法】の情報が欲しいけど…残念ながら見つけることはできなかった。何か魔法に詳しそうなNPCを見かけたら質問してみようかな。


 それにしても…人族と敵対する魔族なのに、神聖って皮肉だよね。


 ……よし。


 とりあえずランダムで得たスキルの情報も得て、ステータスも偽装できたしそろそろ動こうかな。


 【植物知識】があるなら、まずは周囲の安全確認と資源確認だね。

 私は近くに生えている、半透明の果実が実った低木へと近づいた。

 さっきから視界に移り、気になっていたものだ。


 意識を向けると、視界の端に淡い光が走る。


《【ルミナアポル】

 分類:植物/果実 希少レア度:A

 効果:満腹度10%回復・MP50%回復

 備考:夜間に光を帯びる。魔力に反応しやすく、加工素材としても使用可能》


 最初の一歩から大当たりじゃない?


 MP回復系の果実は序盤だとかなり貴重なはずだ。


 ……ということはつまり、ここは序盤に来るような場所じゃないのでは?

 希少度もとても高いし、ここは森のかなり奥深くではないだろうか。


 …今気にしても仕方ないか。


 私は慎重に果実をもぎ取る。

 触れた感触はひんやりしていて、指先にわずかな魔力の流れを感じた。


 「……すごいな。本当に現実みたいだ」


 βテスターの言っていたことは誇張じゃなかったらしい。


 ――その時。


 カサリ、と背後の茂みが揺れた。


 反射的に距離を取る。

 AGIを多めに振っておいて正解だった。身体が思った以上に軽い。


 視線を向けると、そこから現れたのは――狼、に似た魔物だった。


 ただし普通じゃない。

 体表には苔のような緑の植物が絡みつき、目は赤く光っている。


《 【ウッドウルフ】

 分類:植物/魔獣 危険度:C

 特性:木属性

 弱点:闇属性、炎属性》


 なるほど、あくまでも植物という分類なのか。おかげで【植物知識】が発動した。


 ……弱点、闇。


 私は小さく息を整える。

 初戦闘、しかもソロ。だけど不思議と恐怖はなかった。


 ――むしろ。


 「……少し、高揚しているのかな」


 指先に魔力を集める。

 【魔力操作】のおかげか、それとも【妖精眼】の効果か、MPの流れがはっきりと“見える”感覚があった。


 「――【ダークバレット】!!」


 放たれたのは、漆黒の小さな弾丸。

 音もなく飛び、ウッドウルフの肩口に直撃した。


 ギィィッ、と短い悲鳴。


 HPバーが一気に削れる。

 ……INTに振りすぎたかもしれない。いや、真祖吸血鬼のステータスの上昇値が大きすぎるのか?


 だが、相手もただでは終わらない。

 地面を蹴り、一直線にこちらへ飛びかかってくる。


 「――速い!」


 私よりも断然速い。でも―――反応速度はこっちのほうが上だ。


 半歩ずれてかわし、すれ違いざまにもう一発。


 「【吸血】!」


 赤黒い霧が伸び、ウッドウルフの身体を包む。

 同時に、自分の体内に温かい何かが流れ込んできた。


《HPが回復しました》


 ……なるほど。

 とっさに使ったけれど、直接吸わなくてもいいらしい。


 数秒後、ウッドウルフは光の粒子となって消えた。


《 ウッドウルフを討伐しました

  経験値を獲得しました 》


 ――そして。


《 条件を満たしました

  称号【大物喰らい】を獲得しました》


 ……え?


 私は思わずステータスを開く。


《 [称号]

   【真祖】【大物喰らい(new)】 》


 説明文を開くと、こう書かれていた。


《 【大物喰らい】

  条件:自身のレベルよりレベルが20以上の敵に勝利すること

  効果:レベルが上の相手との戦闘時、全ステータス10%上昇 》


 ……初戦闘で称号?


 「このゲーム、太っ腹すぎない……?」


 思わず苦笑する。

 でも同時に、胸の奥がじんわりと熱くなった。


 ここはゲーム。

 だけど――確かに私の“物語”が始まっているんだ。


 私は森の奥へと視線を向ける。


 まだ見ぬ街、まだ会わぬプレイヤー、そして――

 これからの私の物語。


 《仮面》が使える被れるようになる未来も含めて。


 「……楽しくなりそうだなぁ」


 そう呟いて、私は一歩、森の奥へ踏み出した。

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