第8話 イレギュラー襲来
今、俺とマリーは二人でオークから逃げている
「マリー!?大丈夫?!」
「ええ、問題ないわ!これでも近衛と一緒に訓練しているもの!あなたこそ大丈夫?!」
「ええ、まあねッ……と!パイロ!」ボォッ
『ウガガァァ!!』
あまり効いていない様子。オーガは先生曰く登竜門。冒険者はこのオークを安定的に倒せて漸くルーキー卒業と言えるらしい。実際冒険者ランクでも一人前として扱われるDになるためにはオーク討伐が必要だ。そんなオークが俺の付け焼刃の魔法で倒せるわけもなく……。けん制のために魔法を放つので精一杯。せめてどっかに延焼して助けが来ないかなと願うので精一杯だ。クッソ!オークがなんでここにいるんだよ!?そう悪態をつきながらここに至った経緯を思い出す。
俺は無事婚約者候補であるマリーと打ち解けることが出来た。1週間ほど公爵家にお泊りをさせてもらうということを聞いていたので来る前よりも果然楽しみになった。マリーと1週間一つ屋根の下で暮らせるとかさぁ、今だけは神に感謝する。元の年齢を足したら5倍くらいの差があるけどマリーと一緒にいると情緒が5歳くらいになるんだよね。きちんと振舞おうとしてもマリーの前では無力。仕方ない。マリーがかわいい過ぎるからね。仕方ないね。2人でボードゲームをしたり、マリーの家族とカードゲームをしたり、近衛兵の訓練を見学させてもらい、参加までさせてもらった。乗馬もさせてもらったが、初めてでうまくいかなかった。一方でマリーはうまくポニーを操っていたので笑われた。かわいいからヨシッ!
そんなこんなでお泊り最後の日にマリーがある提案をした
「ねっ!敷地内の森に行ってみましょ!冒険よ!」
突然のお誘いだった。敷地内に森があるってすごいよね。クマや魔物が出ないのかと疑問だったがなんでも敷地内は結界が魔法で張られているらしく問題はないらしい。結界って普通の動物にも効くの?その森で狩りの練習をしているとか聞いたけど。そのことを聞くと
「大丈夫!動物が出てくるのは奥の方よ!城の近くまでは動物も寄せ付けない強い結界があるんだから!転移してこない限り大丈夫!まあ魔物が転移なんてしないけどね!」
フラグだった。動物が出る結界の付近まで来て帰ろうとしたら突然いないはずのオークが茂みから登場。そこから長い鬼ごっこが始まった。撒くように獣道に行ったり、岩場に隠れたりしたのはミスだと思う。パニックになったら正常な判断ができない。今は魔法が偶々顔に当たってオークがうろたえていたのでその隙に逃げ込んだ草陰で一休みしている。けれどオークは鼻がいい。というよりも人魔系の魔物は五感が人間よりも鋭い。しかも身体能力も高い。けれどあのオークはまだまだ魔石が胸辺りにあったから成体ではない。これで幼体とかマジかよ。詐欺だろ
「ご、ごめんなさい……。私が森に行こうなんて言ったせいで……ぐすっ……こんなことになるなんて……」
「大丈夫、大丈夫……。僕も同罪。大丈夫、大丈夫……」
今はマリーをなだめるのが最優先だ。幸い森に煙が上がっている。それが見つかれば助けは来るはず。問題はオークをどうするかだ。助けがくることとオークに補足されること、どちらの方が早いか。……そんなこと考える意味もなかった。オークの雄たけびが聞こえた
『ウガガァァァ!!!!』
「ヒッ!」ビクッ
まずい。一応ここを下れば屋敷に入る。けど速度の差を考えればその前に確実に補足される。……逃げたいなあ。逃げるか。どっちかを置いていけばもう片方が助かる。けどマリーが今の錯乱した状態で逃げ切れるとは思わない。マリーを置いて助けを呼びに行く?……その選択は嫌だ。それをしたら、その選択をしたら、俺は終わる。公爵に殺されるとかじゃない。俺という存在が死ぬ!泣いている女の子、しかもお前が好きな子なんだろ!?それを助けないで、何を助けられるんだ!今、一歩を踏み込まないで、何時踏み込む!?しかも、お前は前世を合わせたら25年生きてきてんだろ!?年下を置いて自分だけ逃げるなんてことが出来るわけないよなあ!?怖い、そりゃあ怖いさ。死ぬ確率の方が高い。けれど俺は貴族だ。俺は誇りで飯を食う人間だ!「いくら心の中で苦しもうと意地を張ってそれを見せてはならない。その意地が愛する人を守るために必要な時もある」父さんはそういった。そうさ、今がその時だ!
「マリー……この下をまっすぐ抜けたら屋敷が見える。マリーは自己強化魔法を覚えている。それを使って助けを呼んで」
「まって、ミリー……あなたはどうなるの!?これは私のせいよ!だから私が「マリー……!」ッ!」
「マリー、男の子は好きな女の子にかっこいい姿を見せたい生き物だし、好きな子には出来る限り長生きしてほしいんだ。だから、お願い、マリー。行って」
「ッ!それなら私は王家に連なる公爵の長女よ!自分よりも下の家の子供を置いて逃げるなんて出来ない!これは今!私の!義務なの!上に立つものとして育てられてきた私にとって捨ててはならないものなの!だから私は残るわ!」
ああ、貴族ってやつは本当に意地が好きだ。パンが無くても意地を食べれば生きていけるんじゃないか?
「じゃあ、やろう。2人で怪物退治だ。きっと皆は驚くぞ!」
「ええ!」
俺たちは互いに震える手を握り、震えた足で立ち上がった。初めての共同作業が、こんなのとは思いもしなかった。今もあのネガティブ思考が脳を支配しようとする。けど、今は貴族として、そして男の子としての意地がその支配を食い止めている。後で後悔してもいい。今後悔しないようにする。俺たちの笑顔はきっと強がりだ。いい。それでいいんだ。それが貴族なのだから
「とはいっても……」
子供が出来ることは限られている。オークの上を取ったものの火力も足りず、ジリ貧。このままでは死ぬ。さて、どうこの状況を打破するか……
俺はミスをした。戦場で、一秒が惜しい殺し合いの場で、考え込んでしまったことだ
「ミリー!」
マリーの声で気が付いた。オークがいない。ただ嫌な予感がしたからしゃがんだ。次の瞬間オークの腕がついさっきまで俺の頭があった場所にめり込んでいた。しまった……!オークの身体能力を舐めていた……!不幸な形で懐に入った。魔石に向けて魔法を放ったがひびが少し入っただけ。嫌な予感がした。腹にオークの蹴りが入った
「おえっ……きっついなあ……」ゴフッ
「大丈夫?!ッ!よくもミリーを……!」
『ゴア゛ア゛ア゛!!!』
見よう見まねでマリーの身体強化を使ってみた。勘で背中と腹の強化に全ぶっぱして正解だった。何とか生きている。多分内臓逝ってるんだろうなあ。これ無理だ。2人とも死ぬわ。やっぱマリーだけは逃がすべきだったわ。けどまだ、せめて今からマリーだけでも逃がす。それが俺の責任だ
「へ……へいへい!ファッ●ンオーク!俺はまだぁ!死んでねえぞ……!パイロ!」
やっぱ、効いてねえなあ……!【ねえ、君】ッ!?誰だ?!あのオークか!?【やめてよ、あんな話もできない生物と一緒にするの。僕は火の妖精】火の妖精さんが何の御用で?生憎これから死ぬからおしゃべりしてる時間はねえ!
「パイロ!」
【だからじゃないか!力を貸してあげる。腕一本貰うけどどっちがいい?】右やるから力を寄越せ……!【あれ?右って君の利き腕じゃないか。いいの?】左がなくなったらマリーから結婚指輪をもらえないからな【へぇ!気に入ったよ契約成立だ!最高火力でいこう!僕は術式を準備してるからあと10秒だけ稼いでね】OKわかった
「身体強化魔法……!投石!……へいへいお前の獲物はこっちにいるぜー?」
『ガア゛ア゛ア゛!』ドゴォ
「やっぱ能無しなんすねえ~。こんな子供相手に手こずるなんて!……マリーはそこか」
【できたぜ、ボーイ。豚の丸焼きの時間だ】頭に弄られるような感覚がした。これが呪文か【大丈夫?命中できそう?】OK任せろ、命中させるのは得意だ。一応守れるようにマリーのところに行って……!
「ミリー?!……大丈夫、信じてる。貴方のこと。死んでも一緒よ?」
「もちろん。けど大丈夫。俺は死なないよ」
【吾は火の精なり】「我は妖精の契約者なり」【吾は全てを照らし、暗闇を切り裂くモノ】「我は全てを燃やし、敵を切り裂く者」【吾は原初の精。火の龍。火の守護者】「我は神の
魔法が発動した瞬間王国や近隣国の魔力測定装置の値が乱高下した。原因がある森の魔素が一気に上昇ことによるものであるが、それを知るものは今この世にはいなかった。ただ、一瞬の静寂の後に響いた音が、オークが爆ぜた音と、爆風により木がなぎ倒されたものであったことは爆発の跡地を見ると幼子でも理解できるものであった
「や、やった!?すごいじゃない!ミリー!……ミリー?……ミリー!?」
ドッドッドッド
「大丈夫か!?マリー!」
「お、お父様……」
「ああ、よかった。無事で……」
「ミリーが!ミリーが!」
「こ、これは……!今すぐポーションを飲ませて回復魔法の処置をしろ!」
「ミリー!お願い……生きて……!お願い……もっと遊びましょう?ミリー……」
懸命な処置が行われた。幸い一命は取り留めたものの1日が経っても目が覚めなかった
In ?
どこだよここ
【や!契約者君】
「お前は……妖精?」
【ピンポーン最強の妖精ちゃんでーす!】
「ありがとう。お陰で勝てた」
【あっはっは!いいぞ~もっと褒めろ~?】
「なあ、一つ疑問良いか?」
【ん?なに?】
「お前……いつからいた?」
【へぇ……】
俺が疑問を聞くと妖精は目を細めて、あっけらかんと言った
【最初から。具体的には……】
【君が転生した時からかな?】
ッ!こいつ、なぜ知っている。いや契約してない時点で直接脳内に語り掛けてきた時点で、脳を直接見たとかでも不思議じゃない
「なら、なんであのタイミングで?」
【面白そうだったから】
「は?」
【だーかーらー、面白そうだったからって言ったじゃん。妖精がずっと見てるってだけですごいことなんだぜ?まあ普通の人間には妖精の声は聞こえないけどね~。ピンチの時に駆けつけて人を救う。もちろん対価はもらうよ?】
「平常の時はこないんだな……」
【そりゃあ、だって人間って追い込まれたときに良く契約してくれるもん】
クッソ、こいつら……と悪態は心の中でつくがそこまでの恨みはない。こいつがいてくれたから俺はオークに勝てた。最後に見た瞬間マリーは無事だったからな。最高の結果だった
【まあ、君も生きているんだけどね~】
は?いやいや、無理だろ。あの爆風の中なんで生きてんだよ
【僕が守ってあげたから。いや~いいね!答えが面白くなかったらしなかったけど。君の答えが楽しめたからね。サービスだよ】
「ならほら、右手だ。好きなようにしろ」
そう言って俺が右手を差し出す
【うーん……パスで!君ってさ、面白いからね。特に神を殺すなんて正気?正気じゃないよね!僕が経験した中でトップクラスに狂ってるよ!だからさ、その冒険を見せてくれ。君の冒険を見てみたい。だから腕はいいよ】
「お前も狂ってんな。そんな眼をしたやつ初めてだよ。いいぜ、特等席で見せてやるよ。マリーでも見られない特等席でな!」
【いいね……そうでなくっちゃ!じゃあ契約成立だ。じゃあこれから徐々に慣らしていこう。腕は生やしておいたから!ほら、現世に帰った帰った】
妖精は俺のケツを蹴りながら[ここから先現世]と書いてあった扉を開け、俺を押し出した
【僕を楽しませてね?契約者さん?】
目が覚めるとマリーが眠っていた。起き上がろうにも身体全身が痛い。腕もあまり動かない。しかし、俺は身体の違和感に気が付いた。魔力がなんとなくだが変わっていたのだ。魔力は血液の様な感じで表現されることが多い。言葉でうまく言い表せないがなんか魔力の量が多い気がする
「んっ……ミリー!起きたの!?大丈夫?今お父様呼んでくるから!」
そういって起きたマリーは急いで外に出ていった。その後当時起こったことを簡単に教えられた。まず結界内に魔物が出たことはイレギュラーであった。なんでも狩りの際に魔石を落としてしまっており、それがそこから魔物が出来てしまった。結界は魔物を防ぐものの、中に入っている魔物には効力がないため見過ごしてしまった。森に火の手が上がり、俺たちがいないことから捜索隊を編成、斥候からオーク発見の報を受け急いで準備、そして大爆発を目にし、現場に急行したら俺が血まみれで倒れていた。急いで応急処置を行い医者に診せると「高濃度魔力症」であったことがわかり、【
用語
妖精:魔法を使わせてあげている方。基本的に魔法は魔力を代償に妖精の力を一部借りたもの。基本的に目に見えず、声も聞こえない。そもそも大抵の妖精は喋ることが出来ないし、実体化もできない
契約・契約魔法:基本的に一部の力の強い妖精が気に入った相手と結び、強力な魔法を使える。契約者の魔力は契約妖精の特性と交わるため、一部変わる。大抵は徐々に身体を馴染ませるために1年以上かける。今回はこれまで自転車しか運転してなかった人が急にスーパーカーをアクセル全開で運転し、その代償としてボロボロだった身体がさらにボロボロになった。公爵が最高級のポーションを使い、回復魔法も使ってくれたおかげで何とか助かった
高濃度魔力症:高濃度の魔素に晒された時に起こる病気。身体に高濃度の魔素が大量に入ることで身体の機能にバグが生じ、高熱や臓器が正常に働かなくなることもある。浄化魔法で対処が可能
【
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こんにちは、月照です。2日続けての更新になります。やっぱヒロインとの掛け合いは楽しいですね。さて、幼少期はあと3話くらいで終わり、次は学園ものになります。誤字脱字、誤記等ある場合は報告してくださると幸いです。そしてこの作品のコメント・評価も是非ともお願いします
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