第7話 貴族の在り方と婚約者
なんとか自分との折り合いがついてきた。まだ魔法は殺しの感触というものがなかったことと瞬間的にギフトをオフにしたから折り合いがついたと思う。これが剣とかの近接戦やヴェロードの声が聞こえていたならもっと折り合いに時間が掛かっていたと思うし、下手したら立ち直りが出来ていなかったかもしれない。けれどあまりに憔悴しきった顔を見て生き物相手から的やスライムになった。スライムは大丈夫なのかと言われたら多少はマシだ。アイツらは言葉もしゃべらないし、血も出ない。魔闘の代償である戦闘に対する忌避感の減少の効果が出てきたのかスライムに魔法を放つときにあまり躊躇をしなくなったと思う。いまなら、ヴェロードに魔法を放つのは簡単かもしれないが、その後の死体に対する忌避感はあるので、難しいだろう。しかしそれを乗り越えないといけない
その日の授業が終えた後父さんに呼ばれた
「ミリバーブ、ちょっと来なさい」
「はい」
「ミリバーブ、お前が殺すことに対して抵抗があるようだな」
「はい……」
図星だった
「私もお前と同じで、最初は殺すという行為が嫌で、魔物を使った訓練をさぼっていた」
意外だった。父さんはさぼりという行為をしない人だと思っていたからだ。俺の心情を見透かしたように「軍務を担当する家系に生まれたくせにな」と自虐的に嗤った
「ミリバーブ、お前は正しい。本来殺しというのは避けるべき行為だ。けれども魔物や隣国の脅威があり、特に魔物とは交戦状態にあるといっても過言ではない。戦争では殺しは避けられない。本来の貴族はそういった行為をしないし、仮にやるとしても騎士と言った一代限りの貴族ばかりだ。だが、我々の様な軍務を司る貴族は時にその力を民に見せつけなければならない。その時は堂々としなければならない。人は誇りで飯は食えないが、貴族は誇りで飯を食わなければならない。だからいくら心の中で苦しもうと意地を張ってそれを見せてはならないんだ。その意地が愛する人を守るために必要な時もあるからな」
俺の心情をくみ取りながら、貴族として生まれたが故の生き方を教えてくれている
「殺しに慣れなくてもいい。ただ、殺しをするなら躊躇はするな。躊躇したらお前が死ぬかもしれないし、相手も余計苦しんでしまうかもしれない。だから殺すなら躊躇なく殺せ。殺しの場ではより意地を見せろ。それが強がりでも弱みを見せると形勢は一気に相手に傾く。そして死体を見て震えてもいい。だが、それの行為を卑下するな。貴族として、そして何より、それは命を懸けて戦ったお前への侮辱になる。これを覚えていなさい」
「はい……!」
父さんは俺に貴族の在り方を教えてくれた。これまでも多少は教えてもらったことはあるが、ここまでのことを教えてもらうことは初だった。意地か……。貴族というのはめんどくさいものであると思う。上に立つものとして意地を各方面に見せ続けなければならないのだから。けれどもそんな生き方をしている親は楽しそうだ。それは立派な意地があるからだ。俺の様な羞恥に塗り固められたような意地ではない。なら、その塗り固められたものを壊し、両親の様な輝かしい在り方でコーテイングしよう。俺は子供だ。ならまだ間に合う。いや、間に合わせてみせる。俺という在り方を誰かに誇れるように
吹っ切れたまではいかないが、それでもこれまでよりは立ち直れた。親は偉大だ。前世では親孝行が出来ず、親不孝者であったから、現世では親孝行をしたい。
「今度お前と婚約者予定の娘とで顔合わせするから準備しなさい」
出会いはいつも唐突に。確かに婚約者云々は前々から言っていたけどどんな準備とかわかんねえよ!こちとら万年彼女無し、女の子とプライベートで二人きりで会う経験とかないし!しいて言うなら衣服くらいか?あとは会話デッキ。会話デッキかあ、定番は趣味、最近あった面白いこと、子供なら好きな絵本とかか?わからん。というか転生してから情緒も子供になってんだよなあ。絵本とかで楽しめる。マジで、ちゃんと意識しないと子供のごとく振舞う。いや子供なんだけどさ?前世ではホラー系が好きでビビったこととかなかったけど夜トイレに行くとき怖くなってメイドを呼んだのは無意識だった。寝起きだったからというのもあるが、思考も年相応に染まってきている
「相手はシレニア公爵家長女のマリー=ジレア・ヴォルニア様だ。同い年で、領地が近いとはいえ、相手の方が上でよく纏まったものだ」
公爵家!?王家に連なる名門やん。いやまあ、うちも侯爵家で王家関係以外と枕詞につくが貴族の最上位層だもんなあ。どんな娘なんだろう。やっぱ礼儀作法とか言葉使いとかきちんとしてそう。頑張って敬語を使わなきゃ……。この婚約が破談になったら家がどう言われるか……
そんなこんなでアニメや漫画に出てきそうな貴族風の正装をオーダーメイドで買ってもらい、ついにその日が来た。正装の作製に掛かった金額を見る機会があったが、目玉が飛び出るかと思った。これが、上位貴族の金銭感覚かとあっけにとられた。見栄の部分もあると思うが、それでもすごいと思った。貴族の見栄って怖いっすね。そんなことを移動中の馬車で考えていた。ニナーナル家とヴォルニア家の領地は互いに接しているが、本拠地同士は結構離れている。大体馬車で3日掛かった。最上級の馬車でも3日掛かるのかあ。馬に対して強化魔法使っているのみてびっくりした。これ強化魔法使ってなかったら一週間は掛かっただろうなあ。相手方の本拠地であるラプラは栄えていた。なんでも錬金術を始めとした魔法研究や鉱業が盛んらしい。うちのレーベストも大都市だと思っていたけど、それよりも上だわ
「いらっしゃいませ、コルンブルーメ侯爵様。ご案内させていただきます」
「うむ」
城もでかいし広い。うちが●DLとしたら、こっちはT●Rだな。相手方が待っている応接室までも長い。......道中にあった絵画後でじっくりみたいなあ。個人的に西洋絵画はルネサンスから新古典主義までが好き。それ以降の印象派やロマン派もいいけどね。ヴェネチア派とルイ13世からフランス革命辺りのフランス絵画が特に好き。俺も貴族になったら画家を保護して色々描いてもらう。絶対にだ。特にこっちでの童話や神話を描いてもらう。これは絶対だ。と野望を考えていると着いたようだ
「お久しぶりですシレニア卿」
「こちらこそ、先の掃討戦で世話になったな、コルンブルーメ卿」
「ほら、挨拶を」
「お初にお目にかかります、コルンブルーメ侯爵家のミリバーブ=アーベル・ニナーナルと申します」
「これは、これは、丁寧な挨拶を。ほら」
「初めまして、マリー=ジレア・ヴォルニアと申します」
「では、あとは若者同士で」
「そうですね。では私たちはこれで」
いきなり対面で話せってか!?いや、従者もいるけど!これって俺が話しかけなきゃだめだよな?
「ほ、本日は天気に恵まれましたね」
「ええ、そうね」
沈黙……!いや当たり前だ。どう話せと?!堂々とした佇まいで呑みこまれそう。いや、呑みこまれちゃだめだ!
そう思い、相手をよく見ると。真紅の髪。その髪は丁寧に手入れをされていることが一目でわかる。服装もその色に合わせた深紅で、ところどころ反対色である重厚な青みの緑色が刺繍や宝石として散りばめられ、浅葱色に近い色が細やかや刺繡に使われていることでより、その深紅を際立たせている。顔も気品にあふれ、そして幼さがそのギャップを生みだしている。それはまるで絵画から出てきたような、それくらい綺麗だった
「あの、ずっと私を見つめていますが、何か?」
「へっ?あ、いや、その……服装似合ってるなあって思って。あ、思いまして」
「そうですか……」
再びの沈黙。どう話せばいいかわかんねえよ!?チラッとお付きのアイリスを見ると「キチンと話をしてください」という目で見られた。やばい、失敗する!このままじゃあ失敗する!ああ、どうしよう、どうしよう!?
「フフッ」
笑った!?なにか面白かった!?というか笑ってる姿も年相応でそれがまた良さを出してる。かわいい
「貴方、面白いですね。その様子ですと女性を女性として扱って喋ったことないでしょう?私もあまりこういう格式ばった話し方は苦手なの。どうかしら、砕けた喋り方をしませんか?私たち予定ですが婚約者なのですから」
「あ、はい!そうさせていただきます!」
「じゃあ、貴方何が好き?私は最近お菓子に嵌っているの」
「僕も好きです!特にチョコが好きで、ここに来る前なんて食べ過ぎて母に怒られちゃいまして」
「あら?私もよ。お父様は私に甘いのだけどお母様によく叱られるのよ。この前なんてただ木登りをしていただけでレッスンの時間を増やされたのよ?」
「僕も自分の部屋がある3階からすぐ近くの木に飛び乗ったらすごく怒られました」
「あらまあ!どう?どんな感じだったの?聞かせて!」
「いや、ただバルコニーからピョンっと飛び乗って、そこから枝分かれしたところから兄の部屋のバルコニーに飛び乗ったら偶々母が兄と話していてそこからメイドと母にこっぴどく怒られたんですよ。その日のおやつは無しで、しかもそれがチョコケーキだったんですよ!食べたくて地団駄踏んだら次の日も無しになりました」
「アハハ、そうなの!貴方結構活発なのね!最初見た時はそういうの苦手そうだったのに!」
「いや~、初対面なので緊張して」
「私もよ!何話せばいいかわからなくて!フフ、じゃあ次は私の話ね。お父様の近衛兵の訓練を見させて貰ったときに~」
一度取っ掛かりが出来ると俺とマリー(最初はヴォルニアさんと呼んでいたがすぐに名前呼びをお願いされた)は堰を切ったかのように話し合った。とても話やすく、聞き上手だし、目をキラキラして話しているときも話し上手で聞いていて飽きなかった。結構貴族のお姫様としては腕白なのかもしれない。だから父親であるシレニア卿は甘く、母親や教育係は貴族の娘として厳しくしているのだろう。厳しいからと言って愛していないわけではないことはマリーが母親や教育係のことを楽しそうに言っているのを見たらわかる。初めて会ってそこまで時間が掛かっていないのに彼女に夢中になっている。僕らは父親が来るまで話したり、簡単なカードゲームや卓上ゲームをしていた。その日はそのままお泊りをさせてもらった。個室に案内されると人をだめにするような寝具があり、そこに潜り込んで考えた。今日1日で彼女に夢中になった。彼女と婚約するのに俺は大賛成だ。これは家云々関係なく、恐らく彼女との位が今以上に違っても恐らく俺は彼女と婚約したいと思えるくらい夢中になる。恐らくこれが
「恋なんだろうなあ」
そう呟いて俺は目をつむった。寝る前に見た月はとてもきれいな満月だった
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こんにちは、月照です。今回はメインヒロイン登場回です!個人的に髪色が赤色から白色の間が好きなんですよね。だから髪色は趣味です!誤字脱字、誤記等ある場合は報告してくださると幸いです。そしてこの作品のコメント・評価も是非ともお願いします!
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