第6話 俺の性根と今の俺
神殺しという最終目標を設定したが、其れには大きな問題がある。そもそもとしてあの邪神が出現するかということだ。この点について俺は運命の促進とアイツの性格を信じる。まず運命の促進で怪物と出会って魔闘で倒す。そしてレベルを上げていきあいつを殺せる実力をつける。そしてあいつを呼び出す。正直言って2回しか会ってないがアイツは無邪気なお子様という気がする。だから煽れば出てきそう。なんせ自分が手に入れた玩具に自分をバカにされたら怒るだろう。しかもアイツは怪物だったりを送ってくるタイプじゃなくて自分で叩き潰すタイプに思えた。これに関しては現段階では俺の勘でしかないし失敗する確率が高い、というか成功率は0に近いだろうが、やるしかない。神殺しをするためにはこれくらいの確率を通さなければならないのだから。そのためにも冒険者になるのが直近の目標だな
冒険者は社会のセーフティーネットとしての機能を持つ。そのため食うに困った人間たちばかりと思われがちだが、少ないながらも貴族出身もいる。それは没落した貴族もいれば、バリバリに貴族をやっている家出身のやつもいる。それはなぜか。貴族からすれば冒険者というその日暮らしの職に子供を送り出すというのはノブレス・オブリージュとしての面があるからだ。貴族としての教育を受けた子供が国のために冒険者として強敵を倒し、国を豊かにするということだ。後、冒険者組合に対しての抑止力としての役割を持っている。とされているが、大体貴族家系で冒険者になるのは5男や6男といったスペアのスペアにもならない子供や騎士などの一代限りの貴族、又は貧乏な貴族の3男といった子供が多い。例外が辺境伯や開拓貴族と呼ばれる人々だ。辺境伯や開拓貴族の多くは魔素が濃い領地を持ち、それを平定するために冒険者登録をしていることもある。なぜ軍ではだめなのかは謎であるが、開拓者や辺境伯領には冒険者も多く参加しているため貴族なりの歩み寄りの姿勢なのかもしれない。後は吟遊詩人や御伽噺に乗せられて継承権を捨ててでも冒険者という自由な英雄になるという変わり者。俺が簡単に出来る手段はニナーナル領で冒険者になることだ。組合に対して貴族の監視の目をつけられるという建前はあるが、全てはいま父がまとめている縁談次第だ。確かに俺の最終目標はあの邪神を殺すことにあるが、これまで育ててもらった恩やこれから育ててもらう恩は返さないといけないと思うし、リシュリーノやスヴォーフの主でもあるので少なくとも彼女らの就職先を見つけないといけないと思う。まあ彼女らは父親たちが上手く使ってくれると思うが、この辺りは俺の個人的な心情というか、最低限しないといけない線引きの様なものだ。甘いとは思う。本気で神殺しするなら家族を最大限利用したあと捨てるのが一番効率良いように思える。それが出来ないのは俺がまだそこまでの決心をできていないからだろう。ああ、反吐が出る。昔もそうだった。本気になれず、なるようになれの精神で生きてきた俺は、最後には後悔をする。それが嫌で、今回は本気で取り組もうとしているのにそれをさせない己の弱さとそれを肯定している自分の甘さにただイラつくばかりだ。
「バーブ様~?どうしたの?すっごい怖い顔してるよ?」
そんな風に考え事と自己嫌悪をしているとスヴォーフに話しかけられた
「ああ、ごめん。初めて生き物を殺したからさ。ちょっと、ね」
「そうなんだ~。バーブ様って優しんだね!」
ああ違う、違うんだスヴォーフ。俺はそんな人間じゃない。俺が優しいのは俺自身にだけなんだ。だから頼む、頼むからそんな顔をして俺を見つめないでくれ、自己嫌悪が加速してしまう
「スヴォ、ミリバーブ様が困っています。そのあたりで止めなさい」
そう声をかけたのはリシュリーノ。リシュリーノは魔力が少ないので魔法ではなく剣で殺してた。リシュリーノは躊躇なく殺してた。そんな資質が今この時だけは羨ましく思えた
「では、次は……」
先生が次の指示を飛ばしてた。けれどその後の記憶はない。漸く意識が復活したのが自室だった。空腹は感じないし、髪は濡れている。恐らく食事も風呂も入ったのだろう。俺は顔を洗いに洗面台へと向かった
「ひでぇ顔」
鏡に映された俺の顔は憔悴しているようだった。心で決心していても顔は正直だった。戦いたくない、逃げてしまいたい。けれど、ここで逃げたらあの日と同じだ。高校受験の時に本気で勉強して、対策もして、自分で100点をつけられるレベルの準備をして挑んだ。当日に体調を崩すことなく挑めた。それでも第一志望に落ちて第二志望に行くことになった。そこから俺は怖くなった。自分の100%の力を出して失敗することが怖くなった。自分を成り立たせていたプライドが壊れるのが怖かった。だからいつも確実に超えられる同じレベルのハードルしか挑まず、少し高いギリギリのハードルは避けてきた。失敗が怖いから。そして準備もそこそこになった。完璧に準備して失敗したら嫌だから逃げ道を作れるように。そんな俺が嫌だった。けれどもそのぬるま湯から出ることはしなかった。そのぬるま湯から強引に出され、また戻るのか、別の場所に行くのか。その場所はどんな場所かわからない。希望もなく絶望しかないかもしれない。その決断は今はできない。けれどもぬるま湯に入らず、待ってみよう。もしかしたら変われるのかもしれないから。自分に残っている僅かな自信と希望、そして虎の様なプライドが俺を留まらせている。この姿は英雄とは正反対だ。けれども、そんな俺がナニかを成し遂げられたらそれは英雄を越えれる。そんな空想が俺のすがっている藁だ
「ここで逃げたら、台無しだ、どんなに弱音を吐こうが、目を背けようが、歩き続けるしかない。そう決めたんだろ、ミリバーブ=アーベル・ニナーナル……!」
出来る限り足掻こう。今回はうまくやろう。後悔はするだろうが、それでも間違った人生じゃないと胸を張って言えるように。妥協だけの人生ではなく理想を叶える人生にしよう
だから
「今日のネガティブはこれで終わりだ。明日も頑張ろう」
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月照です。以上が小説家になろう様にて公開していた話になります。これからは同時投稿になります。誤字脱字、誤記等ある場合は報告してくださると幸いです。そしてこの作品のコメントも是非ともお願いします
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