第5話 決意
モンテン語の履修をそこそこに、実戦になりました。急だな!?先生曰く「魔法の実習は魔物相手にやった方が楽」とのこと。人形じゃないの?いきなり殺生は拒否感が強い。というか小説とかですぐ魔物討伐とかゾンビ討伐とかしてるけどアレ頭の螺子外されてんじゃねえの?あいつらは日常的に動物殺してただろ。尚魔力が少ないリシュリーノは見学の模様。ちょっと変わってくんねえかな。と現実逃避をしていると先生が死にかけのヴェロードを二匹連れてきた。
「まずでは、魔法の原理について説明します。魔法は火起こしに良く例えられます。魔力は火種、詠唱又は術式は薪、魔素は火を大きくするための可燃性の高い燃料ですね。ここヴォルクーネに適している魔法を教えます。ヴォルクーネの魔素は火属性に適性があります。本日は火魔法の初歩であるパイロから始めます。最初の方は詠唱をつけて発動しましょう。慣れてくると簡単な魔法では詠唱は必要ではなくなりますが、初心者は詠唱をつけた方が安定します。基礎、下級魔法の詠唱は共通しています『〇〇の魔素よ、妖精よ、その力借り受ける。××』です。〇〇には属性が入り、××には魔法名が入ります。ではミリバーブ様からどうぞ」
え、いやそう言われてもまだ心の準備がまだできてない。魔闘使ったら大丈夫か?そう考えているとふと気付く。世界が止まっていることに。世界が止まるという状況は初めてのはずだ。少なくとも前世や現世では経験がない。だがなぜか既視感があった。そうだ、あの死んだ後に連れてこられた空間に似ているんだ!そう考えていたら文字が目の前に浮かび始めた。そこには日本語で
『魔闘を自動使用にしますか?』
魔闘の自動使用?ギフトは自動使用ではないのか?ガチャで当てただけでまだ使ってない?いやそれはない。なぜなら即時反映と書いてあったからだ。ではなぜか?そう考えていると俺は一つの仮説が出来た。まず、魔闘を使用はおかしい。なぜならアレは魔闘適性だったはずだ。つまり、あのギフトは俺の身体を魔闘に適合させるためのギフトであって、魔闘は使えないはずだ。ではなぜ、このようなものが出てきたか、そもそもステータスに【魔闘】とあったのか。その答えは、もともと魔闘というギフトの身体にあった。しかし、あの神がその身体に俺という魂を入れたことによってギフトが2つ存在していた。しかし俺の魂に魔闘に適性がなかったため、ミリバーブという存在が捻じれた状態になっており、その帳尻合わせのための魔闘適性ガチャ、なんてことはなく恐らく俺が魔闘適性を引いたのは偶々。つまり、俺がここまで生きていられるのは奇跡だ。
そしてこれは引き金だ。これを引いてしまったらもう二度と戻れなくなる。でも、これを今引かないと、この先俺は死ぬ。確実に死ぬ。運命の促進という代償で俺に厄災が降りかかってきたとき俺はそれをはねのけられず死ぬだろう。そのために、この安全な時に一度引いて経験しておいた方が確実に生き残れる確率は上がる。それでも俺は、これを使いたくない。もし使ってしまったら、俺が俺でなくなる。今俺以外に俺があそこに存在していたと証明するものはない。ただ、この感性だけが、俺が日本に居たという証明だ。だからそれを捨てたくない。なのに、どうしてだろうか
「なんで、自動使用をしようとしてんだよ!?俺の身体だろ!?頼む、動くな、動かないでくれ!」
『それは無理だよ』
ふと見るとそこには俺が立っていた
『やあ、楽しんでいるみたいだね?転生させた甲斐があるってもんだよ』
「お前はッ...!」
『お前だなんて不敬な言葉遣い、今回は見過ごしてあげるよ。それにしても、楽しいでしょ?普段の生活は。だけど楽しさだけじゃダメ。それじゃあ僕が面白くない。君は僕の玩具として英雄の道を歩むんだ。そのためにコレを使う。けど君は拒否しようとする。玩具がさァ!持ち主の言うこと聞かないのは駄目だよねェ?だから僕が直々に起動させてあげるんだよ。あ、安心してね。これ以降は多分出てこないから。そんな目しないでよぉ~僕は嘘が嫌いなんだからっさ!』
そうして神はギフトを起動して消えていった
「ミリバーブ様、大丈夫ですか?」
「……あ、はい大丈夫です!詠唱を間違えないように頭の中で復唱してただけなので」
「ではお願いします」
「はい、火の魔素よ、妖精よ、その力借り受ける!パイロ!」
そう言って俺はヴェロードに向けてパイロを放った。ヴェロードに当たると死にかけのヴェロードは一瞬で死んだ。俺はひどい嫌悪感を覚えた。けれども俺は理解した。もし、もう一度ヴェロードに向けて、敵に向かって魔法を撃てと言われたら恐らくあそこまでの拒否感がないことに。俺は理解した。手が血にまみれたということを。4歳で手が血に染まったことに。そして俺はわかってしまった。これから先俺の手は溢れんばかりの血で塗られることを。ああ、もう戻れない。いや違う。元から戻れなかったんだ。俺はアイツ≪邪神≫の道具だ。アイツ≪邪神≫の気まぐれで死に、転生し、英雄の道を歩まされる。そこから逃げられない。なら、やってやろう。アイツ≪邪神≫に仕返しを。アイツ≪邪神≫は怪物だ。怪物は英雄に倒されるのが筋だ。だから俺はアイツ≪邪神≫を殺す。それが俺の今世での目標だ
「はい、お二人とも大丈夫ですね。では魔物を倒したことである変化が起きています。水晶に触れてください」
ステータス
名前:ミリバーブ=アーベル・ニナーナル
年齢:4
魔力:あり
レベル1
ギフト:【完全翻訳者≪トランスレーター≫】Ⅱ 代償:英雄の促進
魔闘 代償:戦闘に対する忌避感の減少(不可視)
才能:黒魔法◎
白魔法◎
筆記〇
戦闘〇
【完全翻訳者≪トランスレーター≫】: 生物間、単位間での翻訳が可能。知っている語彙の綴りを間違えない
レベル?ファンタジーらしいな。魔物を倒したことでレベルが上がったのか?いや、それなら元々レベル0とあるはずだ
「新たにレベルという概念があると思いますが、これは魔物を倒すと発現するものになります。原理としては魔物の魔魂、エネルギーを吸収することで上がります。世間ではこれを経験値とも言いますね。特徴としては魔物を自身の手で倒さなければ無から1に上がらないという点があります。それ以降上げる手段は主に2つ。まずは自身で魔物を倒す。もう1つが補助魔法で上げるということです。これに関しては強化魔法なら掛けた相手が魔物を倒すと、弱化魔法なら掛けられた魔物が倒されると経験値が入りレベルが上がります」
「それって経験値泥棒って言われないの?」
「言われます。特に初心者に多いですね。だから補助魔法を使う人々は同職組合≪ギルド≫を作って立場を守っています。補助魔法は、レベルが高い魔物を相手にする人々ほど重用します。それと同じくらい軍でも重用するので、もしボイコットを起こせば原因となった人物は少なくともその領には居られないでしょうね。しかも同職組合≪ギルド≫は他都市や他領地とも連携を取っていることもあるので気を付けてください。一方で戦う人々も同職組合≪ギルド≫を作って立場を守っています。いくら補助魔法を使おうともいつか限界が来ますし、戦闘慣れもしていません。戦闘職組合≪ギルド≫と非戦闘職組合≪ギルド≫が戦争を起こしたとして、どちらにも大ダメージが入るのでやりあうことは少ないですね」
「へー」
「まあ貴族は自前で両方囲っていたりしますが……。ではここで、授業の復習です。冒険者とはなにか。リシュリーノさん」
「はい、主に魔物を倒す、突如形成された巣窟ダンジョンを攻略する、依頼を受けて報酬を受け取ること生業とする職業のことです」
「正解です。冒険者はその3つの仕事を行います。軍を動かすのには多大なお金と労力がかかるのでそれを埋めるための冒険者制度ですね。各都市にある冒険者組合ギルドやその支部に行き、登録すれば良いだけなので、ある種のセーフティーネットですね。組合が定めた階級によって信用度が増し、上級になれば信用と実力が担保されます。尚、多国間条約で一定のラインの冒険者の徴兵は禁じられていますね」
冒険者。貴族とは違い、敵と戦い、己を強め、さらなる強敵と戦う。そこには多大な危険と多大な報酬、名声がある。それは現在の英雄の在り方なのかもしれない。吟遊詩人が歌い、作家が本を綴り、人々が語り継ぐ。俺もその内容を聞かされた。なら、冒険者になり、レベルを上げることでアイツに届く牙が見つかるのではないだろうか。俺はただの人間で、アイツを殺す機会は何度あるかわからない。だからその機会で殺せるように、己を磨く必要がある。でも、俺貴族なんだよなあ。貴族が前線に出ることが少ない。いやぁ……まじでどうするか
ここから俺の人生は本当の意味でスタートした。俺はこの時点を持ってミリバーブ=アーベル・ニナーナルになったのだ
用語
レベル:人間の可能性。魔物を殺すことによってそれは切り開かれる。レベルが上がれば身体能力や魔力が上がる。更には一般人が入ると倒れてしまうような高濃度の魔素が漂う場所の調査も可能。一般人はレベルが無い
魔魂:魔素を魔石経由でエネルギーとしたもの。一般的に魔魂はレベルで表記され、レベルが高いものほど多くの高濃度の魔素を取り込んでいるため、経験値も大きい
冒険者組合ギルド:王国内にある組合≪ギルド≫は王都にある王立冒険者組合≪ギルド≫の支部。支部の多くは各領主が本拠地としている都市に置いてあり、それ以外の場所にある組合ギルドは支部の支部
冒険者の階級:組合≪ギルド≫が定めているもの。国によって異なるがある程度は共通している。階級が上になればなるほど社会的地位は上がる。冒険者のなかには貴族位を与えられた人もいる
冒険者の仕事:基本的に魔石や偶に魔物が落とす貴重品レアドロップを売ったり、組合≪ギルド≫や一般人から特権階級までの依頼をこなし、その報酬を得たり、不定期に出現する巣窟ダンジョンを攻略し、そこに眠るお宝を売ったりしている。収入は大抵不安定である
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