第7話 父子のイリュミナシオン
ケンサクさんは、ながら運転をしていた。
どうもスマホが気になるらしい。初対面のときから思ってたけど、この人はスマホ依存症なのかな。アンドロイドがそんなバグ起こさないと思うから人間だよね。
「丘陵庭園が見えてきたぞ。ここからカメラで何か見えないか? どろろ、ステルス戦闘機ともに沈黙している」
私はカメラで丘陵庭園を見た。ヤギが1匹こちらを見て佇んでいる。それをケンサクさんに話した。
「ここの神によるとそいつが恐怖の大王だ。メーメーしか言わないが独自の言語体系を持つ高度知的生命体だ」
ケンサクさんは溜め息をつくと、彼の愛用兵器の「ロンギヌスの槍」や「ダーインスレイヴ」はメンテナンス中で使えないと話した。私も少しはサブカルチャーの知識はある。たぶん凄まじい殺傷能力を有した兵器だよね。
ケンサクさんは丘陵入口で高機動車を停めると、ここから歩こうと言った。彼はスマホの画面を見ながら丘を登って行った。かなりの依存症だな。
「いた。あのヤギを強制圧縮してくれ。手加減はいらない」
私はファインダーを覗いた。電灯で見えはするけど素早く動き回っている。角や体長からしてメスかな。取材でヤギのリード線を持たせてもらったことがあるけど、メスでもすごい力だった。
そんなのいまは関係ない。あれは恐怖の大王。普通のヤギじゃない。私が討伐した竜王よりはるかに禍々しい気配を感じる。絶対に圧縮してみせる!
と意気込んだもののまったく当たらない。
「参ったな。神によるとこいつは夜が明けると巨大な一角獣になるらしい」
それはやばいかも。アニメで見たベヒーモス? いやユニコーン?
「ノブさんは肝心なときに何してるんだ。ミオリ、僕がスマホを君に投げたら撃ちまくれ。僕を巻き込んでもらってかまわない。僕がやつを捕まえておく」
死んでもいいってわけ? やっぱりこの人、アンドロイドだわ。
――あらら? どうしたのかしら? 人間のお嬢さん。アタクシに手も足もでないようねえ?
どうして声が聞こえるんだろ。メーメー鳴くしか能がなかったんじゃなかったのかよ!
「お嬢さんじゃねえんだよ! このクソヤギ!」
私は怒りに任せて微かな光を頼りにファインダーに映るすべてを強制圧縮した。カメラ内臓ストロボは撮影時に光るだけだからアテにならない。それにこのカメラの連写速度に追いつかない。いうなれば曳光弾みたいなもの。
「全然、当たってないぞ! 僕を殺す気で撃て! ためらうな!」
ケンサクさんは大樹にもたれかかりながら、ヤギの角を引っ張っていた。彼のタイピンは赤く光っていた。ということは、懐にルナのタイピンが……。
「僕は問題ない! 君はタイピンが心配なんだろ!? 大丈夫だ!」
そう言うとケンサクさんはスマホを私に放り投げた。
《From 父上》
え、メール?
《着信履歴を見て驚いた。おまえの言い分は承知した。1万9100年6月19日をもって日本で運用開始になったイージスシステム「スポケーン」を発動する》
1万9100年? 西暦のことだよね。
「なにをぼやっとしている! 撃て!」
でも、撃ったらルナとヒナタ君のタイピンが……。
「何度も言わせるな! 早くしろ!」
ルナ、ヒナタ君ごめん! 私はいまを生きるから! 目の前で苦しんでいる人を見捨てられない!
唯一、確かに見えるのは赤く光るタイピン。私はそれをめがけてシャッターをひたすら連写で切った。
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